Gについての考察
「アルー!!!あ、は、は、早く!」 飛び上がって逃げ惑う少年を鎧は見下ろしていた。
その形相、こちらに驚き恐れおののくならまだしも、少年は別のものに怯え、鎧に助けを求めていた。
「なにやってんの。兄さんが動くから、つかま…っわ。」 鎧からは少年の声が響く。
その形相に不釣合いなその声は、違和感をもたらすのだが、この両者の間にはそれも関係ないようだった。 大袈裟な金属音が鈍くこだまする。
ここは閑静とは言い切れないが、それなりに静かな民宿。
隣は人が泊まっていないため、苦情が来ることは無かったが、下の階からはもしかしたら苦情が来るかもしれないと、鎧は危ぶみながら、落ちた頭を拾った。
少年は暴れに暴れて鎧に激突し、気を失ってしまったのだ。 頭を元に戻すと鎧は天井を見上げると、金属の擦れる不興音に機嫌を悪くしていた。
きしむ鎧の中身は空っぽだた。 「うーん、どうしようか。」
天井を何食わぬ面持ちで走るそれを、なんとも優雅な存在だと、鎧は見とれてしまった。
重力に逆らい、天井を歩くその姿は、特別な存在のように感じていた。
しかし、少年が目を覚ませば、また大騒ぎすると思うと、面倒くさくなり少し背伸びをすると届く低い天井を這うそれを捕まえた。
処変わって、民宿とは打って変わった清潔な空気を纏った執務室。 しかし、ここでも大惨事が繰り広げられていた。
「ちゅういーーーーー!!」 「ですから、それだけ暴れまわられると、捕まえられるものも捕まえられないのですが。」
大の大人、それも、街を歩けば女性はみな振り向くと豪語するその顔を引きつらせながら、男は逃げ惑っていた。
女は大きくため息を漏らすと、床を我が物顔で縦横無尽に走り回る目標物目掛けて、丸めた新聞紙を振り下ろした。
「でかした!中尉。ハボック達に見られたのなら、笑いの種になりかねないからな。」 安堵と賞賛。
男の変貌に女はまたひとつ、大きくため息をついた。
「そうだな、やつを見るとクソ大佐を思い出して、虫唾が走るんだよ。」
少年は誇らしげな顔をして、鎧の肩を何度も叩いていた。 「よくやった。わが弟よ。」 鎧は、その身体の中にため息を溜め込んでいる。
普段からは想像もつかないその姿は、微笑ましくもあったが、理由が理由なだけに返す言葉も無かった。
「あれだ。あの黒光り。あいつの髪の毛を思い出すんだよ。」 そういってしまったが最後、少年のつま先から頭のアンテナまで鳥肌が立った。
「思い出したら、気味悪くなった。安宿は駄目だな。」 そう言うと、布団にもぐりこんであっという間に寝息を立て始めた。
暴れ疲れたのかと、鎧は少年の寝顔が子憎たらしく思い、頬を軽くつねった。 ちょっとやそっとじゃ起きない少年は、もろともせずに寝入っている。
「あのちょこまかとして、我が物顔なところが、鋼のを思い出して、虫唾が走るんだよ。」 男は言い訳がましく、女に伝える。
「そんなことは、どうでもよろしいので、早く書類にサインをしてください。」
女は、男が走らせるペンの音が、男の苦手とするものと同じ音を立てていると思いつつ、そ知らぬ顔をした。
この男にも苦手なものがあるのかと、安堵の笑みを漏らしたのを男は見てはいない。
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