何たる失態。
相変わらず、泣き顔しか見せていない。
笑っている予定だったのに。
予定は未定とはよく言ったものだ。
確定されきらなかったオレ達の距離は付かず離れず、平行線をたどっている。
メールも煩雑ではないが、相変わらずだ。
また会えるような淡い期待感だけが、オレ達の関係を繋いでいた。
本当は、逃げてしまいたかった。
オレが望んだなら絶対にロイは、手を取って逃げることを選択してくれたと思う。
ここに踏ん張れなんて言えるほど、オレ達は大人じゃない。
でも、子供でもない。
だから、こうして胸を痛めるんだ。
10年、20年…なんて途方もない時間。
オレは耐えられるのだろうか。
ただ研究に身を捧げる。
ああ、気が狂いそうだ。
何が悪かったんだ?
どうして?
オレは、ただ普通に生きていたいと願うのに。
伸ばせど届かない。
教育実習が終わって研究所に戻って…、今みたいにロイがバイトに来たりして。
帰りはお好み焼きでも食べて帰ろうかとか、そんなたわいもない話をして。
たまには、暗がりの公園で、キス…なんてのもいい。
思い切り抱きついて、抱きしめられて、幸せを感じたりするんだ。
ロイが大学生になったら、バイクの後にでも乗せてもらって、海に行ったりするのもいい。
それで、やっぱりジャンの方がバイク似あうとか言って、小突かれるんだ。
試験前には思う存分邪魔してやろう。
落第すればいいと、ふざけるのもいい。
でも、あいつ頭いいからな。
少々邪魔したくらいじゃぁ、落第なんかしないんだろうな。
すべてが虚しい。
オレに待っていた未来。
オレを待っていた未来。
オレが待ち焦がれた未来。
すべてが虚しい。
ロイ…ろい…
ごめん。
くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※
第9回 くろねこのはなし
運転免許証というのは、なんとも薄っぺらいものだった。
すべての講習1発で通るし、試験も1度も落ちることなく楽勝とばかりに手に入れた。
器用貧乏だと笑った。
もちろん、手に入れたのはミッションだ。
オートマ限定じゃないのは正確に言っておかなければなるまい。
リザはセンター試験前とカリカリしていたが、それも数日前に落ち着き今は何故かうちのリビングで寝そべっている。
出来は上々らしい。
リザの実力なら、カリカリする必要性も感じられないのだがな。
何やら、家に親戚が来ているそうで、うるさくて羽伸ばしが出来ないと逃げてきた次第だ。
こいつが受験モードだったため、正月の挨拶も遠慮してろくにしていなかったのだろう。
かれこれ30分前に理由を説明され、めずらしく出していたコタツに入りみかんを食べ、そのまま寝てしまったのだ。
なんとなく、腹いせにジャンに連絡を取って家に来るようにと伝えた。
こいつがここにいることは知らせてないので、お互いに驚けばいい。
ささやかな嫌がらせと、遅ればせながらのクリスマスプレゼント兼お年玉だ。
10分少々で付くと言っていたので、とりあえず正月怠けで散らかっていたものを片付けた。
なにせ、母はお得意さんとハワイでバカンス中だ。
正月前後は日本人で溢れ帰り楽しめたものじゃないと、正月からずれての旅行だ。
まだ2〜3日は帰ってこない。
かるくモップをかけると、コートを羽織った。
丁度いいタイミングで、インターンホンが鳴る。
新年の挨拶を簡単に済ませ、エントランスの自動ドアを開けた。
さてと。と、ポケットに財布と携帯を入れて、オレは部屋を出た。
エレベーター前で会い、向こうは驚いている様子だった。
「ちょっとでてくる。部屋のは好きにしていいよ。出かけるんだったら、鍵閉めて。あとはよろしく。」
有無を言わさぬ早口で、手で押さえていたエレベーターに乗り込み唖然とするジャンを閉まるドアから眺めた。
クリスマスライブは大いに盛り上がっていた。
チケットが取れなかったという輩も多く、店外で漏れる音に盛り上がっていたそうだ。
店のオーナーが再三注意しても解散せず、終いにはアルフォンスくんが自ら出向いて、解散するようにお願いしたそうだ。
そいつらのためだけに後日ライブが行われるらしく、整理券としてアルフォンス君が手書きで書いた紙切れは今や、通常のチケットの10倍の値に膨れ上がっているらしい。
