1度は視察。
何のための視察かは知らないけれど、高原に行った。
ほぼ観光のような気がしたが、設計図を広げて執事さんが画策しているのをアイツは車の中で見ていた。
「わざわざ、出向く必要があった訳?」
こいつは特に車の外にでようとしないし、誰かと打ち合わせをするわけでもない。
「ここにはね、素敵なものが立つ予定なんだ。」
返答としてはぞんざいだったが、何か楽しそうだったので、気にしないことにした。


2度目は会合。
これまたおかしな話で、全員が全員仮面というか、マスクというか付けている。
円卓会議?と言うのだろうか。
参加者一人ひとりの為に待機室があり、その扉は椅子の真後ろにひとつずつある。
中の様子は待機室で見ることができるけれど、音声はなし。
何の会議だろうかと思いながら、各々の嗜好を凝らせた仮面やマスクを眺めて楽しんでいた。
この待機室もなかなか面白く、全室廊下につながっている。
つまりは建物の真ん中に丸い部屋があり、それを囲むように待機室があるわけだ。
我がご主人はなんともシンプルな白いマスクで出席。
「あんた、逆に浮いてたよ。」
「私も、初めて出席したのだが、面白いね。次はもっと凝ったものにしようか。一緒に考えよう。」
「オレの素晴らしいセンスに度肝を抜かれるなよ!」


まったくもって滞りなく終わった外出に、安堵半分落胆半分だった。
(失敬)
どれも日帰り旅行?で、朝早くに出発して、夜遅くに帰ってくる。
運転手さんも、長距離運転は久々だとか喜んでいた。
もちろん、執事さんも同行。
1度目の視察では屋敷のみんなにお土産を持って帰った。
高原は近くに花園もあり、両手いっぱいの花を持って帰った。
それから暫くは、屋敷中が花の香りで満ちていた。


勿体無いからと、女中みんなで押し花を作った。
結構手間の掛かる作業で、仕事そっちのけでやっていたら、イズミさんに叱られた。
でも、そのイズミさんも、混ざってしまってみんなで執事さんに怒られた。
起こっていながらも、執事さんはどこと無くうれしそうだった。
「あんたが、来る前はそりゃ恐かったわよ。」
「そうそう、笑いもしなかったしね。」
「ご主人様だってそうよ。でも、ご主人様はやさしかったけれどね。」
「滅多に部屋から出てこられないけど、たまに掃除している時に会うと、いつもご苦労だねって。」
キャーと黄色い声が響く。
唖然としているのはオレとイズミさん。
「そうだな。ぼっちゃ…ご主人様はやさしいよ。わしら使用人に甘くてな。よく執事さんに叱られておったよ。」
「だな。わしらは、この通り、腕が無かったりするもんだから仕事が遅くてな。」
「それでも、働き者だといって、酒を振舞ってくれたりしたんださ。」
敷地を管理する庭師の首には発信機と爆破装置が付いている。
本人がそれを知っているかどうかは定かではないが、それでも慕われている。
マスタングの敷地は広い。
公道を離れて1時間歩いて、やっと屋敷が見えてくるほどだ。
その敷地を管理する庭師のじいさんたちは誰もが、腕が無かったり、義足だったりしている。
みんな、みんな、あいつが大好きだった。


でも、あいつはそれを知ろうとしないし、認めようとしない。
アイツの闇は何なんだ?
何に苦しんでいるんだ?


2ヶ月の間、オレ達の間に何も無かったかって言われると、そうでもなく…
キスをした回数は数知れず、ナニをした回数も…。
兎も角、オレ達は、なんだ?あれだ。世間一般に言う恋人?同士みたいな関係になっている。
まったく持って不本意この上ない。
嫌いではないが、オレは男で、アイツも男だ。
いつまでも女役に甘んじているオレではない…が、最近慣れてきたため、不本意さが薄れている面がある。
(別に男役がやりたいとかそういうわけではない!)
おかしいなぁ。
やりたい盛りの15歳だからですか?
淫乱?バカな!
青春だ。
でも、相手は女の子がいいな。


解読方法は見つかったものの、決定打に欠けていたオレの理論は見事に行き詰まってしまった。
昨日までの順調さはどこえやらと考えていると、まだ開けていない箱が目に留まった。
「こっちは、まだ見てないやつだ。」
類似の研究資料を取り寄せたきり、バタバタとここへ来たりと忙しかったため、読んでいない資料だった。
とりあえずと、箱から出してならべる。
学術書というものは見た目よりも重いため、箱から出すのもそれなりに一苦労である。
しかし、なかに1冊見慣れない雑誌?が入っていた。
女の子向けの雑誌、特集は『恋する乙女の必須アイテム!』などと、かわいらしく装飾が施してある文字が目に留まる。
多分ウィンリィのだ。
しまったなぁと思いながら、どんな雑誌なのだろうかとめくってみる。
パラパラとめくると、可愛いイラストやカラフルな紙面がキラキラとしていた。
そのなかで、『恋する乙女チェック』という項目が目に留まり、ついつい目で追ってしまった。


結果は…
恋する乙女度120%

乙女度って、どういう基準なんだよ。
それでも、しっかりと目はコラムを追っている。

『ズバリ、あなたは誰かに恋しています。』

だ、誰にだよ。

『その人のことを思うと、ドキドキしたり、立派な恋する乙女です。』

ふと、あいつの顔が浮かんで、思い切り頭を振った。

『はい、そこのあなた。今思い浮かんだ人がその人です!』

いや、ちょっと待て。
ありえないだろ?
なんですか?

