明日のオレと、明日のアンタ。
大体、見送りなんていらないんだ。 いつもの事だし、今までだって、ずっと断ってきた。 断れてた。 なのに、アンタは何でそうなんだよ。
そうだろ?
だって、アンタは仕事溜めるわ、こうやって抜け出たなら中尉たちは探すし、それに、あんたそんなコートも着ずに青い格好のまんまとか、肩の階級とか見えてるし、息切らせて走ってるし、頭とかぼさぼさになってるし、汗だらだし、30前だから体力もってないだろ?
なんで、来るんだよ。
「え?大佐?」 「…。」 「大佐!」 「ば、バカ。アル、呼ぶなよ。」
「え?だって兄サン…大佐!こっちです。」
キョロキョロして、だせぇ。 アルが呼んでんだから、気づけよ無能。
ああ、汽笛がうるせぇ。
「大佐!」
なんで気づかねぇんだよ。 こっち向け。
そっちじゃねぇ。 ぐるぐる回って、あ、アブねぇ。 だせぇ、だせぇ、ぶつかって、軍人が高階級がペコペコしてんじゃねぇよ。
余裕ねぇの、丸わかりだっての。
「たいさー!」
あ、躓いた。 足元くらい見ろよ。
あ…ぶねぇ。柱にぶつかるとかやめてくれ。 あいつ、なに大事そうに持ってんだ? そんなでかいの抱えてるから、足元危ないんだろ?
あ…あぶ
「大佐!!」 「え?兄サン、窓から出た…
大きな包みから、落ちるサンドイッチ。
ああ、無残にも踏まれていく。 汽笛がうるせぇ。 ぐちゃぐちゃ。 そんなもん、拾うなよ。 手ぇ、踏ま…いわんこっちゃない。
「何やってんだよ。無能。」 「君に、サンドイッチを食べさせてあげようと思ってね。」 「食えねぇよ。もう。」
「そうだね。すまない。」
かがんで、今もなお拾い続ける無能の前に立つ。 ああ、腹が立つ。 何しにきたんだよ。
みっともない、姿晒しにきたのかよ。 サンドイッチなんて、どうでもいいんだよ。 ほっとけば、駅員か、清掃係が掃除をするんだよ。
「何で来たんだよ。」 「だから… 「そうじゃなくて、見送りなんて、来たことなかっただろ?」
「昨日、君ははじめて見送りには来なくて良いと言わなかったからね。」 「バカだろ。」 「君もな。」
「なんで、オレがバカなんだよ。」 「列車、出てしまったよ。」 「あ!!!!」
オレは、その場にしゃがみこんで、汚れた無能の手を見つめた。 レタスがへばりついて、なかなか取れないらしい。
「君が、明日何をしているのか気になったんだ。」 「何って、明日はまだ移動中だろうな。」
「君は、私を忘れて次の目的地と眼の前の文献に意識を取られてしまうんだ。」 「まぁ、そうだろうな。」
「だから、私はサンドイッチを作ったんだよ。」 「何?これあんたが作ったわけ?」 「まぁ、自炊を始めて云年、これくらいは作れるさ。」
「へぇ。」
「例え君が私のことを明日、思い出さなかったとしても、明日くらいまでは私が作ったサンドイッチが君の体内にいると思うと、少しだけ救われる気がしてね。」
ソースだけが残ったタイルはなんとなく惨めだった。
更に惨めなのは、汚れた手で、これまた穴が開いて汚れた紙袋を抱えて、軍服までソースまみれで、何そうな顔をしている無能。
「泣くなよ。」 「泣きはしないよ。」 「バカ言え、今にも泣きそうだ。」
確かにオレは、アンタを思い出しはしないけど、アンタだってそうだろ?
「鋼の…」 「ん?」
「私は君の事を考えない日はないよ。」 「あんた、なにさらっと砂が吐けるようなこと言ってんだよ。」
「そうだな。今、このサンドイッチを食べたら、もれなく砂もついてくるぞ。」 「こだわるな。」 「もちろん。早起きしたんだ。」
オレはうれしくなった。 ああ、思われてるって、心地がいいな。 格好悪くても、なんでも、こういうコイツが好きだな。
勿論、言わねぇけど。
列車、どうしようか。 次のが出るまで半日もある。
「では、あまりのサンドイッチが家にあるが、食べに来るかい?」 「どれだけ作ったんだよ。」 「君への思いほど。」
まぁ、いいか。
明日のオレは、列車の中。 明日のアンタは、執務室。
別の場所だけど、アンタのサンドイッチ思い出してやるよ。
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