いつもの森を歩いてる。
水密灯が足元を照らしているので、怖くないし、大丈夫。
ウィンリィ似の妖精とアル似の妖精が、足りないものは見つかった?と聞いてきた。
まだ見つかってはいないけれど、もう大丈夫な気がした。
すぐ見つかる。気がする?
怖くないから大丈夫。
声の主にももうすぐ逢える。
確信もないのに、そう信じていた。


どんよりと頭は重いし、目がシバシバする。
目をこすりながら洗面所に行き、顔を洗った。
「頭痛い。」
「お酒なんて飲んだら、身長が伸びなくなるよ。」
「うる…せぇ。」
大きな声が出せない。
頭がギンギンする。
いや、ガンガンか?
どちらでもいい。


制服を着ると、いつもの俺がいた。
真新しいオートメイルが鈍い色で光っている。
手を握って開いて…調子は良いようだ。
足も軽く動かす。
軽くなった分、動かしやすくなっていた。


オレは、あいつの部屋に向かった。
事の次第を問いただすためだ。
部屋の前で大きく息を吸った。
ノックをせずに扉を開けた。
「ノックをしたまえ。」
のんびりとした口調でオレを咎める。
オレはそれに対しての反応をしない。
「あんたは、どうする気だ?」
「何のことだね。」
「あんたは、何を隠しているんだ?」
「何も隠してはいないよ。」
オレと目を合わせず、書類を追っている。
「開放ってどういう意味だ?なぜ、今まで閉じ込めておく必要があった。」
書類を一纏めにして脇に置き、肘を突いてオレをまっすぐ見た。
その目は真摯だ。
「私は、君に守ってもらう。だから、それ以上のことは必要ないと判断したんだ。」
「だって、あんたはその姿さえ秘密だって…。」
「そうだとも。大丈夫。誰も殺しはしないよ。」
「あ、あんた…死ぬ気か?」
大笑いをする目の前の男には見覚えがあった。
何処かで遭った。
「違うよ。私は死なないよ。それでは君に守ってもらう意味はないだろう。」
オレは安堵した。
「私は、守ることが疲れたんだ。私の代で、全てを終わらせる。」
「な、何で…。」
「時代が必要としていないからだ。そして、私が必要としていないからだ。」
違う。
違う…!
何かが違う。


「あんた、何自棄になってんだ!」
大声を出したオレの頭は最高潮に痛む。
思わず、後に倒れそうになるが、どうにか踏みとどまる。
「自棄などにはなってないよ。」
困った顔をしてこっちを覗いている。
「だって、…。」
「泣くことはないよ。今私は、自由なんだ。」
オレは泣いてなんかいない。
コレはあんたが流している涙だ!
「ちっともあんた、幸せそうじゃない。」
頭が痛い。
胸も痛い。


「戻りなさい。今、私は仕事中だ。」
冷たい言葉に聞こえた。
オレも仕事中だ。
あんたの言うことにオレは従うしかないんだ。
部屋を後にした。
重い頭でベッドに倒れこむと、吸い込まれるようにして眠っていた。


起きると昼前で、朝食も取っていなかったオレは腹の虫が勢いよく合唱していた。
厨房へ行き、軽い食事をもらった。
それにしても、みんな元気だ。
昨日の跡はどこにも見られず、いつもの空気に戻っている。
オレは部屋に戻り、研究の続きに没頭した。
今は何も考えたくなかった。


疑問点がよぎる。
研究論文の作者なんて気にも留めてはいなかったが、改めて見ると、一人の人物が突出して多い。
“キング・ブラットレイ”
何処かで聞いたことのある名前だった。
オレは駆けた。
この屋敷には使われてない部屋がいくつもあるが、厳重に施錠してある部屋は1つだ。
興味本位で入ったことが1度だけある部屋。
オレは息を切らせていた。
無駄に手に汗をかいている。
心臓も大きく打っている。
鍵なんてなくても、開けられる。
オレは、静に息をし、扉を開けた。
前回入ったときと同じで、埃とカビの匂いがする。
オレは、そこに、その名前の著書が並んでいるのを確認した。
こもった空気の中で、オレは息苦しさを感じた。


研究者が隠したものは、何処にある?