『相手のことを、思いやるその気持ち、相手のことを知りたいという探究心。まさにそれは恋です!』

い、いや、オレ、BGだし、知りたいって、だってさ…

『相手が自分のことをどう思っているか知りたいけど、知りたくない。その気持ちもまた恋!』

確かに、BGとしてちゃんと見てもらってるかとか、気になってるけどさ。

『そんなあなたに必須、恋のアイテムはP22を見てねv』

ぺらぺらとめくり22ページに向かった。
そこには、女の子特有の甘いにおいのするようなおしゃれで可愛いアイテムが所狭しと並んでいた。
その中のひとつに大きく丸が付いている。
蝶をモチーフとしたヘアピンだ。
どこかで見たことのあるものだった。
そうだ、最後にウィンリィが尋ねてきた日に付けてたものだ。
アルは、目ざとく可愛いねなんて言っていた。
オレは多分、気づきもしなかった。


オレはウィンリィに対して、恋に恋する乙女だったのかなぁと、わずかばかり落ち込んだ。
(恋する乙女度の最低ランクは“恋に恋する乙女”だった。)
ほとんどプラチナに近い軽い金色の長い髪は近くによると良い匂いがして、いつもドキドキした。
細い白い手で、オートメイルを組み上げるウィンリィの真剣な顔に見惚れたこともある。


なんか、違ったのかな。


ふと、あいつの顔が浮かんだ。
ウィンリィと比較しているオレがいて、酷い自己嫌悪にかられた。
確かに、黒い艶やかな髪はうらやましく、触るのは好きで、頭に顔をうずめるとアイツの匂いで、ドキドキした。
不健康そうなアイツの白い指がペンを走らせる時とか、ブランデーのグラスをカラカラさせるしぐさとか、オレを触るときとか、好きだ。
急に何かに合点が行く。
興味を持った理由とか、契約書を見ても辞めようと思わなかった理由とか…。


「あ……。」


オレ、あいつが好きなんだ。
恋とか、そういう意味合いではよくわからなかったけれど、とにかく好きなんだと理解した。
無駄にキスをするときドキドキしていまだに慣れない理由も、肌が触れただけで顔が熱くなる理由も…
全てに合点がいった。


そう自覚すると、今までしてきた行いが急に恥ずかしく、うれしく思えた。


そして、オレは12時ジャストにお盆を抱え、脇に枕をはさみ挑むのだ。
入れといういつもの声も、今はやけに耳に付いてしまう。
そわそわする自分がいて、そわそわする原因も側にいる。
「今日はやけにソワソワしているね。」
心臓が大きく鳴る。
エスパーか、こいつは!!
「べ、べべ、別に、い、いつも通りだけど!」
語尾が上がってしまった。
不自然極まりない。
最低だ。どうして良いか解からない。
難問な暗号より難解だ。
「そうかね?」
頭を抱きかかえられる、これが合図。
いつもは、このままキスをするのに、今日は違った。
何が違ったって?オレの行動がおかしかった。


おもいきり、突き飛ばしてしまったのだ。
顔は多分真っ赤。
そして、無言で起立。
枕を忘れたと頭の隅で思いながら、部屋まで走った。
走って、入って、施錠した。
追いかけてくる足音がする。
そして、部屋をたたく音がする。
「エド、どうしたんだ?」
その声は焦っている。
「嫌だったのなら、何もしないから…」
後半は消え入りそうな声になる。


嫌だった?
違う。
もっと触って欲しい。
もっと、キスしたい。
抱きしめて欲しい。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。


オレ、何で逃げたんだ?


「エド?」
オレは口に栓をされたように、言葉が出ない。
ごめんとか、なんでもないとか、そういう言葉が出てこない。
「そんなに嫌だったんだな。すまなかった。暫く別々に寝よう。」
違う、そうじゃなくて、兎も角違うんだ!
声が出なくて、出なくて、一生懸命出そうとすると、今度は涙が出てきて…
遠くなる足音がやけに胸に痛みを与えた。


その日、オレはまたあの森にいた。
今日は声の主に見当も付かない。なんだって、こんなにいろんな声がするんだろうか。
歩いているのはぬかるみで、足を取られてなかなか前に進むことが出来ない。
暗い闇の中で、ただ何かを言っている声がするだけで、ちっとも何をしているのかわからない。
ただ、進まなければならないと、必死に足を前に出す。
踝までだったぬかるみも歩くたびに深みにはまっていくようで、今や膝も埋まっている。
オートメイルの内部にも泥が入ったのか、左足が思うように動かなくなっていた。
重い足を引きずって、それでも前に進もうとしている自分がやけに情けなく思えた。
足りないから、沼はオレを引きずり込むんだ。
足りないから、ちっともオレは出口へいけない。
足りないから、誰の声かもわからない。
足りないから、オレはこんなところにいる。
そうか、足りないのか。
漠然と吸い込まれそうな闇を仰いだ。





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