それを聞いた彼は、肩をすくめて困ったように笑っていた。
オーナーも困った顔を見せ、同じようにして笑っていた。
クリスマスライブのチケットも前売り1時間で完売し、驚くほどの高値で飛び回っていた。
ここ2ヶ月、彼らの出演は単独ライブだけになっていた。
もちろん前座ありだが、合同ライブという形ではない。
純粋に“F_α”のライブを見に来る客のみになっていた。
マイナー雑誌の取材の件数は大いに増えていた。
パンフレット程度のライブのタイムテーブルにはでかでかと写真が飾られている。
まだアルフォンス君が、義務教育中という事もあり、顔が判別できるものではないが、それでもその号のタイムテーブルは瞬く間に無くなった。
ライブハウス自体も、いつものところだけではなく休みに入るやいなや、日帰りできる範囲を飛び回っていた。
ひっぱりだこよろしくだ。
そんな渦中、リザは必死に受験勉強モード、ジャンはライブ三昧。
見事に年末から合わずじまいだったようだ。
リザはリザで、オレがライブに出向いた時には決まって、ジャンの様子を聞いてきたし、また逆も然りだ。
ケータイ電話を持っているのだから、お互い連絡を取ればいいものを、無意味な遠慮をしているようだった。
難なく受験は終わり、残るは春先の2次試験のみになる。
どうやら2次試験は小論文や面接、専攻科目の試験のみになるので、この時ばかりはと羽を伸ばしている。
来週になれば、受験モードに再突入するのだろう。
バイトも今日は無く、1日フラフラとするしかない事態に陥っている。
大学に入れば半年の一般教養が終わればすぐさま専門課程に突入する。
持ち上がり組み以外は2年の一般教養が待っているが、持ち上がり組みは2学期から既に大学の一般教養の授業が始まっているといっても過言ではない。
専門課程に早々と入れるという事もあり、高校からこの学園を志願する割合は高い。
各言うオレもそうだからな。
それでも、卒業までの期間は授業という授業もさしてなく、一部は受験モード、一部はのんびりモードと、見事きっちり分かれていた。
この時期に車の免許を取るなどするのが定石らしく、クラスの大半は免許を取ろうとする真っ最中だった。
オレとしては既に取ってしまっているので、暇この上ないのである。
バイトと言えば、エド専用の部屋は見事に研究室に変わってしまった。
教授面々も苦渋の選択だったらしいが、空き部屋をそのまま何もせずに放置しておくほど、部屋割りに余裕があったわけではなかったらしい。
はじめは割り当てられた研究員も神妙な面持ちで、出入りしていたが今ではそこの主はその研究員だとして、落ち着いている。
その部屋からはがされた『エド専用』はオレの部屋で、あいつのホットラインのアドレスの横に貼ってある。
メールも相変わらずだがしている。
もう少しは院生らしいので、規制がゆるいらしい。
本格的な研究に入る前で準備などで忙しいらしいが、それでも一応人間としてそれなりなまともな生活を送れているらしい。
向こうでは雪が酷いらしく、下手をしたら研究所から出られない、停電して研究にならない、家から出ることが出来ないなど、自然災害に戸惑っているようだ。
年末年始、休暇というか冬休みに突入したわけだが、運悪く暴雪のため、飛行機は3日飛ぶことかなわず、なんとか天候が良くなった時には休暇が終わっていたとのこと。
ありえないと愚痴をこぼしてはいたが、寂しいとは一言も言わなかった。
一足早く帰ってきたウィンリィちゃんは、大笑いしながらアルフォンス君を叩いていた。
この二人の関係は不思議とオレとリザの関係と同じように思えた。
幼馴染という共通点があるからだろうか。
二人は付き合っているのかと、茶化される場面は多々あったが、どちらも「そうだ」とも「違う」とも言わなかった。
既視感を感じたが、このふたりの行く末はなんとなく見届けてみたくなった。
オレとリザのように恒久の親友とも呼べる存在になるのか、オレ達が適わなかった恋人同士という関係になるのか。
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