笑ってさよならをした。
握手をして、少しだけキスをして、抱きしめあって、さよならと言った。
きっと、ロイもタクシーの中で泣いてんだろうなと思いながら、バスの中で堪えきれずに泣いた。


要塞とばかりの研究所。
外部との連絡も何も無い。情報も遮断された、完全なる密閉空間。
はじめの1年はデータの復旧作業。
次の1年は破損部の解明。
次の1年からは、未知の世界だった。


外部に協力を要請することを上が許可したのは、本当に研究が行き詰っていることがわかったからだろう。
外界と遮断された空間は、1人ずつ心を病むものを生んでいった。
隔離病棟へ送られる研究員を見るたびに、あいつの存在の大きさを実感した。
ここから出るためにも、一刻も早く研究を完成させなければならない。
協力要請の相手の詳細は研究員に知らされることもなく、定期的な報告だけが送られた。
的確な理論構成に、目を丸くした。
何かが足りないと、それを追い求めていたものがいとも簡単に見つかったことには驚いた。
添付資料の著書は勿論、ここにもある。
何度となく読んだし、解読もした。
狂喜乱舞で、研究が進むと喜んだ。
誰も外部協力者に期待をしていなかったものだから、大いに喜んだ。
オレも、喜んだ。
完成まで目と鼻の先だ。


その頃、とんでもない噂が流れ始めた。
『研究者は完成と同時に一部の研究者を残し処分される。』
残る研究員は初期メンバーのことだろう。
オレ達大学やら、研究室から寄せ集めの研究員ではない彼らのこと。
逃げるかどうするかとか、密かに密談が交わされていた。


逃げる?どうやって?
逃げることを考えることが馬鹿らしいと思った。
グリードさんが成した研究は、もう少しで完成する。
あいつと離れた最大で絶対の理由。


逃げようとした研究員が捕まって処分されたという話を聞いた。
最初にここに来たときには大所帯だった研究員も数えるほどになっていた。
そででもオレは、ただ黙々と理論を組み上げていった。


季節を感じなくなったのはいつの頃だろうか。
外の様子も見えない空間。
規則正しい生活。
でも、天気すらわからない世界に、違和感は感じなかった。
あいつのいない世界なんて、どうでもよかった。


あと1年データを取れば完成するというとき、それは起こった。


この要塞にどこから侵入できたのだろうかと、半ば人事のように感心した。
遠くで銃撃音している。
それが近づいてきたとき、オレ以外の研究員は半狂乱で震え、叫んでいた。
退路は無い。
本当に、恐怖感とかそういうのは無かったんだ。
なぜかって?
オレがオレを殺すことを知っていたからだ。
今ここに来ているのは、まさにオレだ。
夢の中のオレだ。


彼を追いかけるようにして夢を見ていると確信したのは、彼の研究データを見たときだ。
夢の中の彼はある時まで本当に幸せの中にいた。
幸せを与えた人間はロイだった。
いや、夢の中のロイか。
彼が死んだ理由も勿論知っている。
彼がなぜ憎んでいるのかも知っている。


死にたくないのに、オレはオレを殺したかった。
研究を続けたくないのに、夢の中のロイを殺した研究が憎いのに、それでもオレは研究を続けた。
でも、グリードさんを殺したのもオレなのだ。


ロイ、お前は幸せになれ。


血の吹き出す胸元を軽く押さえる。
血が暖かい。
オレは薄れゆく意識の中、オレを確認した。
ああ、そっくりだ。


アルフォンス、ウィンリィと幸せになれよ。
ハボック、リザさんと幸せになれよ。
ヒューズはもう結婚してるんだろうな。誰だったっけ、1度だけ見たことがある。きれいな人だった。
母さん、父さん、あまり悲しまないでくれよ。


ロイ…お前は少しだけみんなより悲しんでくれ。


ロイ…、嘘だ。誰よりも笑って、幸せになれ。


ロイ…、好きだよ。


ロイ…、もう1度声が聞きたかった。


ロイ…、左手が寂しいよ。


心臓の熱さが、あの情事を思い出させた。
心臓が爆発するかと思った、あの情事を思い出させた。
死んでいくのに幸せを感じた。
夢の中で何度となくオレはロイに抱かれたのに、それを思い出すことは無かった。
アレだけが、オレとロイの確たる真実だ。
繋がれた体。
熱い吐息、熱い手、熱い体。


ロイ…


知らない右手がそこにあった。
慣れ親しんだ手のはずなのに、知らない手に見えた。
オレはその手を強く握った。


森を歩いた。
手をつなぎながら。








くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※

第11回 くろねこへ








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