「オレ、怒られたの初めて。」
「オレは一昨日怒られた。」
「それは威張るところじゃねぇよ。」
オレ達は意気投合した。
こいつは頭が良い。
会話も普通に成り立つ?
ところどころ日本語が怪しいのは、この際目をつむろう。
そして、ところどころにドイツ語?や英語が混ざるのも目をつむろう。
難関問題なんか、普段解く奴なんかいない。
テストに出ないし、基本、高校レベルじゃないんで。
それを解く天才餓鬼。糞餓鬼改めか。


「ロイ、それで?」
「ああ、面白い奴だって話。」
「あんたが、そうやって誰かのこと話すのはじめてみたわ。」
オレは、幼馴染のリザと一緒に帰宅する。
これは一種のスケープゴート的なものだ。
公然とは言ってないが、彼女彼氏の関係と世間は思っている。
もちろん、今まで付き合った彼女には了解の上である。
こいつの家は意外にお堅いのだ。
実際は、ただのお隣さん。
リザにはちゃんと彼氏がいる。
「今日、これからジャンと会うの。アリバイよろしく。」
「は?今日どこにも行かねぇよ。」
「えー?困る。もう約束しちゃったもの。」
「まず、オレの予定聞いてからにしろよ。」
「こんど何かおごるから。」
いまいちリザに頭が上がらないのは、なんでだろうか。


「さて、どこをふら付くか。」
家に帰り、私服に着替え、リザと遊びに行くと言って出かける。
もちろん、途中までリザと同行。
本日は気合が入っているようだ。
「なに?その気合。」
「そう?ジャン、こういうの好きだから。」
胸のラインが強調された服。
いくら気がなくても、目のやり場に困る。
「へぇ。」
まだ会ったことのないリザの彼氏が、おっぱい星人なんだと思いながら、住宅街を抜けた。
バスに乗って繁華街に赴く。
ここで、リザとはお別れだ。
「9時に公園ね。」
「了解。」
きちんとオレが送り届けて、リザの母親に挨拶すれば任務完了。


まずはゲーセン。
最高点をたたき上げたのもつかの間、先日大差で抜かれてしまった。
リベンジ。
奴の名前は2E。
100円で長時間遊べるパズルゲームは、脳の活性化にも最適だ。
オレはいつもの台に座り100円を入れた。
20分経過。
自己新更新!
心の中でガッツポーズをとりながら、目指す2Eの記録に向かった。
スピードは恐ろしく速い。
一瞬の判断ミスで終わりだ。
「あ、そこ。」
聞き覚えのある声にオレは思わず振り返る。
その瞬間、ゲームオーバーの音が響く。
「あー…」
あと、2389点で2Eの記録を…。
1094276点という自己新を悔しい気持ちで眺めた。
「あ、ごめん。つい…」
「いいよ。」
オレは、出しっぱなしにしていた財布をポケットに突っ込んだ。


「何してんだよ?」
「遊びに来た。」
「ひとりで?」
「お前もひとりだろ?」
これには事情というものが…。
しかし、9時までの恰好の暇つぶしを見つけた。
「先生、9時までオレに付き合って。」
「いいが、先生はヤメロ。」
「あ、」
「エルリックでも、エドワードでも、As You Like It」
「じゃあ、糞餓鬼。」
「は?」
「高尚なこと言う奴は糞餓鬼で結構。」
「意味わっかんね」
「会話の中に突然シェークスピアとか入れてくるような奴は、糞餓鬼で結構。」
怒ると思いきや、笑っている。
あれ?既視感?
「オレも、何するかな?」
オレの顔をジーっと見つめる。
「くろねこ。で、くろ。」
「はい?」
「お前、猫みたいだもん。」
「じゃあ、糞餓鬼改め、きんねこ。」
あれ?言いつつ再度既視感。
「で、きん。」
「なんか、ばぁさん見たいな名前だな。」
「じゃぁ、糞餓鬼。」
「きんでいいです。」
「もういい、普通に呼ぼう。オレはエドって呼ぶから。」
「じゃ、マスで。」
「なんで、そっちなんだよ。」
「じゃあ、タング。」
「意味わっかんね〜。」
オレ達は道の大らいで大笑いした。


