俺が金猫だったら、あいつはさしずめ黒猫だ。
この金の髪の毛が好きではないので、嫌みのようにも聞こえる。
アイツみたいなキレイな黒髪のほうが絶対いいのに。


日中、見事にアイツは部屋から出なかった。
屋敷の、本当に中央にあるアイツの部屋は見事に1度も扉が開けられることなく夜を迎えた。
「執務中は気が散るので中に入らないように。内容を見られるのも困るしな。」
執事さんと3人で、契約の大幅な見直しをしたのが朝食時。
まぁ、あれだけよく口が回ると思う。ぺらぺらとしゃべり続け、執事さんもそれを見事にメモしていた。
流石に「私が抱きたい時に抱きたいだけ君を抱く。」発言はここではなかったけれど、聞けば聞くほど俺は必要ないのではないかと不安になってくる。
体裁のため、雇ってはみたけれど、やっぱり必要ないなどといって追い出されてしまっては、弟と喧嘩別れのような形で出てきた甲斐がない。送別会をしてくれたジャンやリザさんに合わせる顔がない。


作り直した契約書を持ってきた執事さんに思い切って相談すると、意外な返事が返ってきた。
「存じております。これは内緒ですが、前からあなた様を探しておられたのです。はじめは女性と勘違いされていたようですが、それでもあなた様にご執心なご様子です。」
「禁欲生活ですか?確かに、少々語るのに憚られる内情がございまして、ここで全てお話しするわけにも行きませんが、確かにこの5年間どなたも抱いておられないのは事実です。扉に監視カメラがございますので、使用人でさえ、易々とはご主人様の部屋に入ることはできませんので。」
「ああ、そういう意味でしたか。失礼しました。そうですね。私などは、女中の中に妻がおりますので、なんともご主人様の心中をお察しできませんが、相当辛いものではないでしょうか。」
「娘が一人おりますが、生まれてすぐ里子に出しました。ご主人様の言いつけです。ここで育てば外界を知ることなく老いていくしかございませんから。」
「あなた様を知ってから、坊ちゃま、いえ、ご主人様はたいそう明るくなられました。以前は、機械のような方で、感情をあまり表には出されない方でした。わたくし共使用人にも滞りなくやさしく、おおらかで、愛していらっしゃるのは身に染みて感じることができるのですが、何かを我慢されているような、耐えていらっしゃるような。そのような方でした。うれしく思っているのです。あなた様が来て頂けた事を。どうか、ご主人様を様々な面でお守り下さい。」
執事さんはオレの拙い質問にゆっくり丁寧に答えてくれた。
BGって、ただ単に命を守れば良いっていう感覚だったけど、ここでは違うようだ。
フリー以外でBGに付くのは初めてだったけれど、他の奴もこうやって、主人を守っているのだろうかと思うと、大変な任に就いてしまったと、事の重大さに焦った。
ここは閉鎖された空間で、屋敷を出ることができない。それはなぜかは知らないけれど、きっと何か重大なことがあるようだった。


オレは悩みに悩んだ。
どうやってあいつを守るか。外からの危険だけからではなく、アイツの中にいる危険からも守ってやらなくてはならないのだ。
どうするか。
でも、とりあえず、オレは自分の貞操を守らなければならない。
帰ってきた、日用品を漁った。


呆気にとられたアイツの顔は面白かった。
すかした顔しかできないと思っていたので、見ものだった。
しかし、意外な反応。
強行突破でもしてくるかと思いきや、あっさりした反応だった。
シグさんに頼まれたサンドイッチを届けてやった時なんかは、「今日は抱くからな。」などと意気込んでいたのを危惧したにもかかわらず、こっちが勘違いをしたように恥ずかしくなった。
耳年増のオレとしては、男同士でする方法なんかも知ってるわけで、掘られてたまるかという意気込みを挫かれてなんだか、ムカムカしていた。
期待してた?同情?
そんなものはない!
けれど、執事さんのことを思うと、何かしてあげたい気持ちになるのは確かだった。
昼間にも色々考えたのだけれど、やっぱり一人で抜くよりは、人にしてもらったほうがいいよなという結論に落ちついたわけだが、掘られるのは嫌だった。
10000歩譲って、口ならと思い立ち、進言するがあえなく却下。
本当に何もしないと言ったのは本当で、何もなかった。


寝しなにアイツと話すのは面白かった。
「表の警備員?あれは人形だよ。」といわれた時は思わず部屋を飛び出して確認した。
恥ずかしい。何度尊敬の念を抱き、会釈したか!
「よくできているだろう。定期的に肩を動かしたりするプログラムが入ってるんだよ。」
どうみても本物にしか見なかった。これで、話しかけて返事でもしたら本物だ。


事件は次の日に起こった。
暇をもてあましてるオレに初めての呼び出しがあった。
「エド、2日後が君の初仕事だ。」
初仕事に浮かれるオレだったけれど、それよりもアイツは浮かれていた。
人を殺すのは嫌いだった。いくら、トリガーを引くだけの銃でも、殺した感触は残るから…。
殺さないでくれと言われたのは初めてだった。
命を狙われ続けると、そういう感覚に疎くなると聞いたことがあるがアイツは違うようだった。


