春の雷


雷がゴロゴロ鳴ると雨が降る。
雨が降りそうな匂いがすると、鬱々とするのは目の前にいるおっさん。
失敬、まだ20代だった。
司令部の中まで、雨の匂いが漂う。


今日は事件とか無いと良いなと思いながら、報告書のチェックを待った。
黒い睫毛が顔に掛かると、深く翳る。
本日は、部屋の明かりだけでは心もとないくらい外が暗い。
(こんな天気は夜より暗く感じるのは何故だろうか?)
黒って綺麗だなと思いながら、自分のチープな金髪を指で遊んだ。


ピカッと雷が青白い光を発すると、綺麗な後光が黒色を際立たせる。
きれいだなと見とれる。


オレはと言えば、持ち出し禁止の資料を頭に叩き込んでいる。
それからしばしば目を離し、綺麗な黒を見る。


あ、降り出した。
一斉に大きな音で雨が降り出す。
こういう日はつなぎ目が痛む。
もう、顔をしかめる事はなくなったけれど、気になる程度には痛い。
少しだけ肩と足を撫でて顔を上げると、心配そうな顔をしてこちらを見ていた大佐と目が合った。


「痛むのかね?」
「少し。」
「そうか。」


オレは、アンタの方が心配だよ。
雨降ってるし。
今日は、無能の日じゃん。
オレは、痛いだけだからいいけどさ。


「あんたは、平気?」
「何がだね?」
「雨。」
「そうだね。発火布が使えないね。」
「それだけ?」
「仕事をする気が2割り増しで無くなる。」
「それで、中尉に怒られる割合も2割増える。」
「そうだとも。」


痛くない。
痛くない。
強がりじゃないよ。


「じゃあ、怒られついでに、サボってしまおうか。」
「それ、いい。」
「何をしようか。」
「決まってるだろ?」
「それもそうだな。」


オレは机の上にのぼった。
勿論、書類を踏みつけないように。


「悪い子だな。」
「悪い大人。」


外は大雨で、雷もゴロゴロ。
本当は痛くて動くのも嫌な予定。
でも、予定は未定。
今は平気だ。


近くに落ちた雷にびっくりしたオレ達はおでこと口を思い切りぶつけた。
そして、2人で笑いあった。


おでこと口が痛かったけど、ちょっぴり幸せな痛さだ。
綺麗な黒が掛かるおでこにキスした。
整髪料の匂いが鼻を掠めた。
大佐の匂いだ。
静かに深く、息を吸い込んだ。
大佐が身体の中に広がっていくようだった。


顔を離すと驚いた顔をしている。
あ、オレからキスしたのって初めてだ。
それに気づいた瞬間、血が沸騰するのを感じた。
驚いた拍子に思い切り後に倒れて落ちた。


「は、鋼の…大丈夫か?」
「じゃな…い。」


起きあげられる時に軽くおでこにキスされる。
見上げると、お返しとばかりに嫌味な顔になっている。
悔しかったので、オレからキスしてやった。


「「こんな雨の日なら、大歓迎」」


多分、同時に思っただろう。
たくらみ顔をして、オレ達はサボリに徹した。
中尉の雷が落ちるまで、あと少し。 Copyright(C) min All rights reseved.