起きると体中が痛かった。
それよりも、首が痛かった。
腕枕って、気持ち良くない。むしろ痛い。
「おはよ、エド。」
「………。」
寝顔をずっと見てたのか?悪趣味な。
「お、おはよう、ござ、ます。」
声がうまく出ないのはのどが渇いてるから。
どうしてこいつはこんなに平然としていられるのか不思議だった。
そうか!突っ込まれるほうと突っ込むほうの違いか!!
身体を起こそうにも、身体が鉛のようで思うように動かなかった。
とにかく、首が痛いので、うねうねとおかしな動きで腕枕の拷問から離れた。
離れると、向こうも腕が痺れていたのか軽く動かしている。
あいつは、さもいつもの朝のように起き上がり、軽く背伸びをしている。
枕元に置いてあったミネラルウォーターをオレに差し出して、おでこにキスをする。
うまく身体が起こせないことを目で訴えると、抱えてくれるのかと思いきや、口移しで飲ますと言う荒行を見せた。
ほどよく冷たく、喉を通るのが気持ちよかった。
幾分か身体が軽くなったように思ったが、それでもあちらこちらで鈍痛を感じる。
「身体、痛いのか?」
「あたり前だ。」
困った顔をして、すまないと謝られると昨日の痴態を思い出し、全身で火を噴く思いがした。
「でも、そろそろトイレに行かないと、お腹が痛くなるかも。」
なんで?と問い返すと、更に困った顔をした。
アイツは応えずにオレを抱えると、トイレに連れて行った。
抱えられ方に問題があったけれど、暴れる気力もない。
便座に丁寧に座らせ、扉を閉める。
全裸で座っている俺は滑稽に思えたが、そういえばハボックは全部脱ぐと言っていた気がした。
「おもいきり君の中で出してしまったんだ。申し訳ない。次からは気をつける。」
扉の向こうで申し訳なさそうな声がする。
次があるのかと安堵した。
?
安堵?落胆の間違えではないか?
太ももを見ると、乾いた精液がこびりついている。
そういうことか。
ため息をつくとどうしたものかと天を仰いだ。
身体は最高潮に痛い。
体調が悪いと、夕方まで自室で臥せっていた。
執事さんは事のなりを理解したのか、そっと軟膏をサイドテーブルに置いてくれた。
ありがたかったが、次ぎ会うときにどんな顔をすればいいのか悩んだ。
ベッドで大人しく寝ていることができたなら、夕方には回復する予定だった。
しかし、うまく出せなかったのか腹痛も重なり、トイレとベッドの往復が続き、体力的に限界だった。
夕方になると、身体の痛みも腹痛もどうにか治まった。
こんな日に何かあったなら、オレは役立たずもいい所だと自嘲した。
何を守るのがBGの仕事なんだろう…
高い天井がぐるぐる回っているように見える。
そうとうきてるようだ。
動かすとギシギシ音がしそうだったけれど、胃袋が食べ物を求めていた。
いつものように食事をしにいくとあいつもいて、ぎこちない顔をこちらに向けていた。
「もう、大丈夫なのか?」
「平気。」
嘘。
身体は平気だったけれど、あいつの顔を見た瞬間顔が赤くなったと思う。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、穴があったらもぐりたい気持ちになった。むしろ、掘ってもいいので、入りたかった。
幸い、テーブルの端と端。
初めてこの無駄に長いテーブルに感謝した。
食事が思うように喉を通らない。
いつもなら、足りないくらいなのに…
「食欲がないな」
「そういう、訳では…ないんだけど」
顔を上げるとすぐさま目が合う。
不自然すぎる勢いで視線をそらす。
一緒に食事をするといつもそうだ。オレの顔をじっとみてる。
普段は気にも留めないことだけど、今日は視線を感じただけで、そこにキスされているような…
オレって淫乱?
マジで?
食事の後は、気分を落ち着けるために銃の点検をした。
身体はまだ痛かったけれど、何もしないよりは落ち着くはずだ。
前回装備したのとは別にかなりの量を持ってきている。
オレ専用にサイズをあわせてもらったものや、自分で改造したものなど、全てを持ってきた。
全部で21丁。
仕事の内容によって変えることはリザさんが教えてくれた。
場合によっては、手近にある銃でも撃つことができないと駄目だと、種類も豊富に揃えてある。
12時まであと、2172秒。
銃の形状というものは似通ってはいるが、照準を合わせる位置なんかはまったくといっていいほどバラバラだ。
合わせる位置は一つなのだが、弾道というものがある。
近距離ならさして問題はないが、遠くにあるものを撃って間接的に攻撃する時なんかは、銃慣れしていないとすぐさま撃つことができないのだ。
シャンデリアの金具を落とすとか、照明の配線を狙ったりする芸当はオレにはまだできないけれど、そのうちリザさんのようにできるようになればいいなと思っていたりする。
せいぜい、グラスなんかのガラス製品を割るくらい。
それでも、体勢悪や急な対応の場合の中で撃ちきれる奴なんてそうそういないと…思う。
軽く撃つまねをして体勢を変えた瞬間、下半身に激痛が走った。
流石に切れ痔などという恐ろしい状況にはなってはいなかったが、腰が、足の付け根がかなり悲鳴をいまだに上げていた。
残り1328秒。
風呂には入った。
体中に赤い発心のようなうっ血した痕を見た瞬間、いたたまれなくなった。
特に、腕の傷口の周りに多い。
このぶんだと、背中も相当の数があるだろうと危惧してみたが、見る勇気がなかったので闇に葬ってみた。
昨日と同じように、無駄に意気込んでみる。
流石に今日は何もないと思う。
そのはず。
何を期待しているのか、鳥肌が立った。
オレってマジで淫乱?
