夢想家と言われればそれまでで、オレの研究なんて、そんな夢の産物。
遺伝子が共鳴しているなんて、自分でも笑ってしまう。
大体、どこから出てくるんだ?
オレは男で、あいつも男。
遺伝子レベルの男色家なんて、気持ちが悪いこの上ない。
(別に同性愛者を愚弄しているわけではない!)
だって、男から告白されて、戸惑った。恐かった。
でも、あいつは違った。
だから、気持ちが悪い。
科学で証明できない事象は数知れないことぐらい知っている。
だけど、…さ、どうしてなんだろうか。
何が足りないのか、わかんないし。
もう1度手をつないで森を歩く夢が見れたなら自信だって付いたのに。
オレ、あいつが好きなのかな?
くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※
第4回 くろねこはきんねこにみつけてほしい
案の定、糞餓鬼は女子と共に歌うことに決まった。
腕を組んで首をかしげ、大いに悩んだ音楽教諭だったが、彼のプライドというものを無視したらしい。
女子共は黄色い声をあげ、普段構うことができない分、いじりたおしていた。
哀れ。
意気消沈の糞餓鬼は、顔を赤くしながらそれに耐え、歌った。
高い音程が歌えてしまっている己に、更に落胆している様子だ。
「ボーイソプラノって言うんだっけ。」
「意外と綺麗な目立つ声してるな。」
本人を目の前にしては、照れ恥ずかしい賞賛。
こそっと相打ち。
本日の放課後は、カラオケ大会に勤しもうか。
楽譜が読めないといってはいたが、誰もが知っている合唱曲だったため、歌詞がわかれが問題ないと思われたが、甘かった。
小・中で培われてきている合唱曲という概念が全く通じなかったのだ。
最終的には、全国各地、津々浦々、老若男女共通で知っている童謡となった。
それでも、ちらほら怪しいこの上ない。
懐かしい童謡が響き渡る音楽室は、いつに無く笑い声が絶えず、楽しかった。
名曲「アイアイ」をはじめ、「どんぐりころころ」から、「かっこう」「かえるのうた」の輪唱、「ぞうさん」と、本当に懐かしかった。
改めて歌ってみると、奥が深く、ぞんざいにあつかってはいけないと感じた次第だ。
これに即席ハモリのパートをつけては歌わせる音楽教諭もすごいと思うが、主線すらも危うい糞餓鬼に敬意を表したくなった。
1時間というのがあっという間に感じたのは、きっとこれが最初で最後であろう。
「今日の帰りは、カラオケ大会に勤しみますか?」
「いいね。」
「お、オレはパス。もう、いいよ。」
「なんだ?君に拒否権はないよ。」
ということは、オレにも拒否権は無いと、落胆しながらそれでも放課後に楽しみができたと、今日1日の気だるい授業を乗り切れそうだった。
「だいたい、オレ歌とかマジ、知らないし。」
「本当に、勉強一直線?」
「んな、ことはないけどさ、弟が聞くような曲ぐらいしか知らない。」
「どんな曲だよ。」
「ロック?ハードコア?パンク?」
一瞬世界が引いたのを感じたが、オレは抗体があったか気にも留まらなかった。
なにせ、最近のリザが聞く音楽もそれなのだ。
まぁ、自分の彼氏がそうなのだから、仕方がないといえば、仕方がない。
英語の歌詞をオレのところに持ってきては、訳を手伝わせられている。
決して、リザが英語が不得意というわけではないが、オレの比ではないからだ。
「帰りはカラオケ大会に決まり。」
げんなりとした顔を見せる糞餓鬼のわき腹を小突いて、にやりと笑うと珍しくため息しか帰ってこなかった。
「あんた、歌えるのかよ。」
「ん?」
「有名どころだと、オアシスとか、U2とか?」
「んだよそれ、わかんねぇって。」
「だめだめ、こいつ日本の曲って聞かねぇもん。」
「ロイは、英語の専門のヤツを独占して歌うんだよ。」
「へぇ。」
上目遣いににやけ顔。
これぞまさしく不敵の笑み。
「本格派のオレの前で歌いきれるかな?」
