「はじめまして」と、こっちが下手に出たはいい。
あたり前だ。こっちは雇われる身で、あっちは雇い主。
自己紹介などは必要ないのは知っている。
お互いあらゆるルートで互いのことを調べつくしている。
まぁ、調べられる程度のことだが。
容姿端麗眉目秀麗あとなんだ?
世界中にある形容詞を集めても足りないような人間がこの世にいるなんて、はじめて知った。
あれだ。鏡を見て、自分が美しいとか言っても、ナルシストなんて言葉が似つかわしくない。むしろ当然の感想なんだろうなと思うような顔がそこにあった。
写真で見ても、驚いたが、生はそれなりの迫力があった。
そんな第一印象からとうてい似つかわしくない言葉…もっともオレが毛嫌いする言葉が発せられた。


「小さいな。大丈夫なのか?」


軽く殺意が…いかん、こいつの命を守るのがオレの仕事だった。












黒猫の用心棒

教訓1〜確かにもったいないとは思うけれど、生ゴミはあさらないように!〜













この不景気の世の中、自分の身を守るのにもケチになったか、オレのような仕事は完全にお役ごめん状態になりつつあった。


元殺し屋
元スパイ
元暗殺部隊


どれにも属さない根っからのBGだったため、なかなか求人に応募したところで受かることはなかった。
仲間内の面々はフリーだったり、雇い主がいたりで、それなりに食いつないでいる。
その元締めのオレの弟は怪訝そうな顔をしていた。
「兄サン、この数ヶ月まともな仕事してないようだね。働かざるもの食うべからずだよ。」
若干14歳にして、BG業界屈指のやり手。オレの弟…びっくりする。
「受からないものは仕方ないだろ。」
実技試験まであるものはいい。大抵書類選考で落とされる。
身長か…身長が原因なのか!!
「牛乳飲まないから…」
エスパーか、我が弟よ。思ってることが筒抜け…というか単に感がよすぎるのだ。それが、BG業界屈指たる所以。


「フリー募集じゃぁ、いつまでたってもダメだね。こうなったら、専属を探すしか…」
書類を眺めながら、嫌みを言っていた弟が突然だまり込んだ。
そして突然の破顔一笑。
「兄サン。身長制限ないよ!」
身長制限…やはりこういう仕事柄、体格の良いヤツが募集対象。
オレの身長は…いわずもがな。


書類選考に通った時は祝杯を挙げた。
オレの兄貴分(元陸自精鋭部隊)のバボックやお姉さんのように慕ってる(元某国諜報部暗殺班)リザさんは一緒に祝ってくれた。
一方、法外の報酬が気になっている様子の実の弟のアルは、依頼主の身元を洗いざらい調べている最中だった。


「アルさん、大丈夫ですって。マスタングといえば、相当有名な華族じゃないですか。」
オレ達の間では、そういう貴族流れの金持ちやそういったあたりを華族と呼んでいる。
「にしても、おかしいんだよね。これだけ凄いヤツが募集要員1名、報酬月額2万センズ。家についてるものだよね?こういう華族様って…」
まだ顔中に疑問符を浮かべて悩んでいる。
報酬月額2万センズには、いささか法外さも感じるが何か特別な理由があるのは、あたり前だ。こういう世界な訳だし。訳ありあたり前!
「大丈夫だって、実技があるなら、落ちる心配はない。」
全員の視線がオレに集中。
「誰も、そういう心配をしてるのではないんだけど…」
リザねぇは肩を揺らして笑っている。
「大将は大丈夫ですって。誰よりも強くて賢い。欠点は身長だけですから。」
一言多い。
リザねぇはとうとう、声を出して笑っている。


二人はやさしい。
かけなしにやさしい。
BGはオレ達の親の家業で、その時からいた彼らは本当に幼い頃から世話になっている。
親父と母さんが殺された時も必死に守ってくれたし、再興できたのも彼らの後ろ盾があったからだ。
今や200人の大所帯となってはいるが、はじめは4人ぽっちだった。
アルの手腕や、まぁ、色々と評判になりここまで大きくなった。
オレは、見事にそういう経営的なものの才能はなかったらしく、ハボックやリザねぇに鍛え上げられて才能を認められ、こうして仕事をしている。
ちなみに、12歳くらいまでは引っ張りだこだった。幼い外見をいいことに、スパイ活動・諜報活動・潜入活動と、仕事は山のようにあった。
それもその頃まで。いまや仕事はからっきし。自分で言うのも情けないが、幼い顔立ちそして、この身長。しかし、完全な子供というとそうでもなく…。中途半端な形で今に至る。
爆弾作ったり、解体したり、薬物検査したり、薬物作ったり。そういう仕事の依頼も頻繁にあるが、基本的に一回コッキリ、低報酬のため、なかなか食いぶちとはいかない。
ちなみにそういうのに関してはこの界隈1番だと自負している。頭は…良いと思う。
天は流石に1持つも2持つも与えないか。
確かに、身長以外はパーフェクトだ。
ナイフ系の体術はハボックに劣るものの、身長さえあれば結構いけるのではないかと思うし、重い銃はもてないけれど、命中率・早打ちはリザねぇのお墨付きだ。