そして合点がいく。
あいつの身体の中だ。
だから、あいつの存在自体が機密だったんだ。
オレはほとんど完成した理論を持って、12時なるのを待った。


「なあ、コレ見たことあるか?」
紙の中で細密に書かれた構造式。
青ざめるその顔は、どこか安堵の色を出していた。
「まさか、こんなに早くコレが再びこの世に現れるとは思っても見なかった。」
君は天才だと揶揄するその姿は、震えている。
「コレの完成形があんたの身体の中にあるんだな。」
「そうだね。私の体のどこかにマイクロチップが埋められているんだよ。」
「コレがなんなのか、あんたは知ってるか?」
「知ってるとも。人が生まれなくなるバイオ兵器。」
オレは、そんなこと気にも留めなかった。
ただ、面白かった、楽しかったのだ。
また、オレは繰り返そうとしていた。
「何のために…。」
「私の身体には、それと、その治療薬の情報が入ったチップが埋められている。」
オレは、自分の首を時分で絞めていたんだ。
これ以上の裏切り行為はない。
こいつが隠そうとしたもの、守ろうとしたものを隣でのうのうと解読していたんだ!
「君がコレを広めようとするなら、私はどうしたらいいんだろうね。」
「どうしよう、オレ、途中経過送っちまった。」
オレは何ということをしてしまったんだ。
既に大詰め、オレが完成させなくとも完成させてしまうだろう。
「大丈夫。安心したまえ。完成しただけでは何もできない。」
「え?」
「とある血液型の特殊な遺伝子情報が必要なんだ。」
「とある血液型。」
なるほど。
オレの中で理論は完成した。
遺伝子の操作情報。
強い優性遺伝子。
「5年前。この血液型の人間は抹殺させた。」
「でも、全員って訳には行かないだろう?」
「まぁ、そうだが、珍しい血液型でね。一族のものしか、しかも男系でしか受け継がれない。」
「あはは、オレのところみ…た…い?」
全身から血の気が引く。
立っていることがやっとのような…
「え?」
「私も、先日知った。」
あんたのそんな辛そうな顔はじめて見た。
なんでそんな顔してんだよ。
オレ、駄目じゃん。
あんたを守るって、幸せにするって言ったのに。


5年前、俺たちはファミリーの集まりに参加していた。
一族で裏の世界にいたオレ達は、年に1度親睦を深めるために食事会が参加していた。
そこであったんだ。
爆破事件。
オレは弟を必死に守った。
親父の身体がバラバラになって吹っ飛ぶのをオレは見た。
そうだ、他の親戚もバラバラになった。
オレの身体も半分バラバラになった。
警護していたほとんどの奴らもバラバラに吹っ飛んだ。
リザねぇとジャンは俺たちを必死に隠し、守った。


「あんたが、あんたが殺させたのか?」
「否定はしない。」
「そうかぁ。」
オレはその場に崩れた。
オレはおかしくもないのに笑った。
自分でもわからなかった。
ただ、名涙を流しながら笑った。


暫く笑ったら、急に何もかもがどうでもよくなった。
「君はそれでも私を守るか?」
その顔は真剣だ。
「守るよ。」
オレは言った。
「守れるのか?」
「守るよ。あんたを愛してる。」
オレは立ち上がり、あいつに向かって駆けた。
そして、机の上のものを蹴散らしながら上った。
「あんたを愛してる。」
オレはあいつのネクタイを掴んでキスをした。
そして、首筋に噛み付いた。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。
何度も何度もキスをした。
動かないこいつをオレはきつく抱きしめた。
「なんでだよ、オレ、あんたが好きだ。」
そして、顔を掴んでキスをした。
しつこく、口腔内を犯した。
「あんたが好きなのに、…あんたが憎い。」
息も切れ切れにオレは口を開く。
何も言ってくれない。
ただ、悲しそうな顔をしてオレを見ている。
「あんたが好きなんだ。」
オレの前に銃が差し出された。
「殺してくれていいよ。私も君を愛している。」
オレはその手から銃を払いのけた。
乾いた音を立てて銃が床に落ちる。
「殺してくれていいんだよ。」
笑うその顔は涙で濡れている。
オレはキスした。
抱きついて、きつく抱きついてキスをした。


「オレは、あんたから離れない。あんたは苦しめばいいんだ。オレを愛してるといいながら、オレに愛されながら苦しめばいいんだ。」
オートメイルが音を立てた。
苦しいのか、嗚咽を漏らしている。
「後悔すればいいんだ。オレと出会ったこと、オレを愛したこと。」
「君を愛している。」
オレ達は互いを求めた。
いつものような甘いものではなく、ただお互いの感情をぶつけ合った。
愛してると愛してると、そう…。


オレは走っていた。
いつの間にか水密灯が無くなっていた。
足りないものが見つかった。
が、それからオレは逃げた。
逃げたんだ。


翌日オレ達は話し合った。
もう、全ての手はずは整っていたらしい。
オレは些細なことだが、研究に関係したものを全て燃やした。


ひとり、また一人、使用人はマスタング家を後にしていった。
オレ達2人だけの生活はあっという間に始まった。
それでも、何人かの使用人は通ってくれている。
全ての仕事の引継ぎを済ませるまで…。
そういうところは尊敬に値する。
誰に不利益になることもあいつはしない。


「エド、母の国へ行こうか。」
オレ達は簡単な荷造りをしていた。
ここを手放すためだ。
もう、大半の事業から手を引いていた。
あと数日もすれば、ただのロイ・マスタングになる。


オレ達は何かを確かめ合うように毎夜身体を重ねた。







第8話
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