10歳。
オレは大学に入学した。

12歳。
オレは大学院に入った。


オレは物心ついたときから見る夢がある。
森の中を誰かと手をつないで歩く夢。
ただそれだけ。
でも、とても幸せな夢。
忘れた頃に見る、忘れられない夢。











くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※

第1回 くろねこはきんねこがだいすき













学校は騒然となっていた。
教育実習に来る大学院の学生がなんと15歳の餓鬼だというのだ。
天才児輩出校と世間では呼ばれている我が学院。
珍しくないといえば、珍しくない。
世の中には飛び級というものが存在し、それがまた例外ではなかっただけの話だ。


「エドワード・エルリック。15歳。専攻は生物だそうだ。」
マース・ヒューズ初等部からの腐れ縁。
そして、オレの前の席。
「だから、なんだよ。」
「それがさ、すんごい美人なんだよ。」
「は?男だろ?」
「なんていうか、あれだ。お人形さんみたいな奴。」
人形みたいな餓鬼?
女子のおもちゃになりそうだとオレは笑った。
「今の、グレイシアに聞かれたらどうなるかな?」
オレは意地悪げに悪友に囁く。
こいつは最近、彼女持ちになった。
なんとなく、悔しい。
とは言っても、つい先日まで彼女と呼ばれるものは居た。
それなりにもててはいる。
「勿論、グレイシアのほうが美人さ。あっちはオレのマイエンジェルだもんさ。」
恥ずかしげもなくさらりと言えるこいつに感嘆する。
こういう事がさらりと言えたなら、こうやって別れることもなかったのかもなと、ふと思う。
それにしても、見てみたいものだ。
ヒューズがグレイシアを差し置いて、美人と褒めちぎるなんて。


目からウロコ。
ああ、いるんだな。こういう奴が。
糞餓鬼面しているのに、本当に作り物めいた…人形みたいな雰囲気をかもし出している。
金髪、金目…珍しい瞳だな。
なんか、蜂蜜系の甘い匂いがしそうだ。
睫毛だって、ありえないくらい長い。
くちびるだって何か塗っているように赤い。
「はじめまして、エドワード・エルリックです。大学院で生物を専攻してます。」
女子がキャーキャー黄色い声を上げている。
うるさい。
それでも透る、ハスキーボイスだ。
声変わりは微妙といったところか。
15歳にしては身長も小さい。
対格比の隣にいるアームストロング先生がでかすぎると言う事も、無きにしも非ず?
にしても、“女の子”みたいな顔だな。
後でポニーテールなんかしてるし。玩具必須。ご愁傷様。
「あー、オレ別に教師になりたいとかそんなんじゃなくて、暇つぶしに来ただけなんで、お手柔らかに。」
あ、口は悪し。態度も悪し。
でも、屈強な女子共はそれでも黄色い声を上げ続けている。
「先生!彼女とかいますか?」
おお、勇者。今、この時点で聞くか?15歳の餓鬼に!?
ふてぶてしく答えると思いきや、真っ赤になっている。
この手の話は苦手と見える。
可愛いなどと女子共は黄色い声を更に高くして叫んでいる。
「いない!」
声を振り絞って、真っ赤になって、なんと健無げな。
自体の収集が付かない。
アームストロング先生は多分、予鈴までほって置くつもりのようだ。
傍観者よろしく、にこやかにその様子を見下ろしている。


本日の女子共の収穫
●彼女は居ない。
●好きな人も居ない。
●キスもしたことない。
●このクラスの中にタイプの女子が居る。
●年上は嫌いじゃない。


適度なところで予鈴。
糞餓鬼は女子の波状攻撃で疲れ切っているご様子。
南無阿弥陀仏。
心の中で拝んでおいた。成仏しろよ。


その日はそれきり、姿を見ることはなかった。


次の日も、次の日も。
あれ?
なんでだ?
女子共は怪訝な様子で、アームストロング先生に詰め寄っている。
自分たちが無闇にからかったからなのかと、反省の色ちらほら。
しかし、先生は口を濁すばかりで、何も言わない。
もう、来ないかもなと、女子に向かって思ってみた。
勿論、思うだけ。後が恐い。


だが、次の日は元気よく登校。
「初日に、オレの実験室でトラブル起きちゃって、お騒がせしました。」
照れた口調で頭を深々と下げる。
ヒューズ情報では、今大事な研究の真っ最中なのだが手詰まりを起こしたため、気分転換をするために教育実習に参加しているとのこと。
その研究でトラブルが起こったらしい。
解決したんですか?などと、矢継ぎ早に質問されている。
「一応、解決した。つか、させた。ので、これから、皆さんと一緒に授業を受けることになります。」
そして、また深々と頭を下げた。
そして、顔を上げたときの顔に妙な既視感を覚えた。


俺は小さい頃から妙な夢を時々見ている。
暗い森の中を誰かとずっと歩いている。
でも、とてつもなく幸せな夢なのだ。
その相手は暗くてよく見えないのだが、時々差し込む月明かりに蜂蜜色の長い髪が映るのを覚えている。
何度か俺に笑いかけるのも見たことがある。
それに良く似ていた。


俺は大きく頭を振った、そんな訳はない。
第一彼女は女で…女?
俺より身長が遥かに小さくて、髪が長かったけれど…。
確証がなかった。
スカート履いていたとか、なかったか?
暗くてよく見えなくて、でも月明かりが綺麗で…。


糞餓鬼と目が合った。
ああ、その目だ。
オレはその目を知っている。




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