なぁ、あんたは誰なんだ?
隣にいるのは誰なんだ?
オレなのか?あいつなのか?
誰か、教えてください。


誰かに問われた気がした。
『足りないものは何?だから、まだ出会えない。』
いつも見る夢よりリアルで、頭の芯まで響く声。
誰の声だろうか。
誰に出会うのだろうか?


その日の夢は、いつも隣にいる奴はいなかった。
一人森を彷徨っていた。
手に感触がないだけで、これだけ寂しいものなのだろうか。


起きてから、オレは必死に手の感覚を思い出そうとした。
大きくて、骨ばった細い手。
いつもなら、いやにはっきりと覚えているのに、曖昧だった。
小さく握ってひらいた手は物悲しく見えた。










くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※

第3回 くろねこはきんねこのことがあたまからはなれない











「なぁ、ロイ。」
「なんだ?」
「これは、例に言う、あれだ。あれですか?」
「どうみても、あれだろ。」
「あれですか。」
糞餓鬼の手には、ピンクの封筒。
丁寧にもしっかり封がしてあり、誇らしげに赤のハートのシールがそれがあれであることを主張している。
「これって、本当に、あれですか?」
すかしてみたり、斜めにしてみたり、振ってみたりと、何がしたいのかわからない。
「くどい。」
軽く睨みながら応えると、怯えた目をして見上げられた。
(別に、嫉妬心とか断じてそういう類のものではない…はずだ…?)
ダイレクト直球に言ってやってもよいが、“あれ”というこいつに合わせてみた。
いい加減、現実を認めたらいい。
それは、どうみても、まかり間違ってもラブレターという代物だ。
顔は、昨日と似たり寄ったりなくらい赤い。


基本、オレは8時前には登校している。
昇降口の混雑を避けるためだ。
昨日の放課後から溜まった、下駄箱の中の物品を丁寧に紙袋に入れなくてはならないからだ。
手紙から、お菓子から、そういった細々としたものがこの狭い下駄箱でひしめき合う。
混雑の中でそれを行おうものなら、冷やかしや妬みの対象になるにはもってこいだが、それもまた面倒極まりない。
それに、朝練連中も丁度片づけを始める頃でもあり、昇降口付近は静かなのだ。
今日は、見事に同伴登校のため、からかいのネタにはもってこい。
いや、違うか。
とは言っても、からかわれるのは糞餓鬼なのだが。
ブロッシュあたりが、高等部の場所がわからなかったんですか?と、初日?の一件以来、事あるごとにメンバー全員でからかっている。
オレは基本、傍観者なので助けを求められない限りは放置している。
閑話休題…たまたま、バス停で一緒になったのだ。
こいつは、研究所に寄ってきたそうだ。
朝から、熱心なことだ。
それにしても、まかりなりにも教育実習生として来ているのに、生徒と同じ下駄箱を使用するとはいかがなものか。


「開けないのか?」
「ちょっとまて、落ち着かせろ。」
「オレ、先に教室行くから。」
オレは、こいつが悶絶している間にオレは溢れかえる下駄箱の中の貢物を紙袋の中に収めた。
「あ、待て。オレも行く。」
大またで早めに歩くと、こいつは小走りを始めるということを送りがけに気づいた。
オレとしては、この速さは普通のスピードであり、大抵の男子学生はこれくらいのスピードだろうと思う。
頭二つ分とは言わないが、それに近い身長差があれば、流石にリーチも違う。
言うと顔を真っ赤にして怒られそうだが、そこいらの女子より小さい気がする。
いや、似たり寄ったり?


教室に入り、机について10分が過ぎようとしても、こいつは一向に開けようとはしなかった。
ただ見つめては、ため息をつくだけ。
「そろそろ開けてしまわないと、ヒューズやブロッシュにからかわれるぞ。」
こちらを一瞥して大きくため息をつくと、また“あれ”とにらめっこをはじめた。
オレは、紙袋の中身を整理して、今日付けの告白タイムの予定を組んでいた。
本日は1件。
多い時は5件ぐらいの告白タイムをさばく。
多いのは、クリスマス前、夏休み前、ゴールデンウィーク前。


「えい!」
おいおい、ラブレターひらくのにそれだけ気合がいるのか?
しかし、赤かった顔がみるみるうちに、青くなった。
「なんだ?不幸の手紙だったか?」
オレは、笑いながら、覗き込んだ。
慌てて隠されたが、綺麗な文字がならんでいたように思えた。
決して、不幸の手紙の類などではない。
「もしかして、男から?」
「泣いていいか?」
「は?」
「なぁ、泣いていいか?!」
そりゃショックか。
はじめてもらったラブレターが、男からだと。
それにしても、こいつは男難の相が出ているらしい。
オレが言えることではないが、ファーストキスの相手も男。
昨日なんか、うっかり襲われるところだったと。
まぁ、わからないでもない。
“夢”のことがなくても、こいつはそこいらの女子共より可愛い。
可愛いんだ。


「おはよう。諸君。今日もいい天気だね。」
「おはよ。ヒューズ。」
「どうした、ちっさい先生はブルー入ってるぞ。」
「ああ、おと…
むぐぐと、オレは口を塞がれた。
息ができない。
「なんだ?男からラブレターでももらったか?」
まぁ、オレの口を塞がなくとも、現場には証拠品が散乱している。
ピンクの封筒は開けられたまま放置してあるし、何より、オレが“おと”まで発しているのだ。
勘が悪くとも、大体のことは察せる。
「ひゅ、ヒューズ君…、このことは黙っていてくれるかな?」
「いいよ。で、見返りは?」
いい加減、放して欲しいが、これはこれで満足だ。
放すことを忘れたまま、呆気によられるこの糞餓鬼から逃れるのを諦めて、死んだ振りでもしてみた。
「珈琲牛乳…?」
「よく知ってるじゃないか。」
オレ達仲間内では、珈琲牛乳に勝るものはない。
昼休み、1番乗りでもしなければ入手できない希少品なのだ。
これを手に入れるには、4時限目終了のチャイムと同時に教室を出て、一目散に売店まで駆け下りなくてはならない。
「それより、ロイ、死んでるぞ。」
「いい。殺しておく。」
なんだと〜!
オレは生き返り、猛反撃を食らわせた。
その様子を見る女子共は朝っぱらから黄色い声を発している。
あの声は、年中無休24時間営業らしい。
朝は苦手なのと、淑やかな声を出しながら大人しく机に座っているような女子はいないのだろうか。
そうこう考えているうちに、エスカレート。
なぜか殴り合いをしている。
身長差があるためオレのほうが有利なわけで、面倒くさくなってきたオレは、頭を抑えてちょっと休憩。
まぁ、こいつ元気なことだ。
腕をぐるぐる回しながら、罵声を浴びせている。
「くそう!絶対テメェより身長高くなってやるからな!」
「そうだな。アームストロング先生を目指しなさい。はっはっはっはっは。」
真っ赤になって怒っているところに、予鈴。
意外と真面目なこいつは、フテ腐りながら席に座った。
ラブレターの件もあり、苛立ってんだろう。
殴られた箇所がちくちく痛かった。
あれ?殴られた箇所?
いや、なんだ?もしかして、ヤキモチ????
隣では、無造作に机の中に突っ込まれたラブレターがはみ出している。




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