腹が減ったということもあり、オレ達はファーストフード店に向かった。
こいつは、見事な大食らい。
ハンバーガーを3つ(違う味)ポテトのLにドリンクL。あとナゲットL。
オレはハンバーガーにサイドメニューをLサイズにしたもの。
「お前、それだけで足りるわけ?」
「充分。」
「オレは、お金がないので、これくらいで抑えてみます。」
「お金があったら?」
「あと、2つバーガー食うかな?」
大食漢。
それで、身長が伸びない理由は何だ?
普段から、こういうのばっかりだからか?
それにしても、不思議な気がした。
見た目女の子。
顔もそうだが、髪型も。
大き目のパーカーからのぞく細い首。
短パンからのぞく足もそうだ。
少年のそれといえば、そうかもしれないが、耽美的な香りが少女に見せている。
「おまえ、それが私服?」
学校では一応スーツっぽいものを着用している。
七五三よろしくお子ちゃまスーツだ。
蝶ネクタイをプレゼントしてやりたくなる。
「これ?弟のコーデネート。」
「弟いるんだ。」
「14歳。年子なんだよ。中学3年生。」
「へぇ。」
「ロイは、一人っ子っぽい。」
「正解。」
単調な会話。
でも、普段クラスメイトとしている会話とは違う気がする。
「弟は普通に中学生?」
「そうそう、あいつ、飛び級嫌がったんだ。でも、それが正解。」
「飛び級のほうが凄ぇ気がするけど。」
「そう見えるだけ、実際は大変だよ。期待と羨望。」
「だろうな。」
「ま、いいんだよ。別々の価値観で生きていけてるし。」
遠い目をする、こいつが妙に艶を纏ったように見えた。
「で、その弟がオレの服のコーデネートをするのが好きなわけだ。」
「その結果がそれか。」
確かに可愛く統一されている。
「今日、あいつは彼女とデートで、オレは一人ふらついているわけだ。」
似たような境遇に、同情した。
「オレも似たようなものだ。」
「いい加減、付き合ってるって公言したらいいんだが、しないんだよ。だから、3人で遊ぶといってオレは一人放置な訳だ。」
呆れた口調でものを言ってはいるが、存外楽しそうだ。
なんだかんだと言って、オレは弾む会話を楽しんでいた。
そして腹ごしらえと、時間までオレ達は街をふらつきながら話した。


「なんで、教育実習なんかにきたんだ?」
「ん?気分転換?」
「名目上は、だろ?」
「あはは、ばれてる?」
「もちろん。」
「オレさ、あんたに会いに来たんだよ。」
「は?」
真剣な顔をしてオレを覗き込む。
なぜか心臓が大きく鼓動を打つ。
「なんて言ったら運命的?」
冗談めいた口調だが、その顔は真剣そのものだ。
「……。」
「冗談だって。確かに、あんたを世話係?に指名したのはオレだけどさ。」
「お前か、犯人は。」
「だって、お前、今この国で一番頭がいいんだろ?オレの脳細胞刺激してくれるかなって。」
大きな瞳に車のランプが反射してキラキラ万華鏡のように光る。
口は笑っているのに、目は笑っていなかった。
「刺激って、たかが1番だろ?お前に敵うところなんかないよ。」
「充分刺激になってる。おもしろいよ。」
「そりゃ、どうも。」
「教育実習に来た理由は、同年代と交流すること。」
「じゃあ、中学でも良かったんじゃねぇか。」
「だから、あんたに会いに来たんだって。」
「それは、それは。」
「茶化すなよ。」
顔が次第に赤くなる。
なんとなく、可愛いと思った。
「オレは飛び級したけど、あんたはしてない。だから、会いたかったんだよ。」
頬を染めながら、口を結びながらオレを見上げる。
やっぱり可愛い。そこいらの可愛いと称される女子より可愛い。
仕草もそうだが、言葉の端々に感じれる恥じらい?がオレを高ぶらせる。
「へぇ。で、どうでした?ご感想は。」
「あ、変な奴。」
「おあいこだろ?」
「あと、無駄にかっこいい。」
「はい?」
「迷子になったオレを見つけてくれたとき、うわ、こいつなんかかっこいいと素直に思った。」
「そりゃどうも。」
「あ、お前の名前知らなかったわけじゃないんだぞ!驚いたのと安心したので、うまくしゃべれなかっただけだ!」
「はいはい。」
…あれ?
一生懸命に弁明する姿に思わず頭を撫でてしまった。
見上げる顔も驚きに変っている。
でも、オレのほうが驚いている気がする。
あれ?
そして、妙な既視感。
「あ、あのさ。」
振りほどかれるわけでもない手は、そのまま頭の上で行き場をなくしている。
「な、なに?」
その手は何だといわれるかと思いきや、驚くべき台詞が飛んできた。
「あんた、森の夢、見たことないか?」
「え?」
その瞬間トラックが横を通り過ぎ、爆音と風でオレはこいつを守るようには阻んだ。
あれ?
普通の男友達なら絶対やらない。
むしろ、彼女でも多分腕を引っ張って避けさせるくらいだ。
「み、見たことないならいい。」
突然早歩きで歩き出す。
それでも、オレのコンパスには敵わない。


「エド。」
「な、なんだよ。」
オレは思わず肩を掴んで口を押し付けた。
何やってんだ?
意味がわからない。
第一、こいつは紛れも無く糞餓鬼だ。
「な…、な…。」
真っ赤になった顔が、不安げに見上げる。
あちゃー。
「森の夢、見たことある。隣にいるの、お前だろ。」
見るうちに、ひらかれた目が更に大きくなる。
こいつの顔の半分は目でできていると確信した。
「あんた、なのか?やっぱり…」
「手をつないで、森の中を歩くんだろ?」
「そうだ…よ。」
「どんな、美少女かと思いきや、こんな糞餓鬼かよ。」
きょとんとした顔でオレを見上げる。
なんか、抱きしめたいな。
「糞餓鬼って言うな!」


オレ達は出会った。
出会うべくして出会ったのか。
それが、なんなのか。
残り3週間ちょっと。
これがオレの人生をがらりと変える事件だったら、退屈な毎日から抜け出せる。
そう思いながら、再度、この運命?の糞餓鬼に口づけをした。







第2話
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