「止めてと言っても止めんぞ。」
「お、おう。」
今すぐ前言撤回して逃げてしまいたかったが、ここで止めるなんて男が廃る…?
あれ?オレ、女役だったっけ。
そうか。オレが女役か。
「あのさ、オレが女役?」
一瞬固まって、笑い出した。
「そうだな。男同士だったな。忘れてた。」
俺もつられて笑った。
それって、どういうことだよと心のそこで突っ込んだ。
広いベッドが今日は更に広く見えた。
二人で寝るには広すぎる。ましてや、一人で寝るには寂しすぎる。
「女性でも、そこが好きなのがいたよ。大丈夫。」
何が大丈夫なんだか。
下手に笑いあってしまったため、妙にかしこまってしまった。
お互いベッドの上でかしこまっている。
「お願いします。」
「こ、こち、らこそ?お、お願いします。」
軽いキス。
また、軽いキス。
物足りない気がした。
また、軽いキス。
物足りない。
また、軽いキス。
顔をかがめて、少し距離をとる。
不思議そうな顔をされたが、多分オレのほうが不思議そうな顔をしているだろう。
「もしかして、緊張してる?」
そう聞くと困った顔をした。
「勝手がわからなくてね」
「女の扱いと一緒でいいよ。面倒くさい。」
「いや、それはいいんだが、初めてというのが初めてで…」
納得。確かに実際問題、どうしたらいいのかオレにもわからない。
突っ込む場所も突っ込まれるものも知っているが、そのプロセスというか、知らない。
お互い笑った。
そして、キスをした。
そういえば、枕を落としたままだ。
他人の重さを肌で感じた。
すっぽりと納まってしまう自分に少々嘆いたが、この方が都合がいいような気がした。
まだ、服は着たままだけれど、密着している部分が熱くて、それだけでドキドキした。
柔らかいベッドを背中で感じるより、重なった体が気持ちよかった。
頭を柔らかくなでられる。心地良い。大きな手に包まれているような錯覚に陥る。
服の上から、優しくなでられる。
成すがままのオレは、緊張して動けない。
動いたほうがいいのかなと思いながら、目を合わせると笑ってくれた。
申し訳なかったので、首に腕を回してキスをした。
(オレからするなんて!雰囲気に流されただけだ!)
夜の静かな空気の中で舌の絡まる音が響いた。
もしかしたら、廊下まで聞こえてるのではないのかと危ぶんだが、廊下に立ってるのは人形だ。
「傷口、見てもいいか?」
オレの身体は傷だらけだ。
見て気持ちがいいものじゃない。
特に肩は色が変色していたりと、自分で見ても気持ちが悪い。
「駄目じゃないけど、気持ちが悪いよ。」
「じゃあ、変えよう。私が見て、君は平気かい?」
こう聞かれたら、平気と言うしか無いじゃないか。
「平気だよ。あんたが平気なら。」
オレを全部見せるからさ、あんたもオレに全部見せたらいいよ。
そしたら、オレが全部守ってやるからさ。
オレがあんたを守ってやるからさ。
大きく開いた襟から傷口を触る。
そして、やさしくキスをする。
そして、傷をたどる。
この腕がオートメイルじゃなくて、生身の腕だったらもっとあんたを感じれた?
あんたは、やさしいから…
こんなオレでも好きだって…
好きって言いすぎだろ?
可愛いって、男に向かって可愛いとか言うなよ。情けなくなるじゃん。
でも、あんたの声で好きって言われるのも、可愛いって言われるのもむずがゆくて好きだな。
ああ、だんだん恐くなくなってきた。
むしろ、あんたが近くにいるのが安心する。
あんたの体温、呼吸、声…
「恐いか?」
「もう、大丈夫。」
今度は作り笑いじゃないよ。
こういうやさしいところが好きだな。
声も好き。
低いトーンの声。
耳障りがとてもいい。
でも、耳元で聞くとぞくぞくする。
手も好きだ。
大きな手、細い指。
指を絡ませると、自分の手の小ささに情けなけなくなるけど…。
髪をやさしく梳くときの感じも好きだ。
体温も心地いい。
湿った体温がとても気持ちいい。
でも、この黒い髪はもっと好きだ。
サラサラしてる。
身体に当たるとくすぐったい。
ちょっと硬めの髪。
なんか、オレばっかり気持ちよくていいのかな?
身体がクリームみたいにとろとろになっていくような…
このままあんたに解けてしまえばいいのかなぁ?
目で了解しあって、キスで確認して…
大丈夫だって、オレ痛いの平気だもん。
途中でやっぱり駄目なんて、言わないよ。
少しだけ恐くなったのは秘密。
オレがちっぽけに思えたんだ。
あんたが大きく見えたんだ。
すっぽりと包まれる…不安なんて、ないはずなのにな。
おかしいな。
ああ、恐いよ。
息ができない苦しさと、今まで感じたことのない痛みが体中に走る。
オレ、我慢するよ。
だって、あんた今凄く幸せそうな顔してるしさ。
オレが我慢するくらいならいくらだってするよ。
オレ、あんたのBGだもん。
オレ、あんたをすっぽり包めるぐらいになりたいよ。
痛いけど…、痛いけど、もっと近づけてるのかな?
執事さんも言ってたけど、我侭だって言っていいんだぜ?
みんなそれを待ってるんだ。
みんなあんたが好きなんだ。
あんたは何に怯えてる?
オレが側に居てやるよ。
でも、痛いな。
痛くないって、言っても痛いよ。
でもさ、あんたの幸せそうな顔見てたから、我慢できたんだぜ。
オレはあんたに、ちょっとは近づけた?
その夜は珍しく夢を見た。
暗い、暗い真っ暗な森の中で声がする。
声の主を探しても探しても見つからない。
誰の声かわからなかったけれど、知ってる声で、急いで見つけなければいけない気がした。
森は暗いし、足元も見えない。
こけるし、ぶつかるし、体中怪我だらけで痛い。
でも、声の主を見つけなければいけない。
月明かりのさす湖と出逢う。
湖の女神様はリザさんそっくりだった。
声の主はどこにいるのと尋ねると、まだ足りないと教えてくれた。
何が足りないのかわからなかったけれど、何かが足りないんだと納得した。
コロボックルの行列と出逢う。
その一人はハボックそっくりで、声の主はどこにいるのと尋ねると、足りないから駄目だよと言われた。
何が足りないのかわからなかったけれど、何かが足りないんだと納得した。
アルそっくりの妖精は、足りないのに逢おうとするなんて無謀だねと言った。
足りないものを探した。
声は森中にこだましているのに、どこにいるのかわからない。
何が足りないんだろうか。
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