カラオケ行く気満々になったようで、なにより。
オレは、ご当地直産のような英語を流暢に話す糞餓鬼の前で、歌いきれる自信がないなと天を仰いでみた。
音で覚えて、活字で確認して…。
そこいらの日本人的にはNOVAの講師も絶賛賞賛の発音だろうが、実際現地に行ってみると発音のニュアンスが違ったりとおののくの必須。
わかってはいるんだ。
所詮、井の中の蛙。
「さて、次はお待ち兼ねの生物の授業ですが、どうです?」
ヒューズはなにかとこいつの面倒を見るのが好きらしい。
事あるごとに話題を振っては、中に入れようとする。
忘れる、阻害するわけではないが、出会って1週間と少し。
入りきれない話題というものも存在するし、その話題をしようとしてするわけではないが、結果的に流れ込んだりする時もあった。
「かったるい。」
「意気揚々かと思いましたが、やはり専門分野だと高校レベルは覇気がないですか?」
「なことないけど、オレの偏った専門から行くと、それ以外はチンプンカンプンです。」
わらわらと教室に戻ることもせずに生物室に向かった。
面倒この上ないので、音楽の授業に向かうときから生物の授業の1式もしっかり持参だ。
音楽室と、生物室の場所が離れすぎているというのもある。
見事に複雑なこの特別棟は時間のロスにも好都合なのだ。
しかし、専門以外はチンプンカンプンだと?
それは大学の専攻科以降の話だろうが。
いくら天才だといっても、一定レベルの高学力が無いと飛び級すら無理だろうが。
その話題は見事に右から左に流れていったので、知らぬ顔をして黙っていた。
お笑いなら確実に突っ込むところだと、2人でコンビを組んだ姿を想像してげんなりした。
「今は実験半分、3年間の総復習半分って所なんだけど、今日どっちだっけ?」
「演習問題じゃないか?」
「じゃぁ、来週実験で、その次が先生の模擬授業の練習かな。」
生物室に着くと、教卓にプリントの山が置いてあったので、本日はやはり演習問題らしい。
本日3枚つづり全7問。こう聞くと少ない気もするが、1問に掛かる時間が相当なものなのだ。
教科書などなど、引っ張り出せるものは出し、相談しあうことも許可されてはいるが、難関私立大学を模しての演習問題なので、解けるものでもない。
しかし、本日は強い味方が…と思った瞬間…
「エルリック先生は、助け舟を出さないでくださいね。」
「はーい。」
「それと、模擬授業の打ち合わせをするので、準備室に来てくださいね。」
「はーい。」
どこの小学生だよ。
とオレ達は、生物教諭と糞餓鬼に恨みがましい視線を送った。
「健闘を祈る。」
にやけ顔の糞餓鬼は席を立つと、つかつかと生物教諭の後を着いて準備室に立てこもってしまった。
そうか、かったるいのは模擬授業の打ち合わせ。
チンプンカンプンなのは、模擬授業の内容が専門外だからか。
そりゃ、教えるにあたって専門外だとやる気も何もなくなるか。
毎回毎回、これだけの難問を作り出す生物教諭に尊敬と恨みつらみその他諸々の感情を抱きつつ、目の前の紙に黒鉛をなすりつけた。
ものの30分もしないうちに、糞餓鬼は気だるそうな顔をして戻ってきた。
真っ直ぐに机に着き、黙々と問題を解きだした。
硬い黒鉛がすれる音だけが嫌に耳に付いた。
自分の問題に集中し始めた頃、紙をめくる音に思わず顔を向けてしまった。
前代未聞。
というか、開始早々1枚目が終わったらしい。
顔を戻すと、クラス全員の注目を浴びていた。
まだ、クラスの誰もが1枚目を終了していない。
無論、オレもだ。
その注目の的は、変らず黒鉛を擦らせている。
その集中に感化されてか、黒鉛の音は合唱をはじめた。
静かな教室。
いつもなら、談笑も混ざりつつなのだが、妙な緊張感が漂っていた。
オレもと、問題に集中した。
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