まあ、何と言うか。
なんだ?
オレ、あいつが好きなんだと自覚したわけで…
幸せすぎた。


弟との再会はそりゃうれしかった。
会いたかったけど、ここの暮らしに慣れすぎいたので、連絡というものをすっかり忘れていた。
(なんたって、喧嘩別れしてきた手前、電話しずらい現状があったんだ!)
リザねぇに会った時に一抹の不安は覚えたんだ。
もしかしてって。
リザねぇがBGに付くなんて、珍しいこの上なかったしね。
しかも、なんか企んだ顔もしてたし。


漂流中アイツのことしか考えられなかった。
薄らぐ意識の中でアイツのことばかり考えていた。
心配してるんだろうなとか。
あいつの顔ばかり浮かんでいた。


夢を見ていた。
泥の中に沈んでしまったオレ。
泥の中は少し冷たくて、生暖かくて、まどろみのようだった。
遠くで誰かが呼んでいるんだ。
誰なのかは覚えていない。
誰でもなかったのかもしれない。
誰かがオレの手を掴んで引き上げたところで目が覚めた。
そこは漁船だった。


正直漂流3日目まで位は記憶があったが、それ以降はまったくと言っていいほど無かった。
変なところに流されなくて良かったという安堵と、あいつに合えるという喜びで踊りだしたいくらいだった。
しかし、オートメイルは軋んでほとんど動かない。
身体も、脱水症状と、栄養失調などなどと、最悪な状況だ。
幸い怪我もなかったのだが、心配性のあいつは、オレを暫くベッドに縛り付けていた。










黒猫の用心棒

教訓7〜そうですね。ふかふかの毛布に包まれて寝るのは本当に最高です。〜











車いすが用意され、オレは重病人といった風だった。
無用なオートメイルはただ邪魔なだけなので、取り外していた。
右手はないし、左足もない。
なんとも頼りないBGだと自嘲した。


オレは久々に家に帰った。
弟は立てない足で崩れるようにオレにすがってきた。
「良かった。」
知らせは来ているだろうが、顔を見るまで安心できなかったようだ。
10日前に会ったはずなのに、いやに懐かしかった。
「少し痩せたか?」
「誰かさんが心配をかけるからね。」
兄弟の感動の再会もつかの間、大きな足音と共に壊れるかと思えるくらいの大きな音を立てて扉が開いた。


「たいしょぉぉぉぉー!!!!」
大男がやってきて俺を抱きしめる。
汗臭い。
無精ひげが顔に刺さる。
「ジャン、痛いって…」
アルは笑っている。
こういうのは久々で、始終顔が緩みっぱなしだ。
「リザねぇは?」
「仕事。夕方には帰ってくるよ。」
「そうかぁ。」
ジャンはアルを車いすに乗せると、俺を抱えあげた。
「今から、ロックベルさんとこ行くんだろ?連れてってやるよ。」
後で待機していた運転手さんは唖然としている。
(なんたって、車いすなので、押してきてもらったのです。)
顔と体勢を整えて、かしこまる姿に笑ってしまった。
「明日の夕方お迎えに上がります。」
一応、1泊2日。
オートメイルの整備ぐらいならこれくらいで済むだろうと高をくくっていた。
「整備に時間が掛かるようだったら、連絡します。」
オレ達3人に軽く会釈をし、後にした。
「さて、行きますか。」
軽々と抱えあげられたまま、3人でウィンリィの店に行った。
ジャンは、オレを肩に担ぎ、オートメイルの入った鞄を軽々と持った。


はじめはスパナ、次はネジと、凶器が次々に投げられた。
ジャンがうまくよけてくれたお陰で、当たらずにすんだ。
顔は怒っているのか笑っているのかよくわからない。
よかったぁと、診察台に座らされた俺を抱きしめた。
機械油の匂いと、女の子特有の甘い香りは、もうオレをドキドキとはさせてくれなかった。
「ほっんとうに、心配したんだからね!」
「ごめん。」
軽くスパナで殴られる。
オレはわざとらしく痛がると、4人で大笑いした。
笑った顔は本当にかわいらしかったけれど、心臓が高鳴ることは無かった。
「せっかくの金髪が台無しね。」
そういってひとつに纏め上げた髪で、遊んでいる。
「切ってあげようか。このまま伸ばすわけには行かないでしょ?」
オレは少しだけ躊躇ったが、これからまた伸ばせば良いと了承した。
あいつはオレの長い髪が好きだと言ったから。
せっかくなら綺麗に伸ばしたい。
ひとしきり会話をすると、アルのところへ向かい、痩せた?と話している。
「馬鹿な兄が心配ばかりかけるからね。」
そう言って、アルとウィンリィはお互いの頬にキスをした。
「もう、エド、心配かけるんじゃないわよ!」
そう言って彼女はオレの知らない顔をして笑った。


急に遠くへ行ってしまったような気がした。
オレの知らない2ヶ月ちょっとが二人の間にはあった。
「まず、エドに報告。」
顔を赤らめたウィンリィが、こちらを向きなおし腰に手を当てている。
二人で顔を見合って、顔をくしゃくしゃにしている。
「言わなくても、わかった。」
二人は幸せそうだった。
オレも、その幸せな空気に包まれた。
あきれ半分で口を出すと、ウィンリィはふくれっ面になる。
「ふふふ。もう、アルは私のものよ。」
そう言ってアルを抱きしめる。
アルも照れくさそうに笑っている。
「幸せに免じて、オートメイルの修理は文句、言わないわ。」
その幸せをオレは知っていた。
オレも現在進行形で幸せ真っ只中だ。


まずはつなぎ目をと、どんどん解体していく。
今まで好きな女の子の前でよくパンツ1枚の姿で平気でいたなと思うと、急に恥ずかしくなった。
「何、赤くなってんのよ。今更恥ずかしがることもないでしょ。」
ウィンリィは不思議そうな顔を見せている。
そして、内部に入った潮を取り除いていった。
「あちゃー、こりゃ新調しないと駄目かも。」
「明日の夕方までになんとかなる?」
「無理。」
間髪いれずに返答。
「全部を新調!わかる?神経も全部つなぎかえるの。腐るわよ。」
腐るわよの台詞にオレはたじろいだ。
1度、メンテナンスをサボって腐らせたことがある。
あの時は、こっぴどく怒られたし、痛い思いをした。
「どれくらい?」
「1週間は掛かるわねぇ。」
気が遠のくのを感じた。
おずおずと、電話を借りた。
執事さんにつなぐと、さようでございますかと淡白な返答が返ってきた。
ご主人様にお繋ぎしましょうかと言われたが、なんとなくやめた。
この時間は仕事に集中している時間だ。


明日、朝一で手術よというウィンリィの声が頭の中でワンワンと響いた。
あれは本当に痛いんだ。


その夜は宴会。
仮の義手・義足を貸してもらい、仮だが5体満足となった。
リザねぇもにこやかに楽しんでいる。
口々に無事で何よりと言っている。
「もう、この10日間、アルさん恐かったんだからぁ。」
ジャンがオレに泣きつく。
オレはよしよしと大きな体をなだめた。
「兄さんは本当に馬鹿なんだから。」
「バカとは何だ!オレは見事各国の要人を守りきったんだぞ!」
「あー、はいはい。」
あきれている弟に向かって何度となく武勇伝を語る。


久々の自分の部屋は、閑散としていた。
何と言っても、ほとんど持ち出しているしね。
半分寝かけたところで、リザさんが訪ねてきた。




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