初の外出でテロに巻き込まれそうになるなんて、運の悪い奴だと思ったが直接狙われたわけではないとわかって安堵した。
爆弾がオレの作ったもので、テロリストの単純な思考が読めたのが幸い、未遂に防いだ。
幸い爆弾も回収できた。実はあの中には人には見せられないものが入っていたのだ。爆発するからと高をくくっていたからいけない。爆発しない危険性もあることを知った良い機会のように思えた。
なんせ、あの中には、オレが幼馴染の女の子に当てたラブレターなるものが入っていたからだ。
人に見せられたものではないので、一番安全な確実な方法で処理したかったのだ。
帰宅後すぐに爆弾を解体し、ラブレターを暖炉の中に入れて燃やした。こっちのほうが確実かと自嘲した。
弟のことが好きなのはうすうす気づいていた。でも、認めたくなかった。それだけだ。
別に、未練を断ち切るために爆破するなんて考えたわけではない。


そういや、オレ失恋したのに案外平気だ。
理由は簡単。
アイツと、この新しい生活が気に入っていて、すぐさま立ち直ったということだ。


アイツが何に苦しんでいるのか気になった。興味がわいた。
断じてオレは男色かではない!
が、アイツに抱かれてもいいかなと考えていた。











黒猫の用心棒

教訓3〜缶詰は確かにおいしいと思います。でも、わかめの味噌汁をご飯にかけたものには敵いません。〜












どうして、女を呼べないのか、数いる女中を部屋に呼ばないのかを考えたら不思議な気持ちになった。
あの顔だ。もてないとも思えないし、使用人の信頼も無駄に厚い気がした。
オレとしても興味がないわけではなかったし、どうせなら女の子としたかったし、と、色々な思いをめぐらせたが、報酬からいっても、身を売るぐらいさして問題ない気がした。


「…、すまない。よく聞こえなかった、というか、理解ができなかったのだが…」
2度と言うかバカヤロウ。
枕に顔をうずめると抱きしめられた。すっぽりと腕の中に納まってしまった自分が不憫だった。
大切なものをやさしく抱きしめるようにも思えたけれど、力強く抱きしめられているようにも思えた。
お互い何もいわない。
口を開こうにも枕で顔を抑えているので、満足に呼吸もできていない。
それなのに、なぜだか心臓が大きな音を立てだした。苦しいからなのだと言い訳したが、それこそ苦しい言い訳だった。
満足に呼吸はできないといっても、これ以上苦しい事もあったし、それに比べれば普通に呼吸しているのと大差ない。
心臓がいつもより活発に活動しているから、苦しいのだ。
耳元に呼吸を感じた。全身が心臓になったようにどきどきしているのを感じた。
顔が赤い…と思う。まくらに顔をうずめておいて正解だった。
「すまない。」
と、言葉を発したアイツは静に離れていった。
「?」
なんだよ。抱きたいっていたのはアンタだろ?なんだよ、すまないって。
オレの一世一代の決心を無駄にするきか?
風呂にだって念入りに入ったんだぞ!
「君を抱きたいのは、変わらないけれど、恐くなってね。」


ああ、これか。
無意味な自制心。
無意味な加護心。


「オレは、アンタに抱かれたいんだ。オレの一世一代の決心を無駄にする気か?悩んだんだぞ、悩んで悩んで悩んだんだ。抱きたいってあんた、言っただろ?」
まくし立てるように言うと何かがスッキリした。
枕を捨ててアイツに抱きついていた。
「エド?」
「オレ、アンタを守りたいんだ。」
抱きついた胸板が以外に広くて、回した腕が届かなくて、…なんだか情けなくなったけれど、本心だ。
コイツを守りたいと思った。


相性の良い会話も、相槌も全てが気に入っていたから。


「本気にするぞ。」
オレが嫌みを返すまもなく口を塞がれた。
初日にしたものとは比べ物にならない執拗な感触。
嫌ではなかった。
心臓が壊れそう。
頭の芯がぐらぐらしていくのを感じながら、キスに応じた。
息継ぎもきっと相性が良いのだろう。苦しいけれど、苦しくなかった。


「恐いか?」
酔っているオレに問いかける姿は不思議と恐かった。
これからすることに対してなのか、こいつになのかはわからなかったけれど、なぜか恐かった。
聞くほど、恐がっているように見えたのだろうか。
「恐くない。」
嘘をついた。
恐かったけれど、心臓が頭がおかしくなりそうで恐かったけれど、恐くないといった。
恐くないといわなければならない気がした。


足がふらふらして歩けそうになかった。
それを察してか、抱えられた。
「重い。こんな重いオートメイルを付けてたら身…」
思わず顔を殴ってしまった。
軽く殴ったつもりだったが、少しよろけられた。
「失敬。禁句だった。」
確かにオートメイルは重い。足と腕。外した時のオレの体重の半分くらいの重さがあると言っていた。
これ以上軽くすると、耐久性がなくなるらしい。
大人がつける分には問題がない重さであるのは確かである。
「次は右手で殴る…。」
しゃべりにくい、恥ずかしかったし、なんだかふわふわしていた。
心臓がおかしい。




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