初日、オレ達は菜園を作った。
庭師からもらった種を植えた。
育つまで、どれだけ掛かるだろうか。
ジャガイモの育ちは早いと言っていたけど、それまでは当分缶詰やレトルト生活だ。
それは、音を立てて崩れていった。
屋敷を出てから259200秒だ。
また、何かをやらかしたとばかりに何やってんだよと家の中へ入った。
オレは洗濯籠を持って、あいつの言った白いエプロンをつけて笑いながら、その瞬間までオレは幸せの中にいた。
頭の無くなったあいつが床に転がっていた。
家の中は血まみれで、首から下だけになったあいつが力なく横たわっていた。
オレは静に籠を置き、あいつの元へ歩み寄った。
オレは叫びもせず、泣きもせず、肉片を拾い集めた。
一つ一つ丁寧に集めた。
白いエプロンが赤くなった。
あいつの綺麗な髪の毛も部屋中に散らばっていた。
1本1本丁寧に拾った。
多分これはオレの言葉を聴いていた耳だろう。
多分これはオレを甘噛みした歯だろう。
多分これはオレを一番に考えてた脳みそだろう。
多分これはオレに口付けた唇だろう。
多分これはオレを見つめた目だろう。
愛おしい、愛したものの肉片。
一つ一つに口付けながらオレは集めた。
そして、オレは部屋中を舐めた。
あいつの血を全て舐め取った。
天井も、壁も、床も。
その動作に何日かかっただろうか。
オレは綺麗になった部屋を確認すると、倒れているあいつを寝所に運んだ。
重くて、何度も潰された。
重いと文句を言っても返事が返ってこない。
肉片をできるだけ元通りにと形を作って頭があったところにおいた。
そっと抱えてキスをした。
そして、冷たくなった身体を抱きしめた。
腕枕をするようにあいつの腕をオレに絡めた。
力ないあいつの腕はいやに重く感じた。
疲れていた。
沈むように寝た。
森の中は明るかった。
月の光が差していた。
オレは誰の手を引いてどんどん森を進んだ。
その手はとても暖かかった。
おれはそいつとずっとその森を歩き続けた。
とても幸せな夢だった。
どれくらいこうしていただろう。
あんたはどんどん腐っていっている。
オレはどうしたらいいんだろうか。
オレはまどろみの中でずっと同じ夢を見続けた。
「兄さん!兄さん!!」
「アル?」
「気が付いた…」
オレは…?ここはどこだ?
「ここは病院だよ。」
「あ、あいつは!?」
身体を起こそうにも動かなかった。
「……。」
アルは口を濁すと、一枚の封筒を差し出した。
「あのね。兄さん。手紙が来たんだ。」
「てがみ?」
「うん。」
「?」
「ロイ・マスタングさんから」
「?」
「遊びに来て欲しいって。ただそれだけ。」
オレは動かない身体を必死に動かした。
「な、なんで?」
「暗号かな。簡単なものだったけど、住所が書いてあったんだ。」
「うん。」
「連れ戻そうとしたんだよ。兄さんを。」
「うん。」
「で、兄さんたちを見つけた。」
「うん。」
オレはアルから奪い取った、ただ一言の手紙を見つめていた。
あいつの字でただ一言“遊びに来て欲しい。”とだけ書かれていた。
初めて手紙というものを自分で書いたのだろう。
宛名の書き方もめちゃくちゃだ。
こんなんで良く届いたものだ。
暗号も、簡単だった。
こんなの、この業界の人間にとっては朝飯前だ。
あいつはオレの喜ぶ顔が見たかったのかな?
弟二度と会えないとオレが悲壮にくれていると思ったのかな?
涙がにじんだ。
オレはあいつに愛されていた。
どうしようもないほど。
そしてオレは手紙を綺麗にたたんで、胸に抱いた。
そして、大声を上げて泣いた。
あいつは死んだ。
頭を爆破され死んだ。
幸せの中で死んだ。
あいつはオレに愛されて死んだ。
あいつはオレを愛して死んだ。
何たる幸福か。
何たる幸福の中で死んだのか。
残されたオレはどうしたらいい?
あんたは何を望む?
オレは泣いた。
声がかれるまで泣いた。
アルはやさしく頭をなでてくれた。
オレの快復を待って厳かに葬儀がおこなわれた。
運転手と別れてから20日後にアルが来たらしい。
オレは18日間あいつの血で生きながらえた。
そう思うと、あいつがこの中で生きている気がした。
自分を抱きしめる。
棺に納められたあいつは頭の部分に布が掛かっていた。
そこにはオレが集めた肉片が置いてあるのだろうか。
もう、酷い匂いはしなかった。
そこからあいつの匂いはしなくなっていた。
次々に花を手向け、元使用人たちはオレに話しかけてきた。
オレはキチンと言葉を返していただろうか。
イズミさんがシグさんに添われてオレに語りかけてきた。
イズミさんは泣きながらオレを抱きしめた。
シグさんは頭をゴシゴシと撫でた。
庭師のじいさんたちも泣いていた。
女中たちも、みんな泣いていた。
執事さんは泣かずにじっと埋められるさまを見ていた。
他は誰もいない。
オレにリザねぇとジャンが付き添っていてくれているだけだ。
執事さんが二人だけでお話よろしいですか?と言ってきた。
オレはなんと返事をしたのだろうか。
封筒がひとつ渡された。
中にはあいつの手術の報告書というものが入っていた。
年齢8歳9ヶ月いたって健康。
脳内にチップと爆薬を埋め込む。
72時間以上屋敷から離れると自動的に爆破。
秘密保持には限界の時間。
あの時、あの島での事件が起こらなければ死んでいたのか。
皮肉な感じだ。
オレは少し笑った。
空虚感が漂う。
あんたはこのことを知ってたのか?
知ってたら、オレを突き放したんだろうな。
あんたは何も知らずに、死んでったんだ。
そうか。
あんたは、本当に幸せの中で死ねたんだ。
あんたは後悔をしながら、苦しみながら死ねたんだ。
オレは泣き崩れた。
もう、涙は枯れ果てたと思っていた。
「もう少し早く、この事実に気づいていれば…」
執事さんも泣いている。
「申し訳ございません。」
オレは振り絞った。
オレは満面の笑顔だったと思う。
「あいつは幸せの中で死ねた。」
一人置き去りにされたオレ。
愛してる。愛してる。愛してる。
何度も心の中で呟いた。
オレはこれからどうしようか。
その日オレは16歳の誕生日を迎えた。
第10話
TEXTtop
Copyright(C) min All rights reseved.
|