「エドワード君。聞きづらいんだけど、…。」
「なに?」
「マスタング氏と恋人同士なの?」
「な、ななんなにな言ってんだよ。」
「そうなのね。」
オレの周りはジャン以外みんなエスパーだ。
「あの時、少しだけ気になったのよ。」
「お、オレ、…。」
「そういうことを咎めてるわけではないのよ。素敵な人だと私も思ったし。」
「う、うん。」
「一応、主従関係ってあるじゃない?だからよ。そういう関係になったら、相手だってエドワード君を守ろうとするんじゃない?」
確かにそうだ。
あいつはオレのことを一番に考える節がある。
今回の事だってそうだ。
「でも、主人を何があっても守るのがわたし達の仕事なの。」
でも、あいつにはオレが必要なんだ。
俺がいないと駄目なんだ。
「最悪の事態を招かないように。ね。反対はしないわ。エドワード君今、優しい顔をしてるもの。」
くすくすと笑い頭をなでられる。
「お、オレ、あいつを守りたいって、真剣に思ってるんだ。」
「アルフォンス君もね、エドワード君がいなくなってから暫く落ち込んでたんだけど、ウィンリィちゃんがいてくれてね。」
「だから、か。」
アルから、殺伐とした空気が抜けていたのはそのためだったのか。
「だから、みんなが幸せでいてくれて、わたしもうれしいのよ。」
笑う彼女はとても綺麗だと思う。
湖の女神様はこんな顔をしていた気がした。


頭をなでられて、おやすみとおでこにひとつキスをもらった。
もし、母さんが生きていたのなら、こうしてくれたのだろうか。
「ありがとう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」


助けてくれたのは湖の女神だった。
負けては駄目よと、オレを引き上げた。
湖で身体を清めたオレは、女神にお礼を言った。
女神は悲しげな顔をして笑うと、水密灯をひとつオレに手渡した。
足りないない、だけど、見つかるわ。
そういって月の光に融けていった。
オレは歩き出した。
足元はもう、暗くない。


全身麻酔をしたオレの身体は深く眠った。
激痛で目を覚ますまで、オレは森の中をさまよっていた。


「いってー!!」
「うるさい。」
暴れないようにとしっかり身体はベッドに固定されている。
この手術の痛みは本当に最悪だ。
点滴とつながれたオレの身体には弟の血が入ってきている。
その弟は、青い顔をして隣で寝ている。
「アルが起きたら御礼言いなさいよ。」
「わかった」
オレとアルは特殊な血液型らしい。
とは言っても、ごくまれにしか生まれない程度だ。
父の家系は高い確率でこの血液型だったらしい。
が、今はアルとオレしかいない。
貧血の頭を持ち上げて、出された痛み止めを飲む。
「身長が少し伸びてるみたいね。」
「まじで!?」
「まじ。1.5センチほどね。」
微々たるものだが、それでもオレにとってはうれしい限りだ。
「はいはい。暴れない。」
右腕と左足から伸びている管からはおかしな色の液体が混ざりつつ血が排出されている。
「腐ってたとは言わないけど、結構膿が溜まってたわよ。アルには悪いけど、もう400もらうかな?」
それより、痛くなかったの?と問われた。
確かに多少は痛みがあったが、気にするほどではなかった。


アルはフラフラする身体で、仕事があると帰っていった。
計800ml。
あの細い身体から搾り出させてしまった。
申し訳ない。


夕方には腕と足から管が抜け、輸血の血液だけになっていた。
「アルより酷い貧血だからね!」
と釘を刺されていたので、おとなしく増血剤を注射されて寝ていた。
寝しなにあいつのことが頭をよぎった。
仕事をしてるだろうか、無駄に心配してないだろうか。


目を覚ますと、隣には見たことのある顔があった。
おかしい。
まだ夢を見てるのだろうか。
頭を優しくなでられる。
オレはまた睡魔に誘われた。


「やっと、起きた。微調整するから、はめてみて。」
「ああ、…。」
「どうしたの?」
「誰か来た?」
「んにゃ、来てないわよ。」
「そうかぁ。」
オレは深く息をついて起き上がった。
痛みもだいぶ引いていた。
恋しいのはオレの方だ。
あいつに会いたかった。
次ぎ会ったら、もう二度と離れたくない。
抱きしめて欲しい。


腕をはめても、暫く痛みで感覚がない。
微調整が一番時間が掛かる。
動かせるぐらいに痛みが引くと、腕を回したり、指を動かしたりする。
今回のはいつものより軽いようだ。
「あったりまえよ。私を誰だと思ってるのよ。ウィンリィ様よ!」
工具を構えてカッコつけている。
「今回は軽めのにしてみました。身長も伸びてるようだしね。」
「サンきゅ、ウィンリィさ・ま。」
「何よ、気持ち悪いわね。」
へへへと笑う俺にウィンリィもつられて笑った。


休憩がてらにと、ウィンリィはオレの髪を切った。
酷く痛んでいる毛先を重点的にだ。
といっても、ほとんどアルと同じくらいの長さになってしまった。
「本当は、坊主でもいいくらいよ。」
そう言って、意地悪そうに笑った。
腰まであと少しだったオレの髪の毛は、見事に短くなっていた。
驚くかな?
「私のトリートメントを貸してあげるから、しっかりお手入れしなさいよ。」
そうしてここにい在る間中、オレはウィンリィ監修の元、髪のお手入れに勤しんだ。