実技試験があるものかと思っていたが、そんなものはなかった。
試験会場だと思ったところは山奥の絢爛豪華な豪邸で、中に招き入れられると、着替えを要された。
仕方がない。実技試験だと思ったんだ。パーカーとジャケットそしてジーンズ。ラフな格好ですみません。
着替えた格好は黒のスーツ首にはリボン帯。シャツ以外全身黒尽くめ。
サイズはなんとぴったりジャスト!と思ったが、どうも少しだぼついている。
(それは、あれだ。履歴書の身長を3センチばかり水増しして書いたからだ!)
そのままお待ちくださいと品の良い…執事だろうか?がお茶を持ってきてくれた給仕と共に出て行った。
周りには誰もいない。
俺一人。
正直不安だった。
20分目にお茶に手を出した、癖か薬物キッドを鞄から取り出して調べる。ピルケースぐらいのサイズに入る簡易版だが、オレが独自に編み出した薬物検査やくだ。大抵の(オレの知っている)薬物は全て反応する。
30秒後。
薬物は検出されず。
まぁ、こんなところで選考者を殺してどうするなどと思いながら、お茶を飲んだ。なんのお茶とかはわからないが高級な匂いがした。


小気味の良いノックの音と共に、執事らしき人が入ってくる。
「お待たせして、申し訳ありません。もうじきロイ様がお会いになられます。」
時計を見ると、1時間近くたっている。
「その前に、色々とご説明をさせていただきます。」
いよいよ、実技試験の内容かと思ったが、予想外も甚だしかった。
「期間は3ヶ月。延長もあります。その場合は、3ヶ月毎で契約更新。1年以上の延長の場合は、次年から1年毎の契約更新になります。はじめの3ヶ月は、月額2万センズ。延長の場合は、延長金10万センズに、月額2000センズが。1年以上の延長の場合は、延長金50万センズに、月額2000センズが支給となります。」
オレの顔はたぶん、生きてきた中で最も間の抜けた顔になっていたと思う。
「今から、実技の試験では?」
「そんなものはございませんよ。書類選考であなた様お一人しか選ばれていないというのに、振るいにかけるものもございませんが…」
書類選考で、オレが合格?金額から言って応募したのは2桁ではすまないはずだ。なんたって、オレのところからでも、十数名受けている。
「続けてよろしいですか?」
「あ…はい。」
唖然。
「基本的に休日はございません。はじめの3ヶ月はロイ様の身元を離れることは許されません。更新時、3日間ほど休日が与えられます。契約更新の度3日ほど。1年以上の場合は然り。」
ということは、1年以上の契約延長の場合は、1年に3日しか休みが無いわけですね。
「面会は基本的に禁止です。肉親の類も禁止です。電話は認められていますが、会話の録音・暗号解析にかけさせていただきます。」
恐ろしい、ということは、リザねぇの手料理やハボックと遊ぶことが出来ないし、ましてや、唯一の肉親の弟にも会えないということか。
なるほど。コレだけの悪条件、2万センズは安くない。
基本的にBGは2交代か3交代だ。24時間つきっきりとは言っても、休みだってキチンとある。
電話だって、特殊回線を使えば秘匿で大抵の所には掛ける事だって許されるのが普通だ。
BGたるもの、やすやすと主人の秘密を口外することはない。
ましてや、暗号だってやすやすと解かれるような暗号は使いはしませんよ。オレを誰だと思っている。


「持込物は一度全て回収させていただきます。それから、検査してお返しします。衣類は全てこちらで用意させていただきます。週に1度身体検査をいたします。体内の金属物を調べますので、医療的に何かをしている場合は、診断書とレントゲンをご用意下さい。それを判断した後に再度レントゲンを取らせていただきます。」
徹底振りには正直笑えてきた。
採用されても、来たくないなと…帰りたくなってきた。
「寝所も一緒です。警備班が扉には立っておりますが、念のためです。1日の休憩時間は1時間とさせていただいています。主に、トイレとバスタイムです。」
本気で帰りたい。
交代人員がいないのが確実におかしい。
軽いノック音とともに、失礼しますと可愛いメイドさんが入ってきた。
「ロイ様が部屋にお通しするようにと。」
「では、参りましょうか。」




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