孤独の戦渦
私は気づいていた。
だから、彼を指揮官にという声を退けた。 だから、彼を私の下に置いた。 だから、私は見えなくなっていた。
だから、こんな現状を招いてしまった。
1個師団、敵陣に囲まれるなんて初めての経験だった。
私は、どうしようかと本当に迷っていたんだ。 このまま敵陣を突破しようにも、負傷した仲間のことを考えるとそれも叶わない。
「大佐。オレが行くよ。」 「鋼の?」 「オレが行ってくる。好都合だから。」
彼は、私が知っているということを知っていたのだろう。 だから、このような言い方をしたのかもしれない。
彼は笑っていたのだ。 こうなることを予想していたように。 こうなることを望んでいたかのように。
私は、彼に言葉を掛けることができなかった。
「オレが退路を開く。あんたにお願いがあるんだよ。なにもかも終わってからでいいんだ。ここへもう1度戻ってきて欲しいんだ。それで、そこにあったものをアルに、届けて欲しい。」
私はただ頷いた。 彼が何をしようとしているのか知っていた。 馬鹿なことはやめろとか、言えばよかったのだろうか。
でも、彼の行きたい道は閉ざされかけていた。 希望の片鱗すら見えなくなっていた。 それに私も絶望を覚えていた。
彼は静に微笑んだのだ。
「ごめんな。大佐。ありがとう。」
彼は駆けていった。敵陣の元へ。
練成陣の要らない彼は、その身一つで全てが叶う。 私は、馬鹿なことをしたのだろうか。 彼の弟は、こんなことをしても喜ばない。
「鋼の!」
私は走った。 彼を追いかけた。
「鋼の!」
見つけたときは正に手をつく瞬間。
「馬鹿!巻き込まれるぞ!」
「馬鹿は君だ!そんなことをしても喜ばれんぞ!」
「いいんだよ。オレ、間違ってるなんて思わないし、だって、あんたがこうして止めに来てくれたから。それだけでいいんだ。」
赤い光に包まれる彼。 私は手を伸ばした。 ドーナツ状に光るそれは、とても綺麗だった。
彼が纏ったその光はとても神々しく、私は必死に抵抗した。 躊躇いがちに伸ばされた彼の手を掴もうとした瞬間、その光はやみ、彼と共に消えた。
伸ばした腕はその光と共に消えてしまった。
「あーーーーーーーーー!」
痛みで叫んだのだろうか、彼が消えてしまったことについて叫んだのだろうか。 消えた私の腕は、彼に触れることができたのだろうか。
足元に転がった小さな赤い石を私は残る腕で拾った。 見渡す限り、何もないただの砂地。 消えてしまった。
血の滴る右腕をそのままに、私はそれを大切に抱えて戻った。 意識はほとんどなかったと思う。
次に気が付いたときは、医療班の救護テントの中だった。 放すことを知らない私の左手は、石を握り続けていた。
私は、泣くことができなかった。 確かに彼は、目の前で消えた。 焼きついた彼の笑顔。
至極幸せそうなその顔は今まで、見たことのないものだった。 でも、実感がなかった。
エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。 エドワード。
エドワード。 エドワード。 エドワード。
覆われた右目には彼が映っている。 焼きついた彼の笑顔。
ああ、救えなかった。 あの時、救うと決めたのは私だ。 こんな結果を望んだわけではない。 誰も、望みはしないのに…。
まだ言っていないのに。 彼らが全てを取り戻すことができたなら言おうと思った言葉。 大切な。 大切な、言葉。
言わせてはくれなかったな。
私は見える左目で、天井を仰ぎ、見えない右目で少しだけ泣いた。
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