忘却による焦燥
あれから何年経っただろうか。 オレの元いた世界が夢のように思えてきだしてから、何年たつだろうか。
こちらの世界に来てしまってからの方が、長い時間が過ぎている。 時折思い出すあいつがどんどん霞がかってきている。 黒い髪。
切れ長の黒い瞳。 黒い髪は確か、目までかかっていたように思う。 切れ長の瞳に沿った、形の良い眉。 鼻はどんな形だっただろうか。
口元は? そういえば、童顔を気にしていた気がする。 身長はどれくらいだっただろうか。 オレもそれなりに伸びたからな。
主観から行くと、あまり変らない身長になっている気もしないでもない。 ああ、あいつの片目は眼帯が覆っていた。 そうだ。
声はどうだっただろうか。 低い軽いトーンの声。 ああ、もう一言分しか思い出せない。 皮肉なオレの名前だけ。
写真も何もない。 記憶の中だけのあいつ。 美化されることもなく、ただ薄れていく。
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