完熟


その日は朝から雲ひとつない晴天だった。
青色がまぶしい。
報告書を出しに行くのは億劫だが、こんな天気なら我慢も出来る。
弟を宿に置いてきたのは、旅先で見つけてきた蔵書を整理させるためだ。
いくら重いものも、平気で持つとは言っても、かさばるのだ。


「嬢ちゃん、桃が良い具合に熟れてるよ。お一ついかが?」
不思議と腹は立たなかったが、その匂いにつられて店主の言うままに桃を購入した。
司令部のみんなの分もと思い、袋いっぱいに購入すると、おまけと更にいくつか袋に突っ込まれた。
桃の香りがオレを包み、更に気分を良くしてオレは司令部に向かった。


「お、大将。おいしそうだな。」
「だろ?みんなで食って。」
「じゃぁ、中尉に切り分けてもらおう。」
オレは紙袋を少尉に押し付けて、その中のよく熟れた桃を一つ手に取った。
「大佐は?」
「執務室。」
「さんきゅ。」


オレは桃を大事に持ち、執務室に向かった。
よく熟れており、手のあとが付きそうなほどだった。


「大佐ー。」
「鋼の、ノックぐらいしなさい。」
「はいはい。」


オレはそのまま報告書を押し付けて、来客用のソファーにふんぞり返った。
そして、皮ごと桃にかぶりついた。
冷えていない桃は生ぬるくて、のどをツンと刺激した。
甘ったるいかおりを振りまきながら、その刺激を堪能した。


「桃か?」
「そうだよ。今中尉がみんなの分剥いてるから。」
「君は皮ごと食べるのかい?」
「なんか、我慢できなくてさ。」


そういいながら、腕にたれた果汁を舐めた。


「大佐も食べる?」
「そうだな。」


そう言って、大佐はソファーまで来てオレの腕を舐めた。
熟れきった桃は舐めとっても舐めとっても垂れてくる。


「君も食べごろか?」
「仕事しろ。」
「どちらにせよ、手を洗わなければ仕事にならんよ。」


オレ達は熟れた桃を食べた。







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