残りジャスト200秒。
枕を抱える。
ここのねまきは足首まであるワンピースタイプのものだ。
着るものは全てこちらでと、下着から全部支給品だ。
初日は流石に足元がスースーして落ち着かなかったが、流石に慣れた。
それが、今日に限って心許ない。
昼間は何があろうと、白シャツ、黒スーツにリボン帯。よく考えてみると、どこかの学校の寄宿舎のように思えた。
アイツの…趣味か?
ため息。
残り30秒。
部屋を出る。
隣の部屋なので、2秒と掛からずにノックできる。
部屋を出ると、執事さんがブランデーとチョコレートの入ったお盆を持って立っていた。
「こ、こんばんは。」
事の成り行きを全て知っているだけ、どう接していいか、こっちが困る。
ああ、穴があったら、入りたい。
むしろ掘って入りたい。
「こんばんは。もう、お休みですか?」
「う、うん、12時だから。」
「そうですか。コレを。」
枕を急いで脇に挟んでお盆を受け取る。
チョコレートの甘い香りが心地良かった。
残り2秒。
執事さんはオレに気を使ってか、代わりにノックした。
「入れ」の声。いつもと同じ声。
親切に開けてくれて、オレと、アイツに軽く会釈をした。
おやすみなさいと言うと、おやすみなさいと返してくれた。
とても幸せそうな顔をしていた。
むずがゆい気持ちになりながら、遠くなる足音を聞いた。
「これ、執事さんが。」
「ああ。」
お盆も持つ手もだいぶ慣れた。
歩く度に腰の痛みを感じたけど、慣れたもの。そんなに揺れはしない。
「私が持とう」
返事を返すまもなく、高いところへ行ってしまったお盆。
主人として、こんなんでいいのだろうかと危ぶんだが、気にしないことにした。
小走りでドアまで行き、戸を開ける。
あいつはニコッと笑った。(皮肉では無いが、意外とかわいい。)
後の祭り、激痛が走り泣きそうになった。
ベッドの箸に腰掛けてチョコレートを飲む。あいつはもちろんブランデー。
氷のカラカラする音だけ辺りに広がる。
かれこれ、328秒この状態。
沈黙を破ったのはもちろん…、
「身体はもう、平気かい?」
何に反応したのか、身体が熱くなる。
そうだ、ホットチョコレートを飲んだからだ!
「そっ、それなりに。」
「昨日は、本当にすまなかった。」
真剣に謝る姿が不思議に見えた。
今度は反対に身体の熱が一気に冷める。
オレ?何?何か悪いことした?
え?何?無かったことにしたいみたいなこの空気…。
「え?何?なんで謝る訳?」
罰の悪そうな顔をする。
やっぱり、男だったのが駄目だったのか?
それとも、傷だらけのこの身体が気持ちが悪かった?
気持ちよくならなかったのがいけなかった?
もしかして、ぜんぜん気持ちよくなかった?
「オレ、初めてで、何ができるかとか、わかんなくて、痛いばっかりで、ごめん。」
何を言ってるのか。
驚いた顔をしたかと思えば笑い出した。
「いや、いい。こっちこそ、痛い思いをさせてすまなかったと。」
頭を抱えられる。
膝の上に置いたカップの中でチョコレートが大きく波を撃ったけれど、半分も残っていなかったのでこぼれずにすんだ。
「なんだ。」
安堵?
おかしいな?
このまま無かったことになってもちっとも問題はないのに…。
うれしくてしょうがない。
あれ?次を期待してる?
嘘…マジでオレ、淫乱?
下からのぞく形でされたキスはチョコレートボンボンの味がした。
目をつむって軽く上を向く。
オレって、酒に弱いのかな?
なんだか酔ったようだ。
その夜は、二人で手をつないで寝た。
腕枕はこりごりだった。
次の日は身体の痛みもなくなっていて、さわやかな朝になった。
第4話
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