本当に丸1週間掛かった。
手術の次の日、オレは熱を出した。
仕方がない。と言えば仕方がないが…。
微調整も時間が掛かり、オレが熱を出したせいもあって、ウィンリィには無理をさせた。
「まぁ、あんたの体調考えずに、1週間って言った私も悪いからね。」
大あくびをしながら、謝罪をするオレに応える。
オレはすっかり元通りになった身体をぞんぶんに動かす。
「調子が悪かったら、すぐに来なさいよ。」
そう言って、オレを追い出すようにして見送った。
「いいね。兄さんはなんか元気で。」
いまだ貧血気味の弟はフラフラしている。
血の気がないと、ここ最近鉄分豊富なものばかり食べさせられている。
オレも暫くはほうれん草とレバーの炒め物はこりごりだ。


その間、オレは例の研究の成果を報告したりしていた。
あいつの前で連絡をとっても良かったのだが、先方がいい顔をするものではなかったからだ。
もうすぐ完成すると伝えると、お待ちしておりますという声と、その後で歓喜に満ちた声が聞こえいた。
オレは完成間近の途中経過をメールで送った。
天才だと絶賛する彼らの声にオレは照れていた。
身体の調子も良くなりつつあり、浮かれていた。


日がかげていく空を見ながら、屋敷に向かう車の中でうとうととしていた。
早くあいつに会いたかった。
会って抱きしめて欲しかった。
空を抱きしめて、寂しい思いをする日々は終わりだ。
一人では寂しくて寝れなくて、困ってるかなと俺は声を立てずに笑った。
オレは、かろうじて寝れた。
というか、疲労と薬のせいだ。
後何秒で会えるだろうか。
時を数えながら、睡魔に誘われた。


「もうすぐ着きますよ。」
運転手が笑いながらオレを起こす。
よだれを垂らした口を急いで拭く。
照れ笑いをすると、運転手もバックミラーの中で笑っていた。


屋敷に着く。
扉を開けると真っ暗。
確かにもう、夜もふけているが寝るには早い。
すると、お帰りと言う大勢の声とともに、明かりがついた。
と、驚いていると、後から抱え上げられた。
「お帰り。私の金猫。」
ただいまと、思い切り抱きついた。
いろんな方向からお帰りが飛んでくる。
オレは一人ずつには返せないので、大きな声でただいまと言った。
上機嫌でオレを抱えているこいつは、恥ずかしげも無くオレにキスした。
もう、公然となっているとでも言いたげだったが、オレは恥ずかしくて、暴れた。
しかし、降ろす気はちっともないらしい。
使用人たちは、黄色い声を上げている。
ああ、恥ずかしい。
そのままオレを抱えて食堂へ向かった。
「髪を切ってしまったんだね。」
残念そうな顔をする。
「あの髪のままじゃ、流石に伸ばせねぇもん。」
「それもそうだね。」
「今度は、あんたのためだけに伸ばすよ。」
耳元で、そう囁くとあいつははにかみながら笑った。
オレ、帰ってきたんだ。
そう思うと、胸がいっぱいになった。


食堂へつくと、見事なパーティー会場と変貌していた。
そこにはおいしそうな料理の数々と、大量のお酒が所狭しと並べられていた。
「さて、快気祝いといこうか。本日は無礼講だ。好きに騒いでくれ。」
そう言うと、辺りはお酒の匂いに満ちた。
シャンパンが開けられ、それぞれに振舞われる。
ひとしきりその様子を見届けて、やっとオレを降ろしてくれた。
すると、執事さんがグラスとシャンパンを持ってやってきた。
「お加減はもうよろしいですか?」
「大丈夫です。」
オレは大袈裟に身体を動かした。
「それは、よかった。」
優しい笑顔の執事さんにオレは安心した。
怒られるのではないかと少しだけ心配していたからだ。
オレとあいつにグラスを渡し、それにシャンパンを注いでいく。
耳打ちで、「お一人では、よく眠れなかったようですよ。」と。
そして、ウインクをして立ち去った。
隣でバツの悪そうな顔をしている。
オレは、笑った。
あいつも笑った。


「それでは、我が金猫の快復とマスタング家の開放を祝って!」
みんなそれぞれ乾杯と高らかに声を上げている。
オレは隣で(多分青ざめていただろう)グラスを落とした。
歓喜の渦にグラスの割れた音など誰も気づかなかった。
オレは胸倉を掴んで問いただした。
「そのままの意味だよ。みんな自由になれる。執事も娘に会える。」
「なんだったんだよ。この家は、何のために…あんたは閉じ込めていたんだ?」
「私は君に守ってもらおうと決意したんだ。」
「は??」
「何があっても、私を守ってくれ。」
その顔はさっきまでと違って、真剣そのものだった。


「猫!こっちに来て食べろ!」
オレを呼ぶ声に、あいつは行っておいでと小さく言った。
オレは腑に落ちない気持ちを抱えながら、大いに楽しんだ。
みんな笑っている。
みんな幸せそうだ。


最後は庭師のじいさん達が大声で歌っていたまでは記憶がある。
あれ?ここはどこだ?ふわふわする。
頭は重いし、眼はチカチカするのに。
お酒飲んだっけな?ああ、せっかく身長伸びてたのに止まったらどうしよう。
目を開けると、黒い髪がキラキラしていた。
ああ、帰ってきたんだ。
そう思うと、安心してまた眠ってしまった。





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