まあ、好きなんだろう。
好きなんだと思う。
好き…なんだろうな。
なんでもっと違う出会い方とかできなかったんだろうか。
俺が女だったら良かったのにな。
あっちが女でもいいな。
きっと美人だ。
髪だって伸ばしたら綺麗だろうな。
でも、抱きしめて欲しいからきっと俺が性別間違えたのかも。
なんだろう。
見つかった気がするのに、まだ足りない気もする。
くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※
第5回 きんねこがみつからない
「これから、カラオケ行くんだけど、一緒に行きませんか?」
遠くで呆気と嫉妬心にまみれていたオレは、思わず睨んでしまった。
本人は気づきもしていないが、無意味に焦ってしまった。
にやけ顔のヒューズの顔に一発お見舞いしてやりたくなったが、こらえてみた。
「待て、コラ。女に飢えた野獣とオレの幼馴染を一緒にできるか!」
確かに、見目麗しい少女だ。
色素の薄い金髪に白い肌、華奢な肢体。
それと違わぬ糞餓鬼も、傍目からは極上の美少女だ。
「お。先生は、幼馴染に“ほ”の字ですか?」
「ば…馬鹿言え!」
ちらっとこっちを向く。
助け舟が欲しいのそれとは違う。
勘繰るぞ。オレは、勘繰るぞ。
まぁ、いい。助け舟の一つや二つ、泥の船でよければいくらでも貸してやる。
「エド、その子の荷物持って送って来いよ。」
オレは寄りながら声をかけた。
我ながら敵に塩を送るような言動に泣けてきたが、それはそれ。
今まで培ってきたフェミニン大王は捨てきれるものではない。
「いいですよ。これ、エドには重くて持てないですから。」
と、軽々と大きなトランクを持ち上げる。
一見してそれが重いものとは思えない。
「持ってみなよ。お前だって持てやしない。」
げんなりとした顔をこちらに向ける。
試しにと、地面に置かれたトランクを持ち上げようとしたが…
「ん?」
腰に力を入れて持ち上げようとしても、持ち上がらない。
何と言う重さ…というか地面に接着されているような感覚だ。
「諦めろ。この中には工具うんたら、人の持てる重さじゃないんだよ。」
「何?エド。私が怪力みたいじゃない!」
諦めたオレの横では、次々にと鞄を持ち上げようと苦戦している。
「じゃあ、8時までには帰ってきてよね。」
「わかった。」
そう言って別れた。
8時というのは弟君が練習を終えて帰ってくる時間らしい。
軽々とトランクを持つその姿に、恐れ慄く男子高校生集団。
悲しいかな。
糞餓鬼の周りは一風変ったやつばかりだ。
「技師装具開発の研究員で、オレと同じ飛び級組みなんだよ。世界各国の大学をわたり歩いてる。」
「へぇ、」
カラオケに勤しむと部屋を借りて、1番手はヒューズが歌いだした。
「オレ、別にあいつが好きなわけじゃ、ないからな!」
小声ででも、しっかりとオレの耳には届いていた。
暗がりでよくわからないが、目を合わせないということはきっと真っ赤なのだろう。
可愛いと思う。
焦った手つきでリモコンを探し、操作し始めた。
意外と手馴れたその動きに、よく3人で来ていたりするんだろうなと思った。
「ロイ、U2とかオアシスだったらなんでも歌えるんだろ?」
「あ?大抵な。」
そう答えると、テレビ画面の右上によく歌う曲名が出てきた。
「オイコラ。」
「ははは。まぁ、うたってみやがれ。」
曲順的には次の次。
「お前は何歌うんだよ。」
「バンアパかドーピングパンダか、その辺り。」
「知らねぇよ。」
「だから、マイナーどころしか知らないんだって。」
「なぁ、先生。ビークルのラブディスコードとか歌える?」
ブロッシュが向かいの机から身を乗り出して、話しかける。
大音量の中、近距離でない限り声が届かないのだ。
「あ?歌えるけど。」
「よし、それ決定。」
ブロッシュが糞餓鬼からリモコンを奪い、目にも留まらぬ速さで曲を探し出した。
歌い終わったヒューズはさわやかな汗を振りまいている。
「この歌はオレのグレイシアへの愛の歌だと思う。名曲だ!」
などと御託を並べ立ててるが、こいつにとっては甘いラブソングは全部グレイシアへの愛の賛歌にしか聞こえないのだろう。
くそう、彼女持ちめ。
仲間内で堂々と彼女もちと言えるのはヒューズだけだ。
ブロッシュは隣のクラスのマリア・ロスにもうアタック中だが、眼中に無いと軽くあしらわれる日々が続いている。
ブラコントリンガムは彼女という概念すらないようだ。
かくいうオレも、つい最近別れたばかりだ。
そんなこんなとわらわらしていると、オレの番がまわってきた。
手近にあるマイクを取ると、異様な緊張感に包まれてしまった。
本場の流暢な英語を使う糞餓鬼の前で歌うのだ。
イントロが流れると、マイクを持った手が湿ってきているのに気が付いた。
しかし、オレは歌いきった!
「エド、どうだ。」
と、後を振り向くと、誰も居ない。
向かいでブロッシュと話しに花を咲かせていた。
曲調が変ったのに、驚いてこちらを向いた顔はあっけらかんとして、悪びれた様子は微塵もない。
「あ、ごめん。聞いてなかった。でも、うまいのな。違和感無かったぜ。」
あははと軽快に笑い、自分の番とマイクを取った。
激しいロックがスピーカーから流れている。
あの弟君がこういうのを歌うのかと思うと、不思議な気分になったが、ハボック青年といるところを生で目撃していたため、きわどい違和感だけで済んでいた。
ボーイソプラノの澄んだ声はよくあっていると思う。
シャウトなどするのかと危ぶんだが、それもなく流暢な早口な英語をこれ見事に歌いのけた。
「ロイ、エドの弟がバンドのボーカルやってるの知ってたか?」
「ああ。」
「それがさ、オレが目をつけてたバンドらしくって。」
「そんなすごいバンドなのか?」
「すごいのなんのって、この辺のインディーズ系のバンドの中ではトップクラスだぜ。」
「へぇ。」
「ボーカルの特殊な透き通る声とか、すごいんだぜ。あと、ベースの重厚な響きといい…」
「わかったわかった。」
後半部分がほとんど聞けなかった。
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