「だから、君はどうしてそんなに堅苦しいんだ。」
「ご主人がキチンと仕事をしていただければ、こんなことは申しません。」
夕食後は、その日に届いた手紙の始末。
夜のうちに書いてもらわなければ、朝一で取りに来る郵便回収員に悪い。
「これだけの数を毎日毎日、読んでは返事を書き、もう飽き飽きだ。」
「文句を言っておられる暇があれば、手を動かしてください。さぁ、あと2通分です。」
サロンの招待状と、恋文が大半を占める。
断るにしろ、受けるにしろ、キチンとした返事を書かなければ後々大変なことになる。
この社交界という世界はいまだ謎めいてはいるが、一見華やかだが、大変陰湿なもので構成されている。
「恋文というものの返事というのは、慣れることはないな。」
「誰か特定の人物でもおありなら、断る理由にもなるでしょうに。」
「君の名前を書くことができないから、困っているのだよ。」
この会話も何度目だろうか。
オレはただの執事だ。
こいつの恋人にはなり得ない。
オレが困った顔をすると、ペンにインクをつけ、黙ってそれを走らせた。
眉目秀麗容姿端麗。
社交界に一歩足を踏み入れれば、振り返らないものはいないだろう。
こいつの母親もとてつもなく綺麗な人だった。
肖像画などは残っていないが、1度だけ見たことがある。
幼いながら美しい人だと感じた。
オレが屋敷に出入りを始めてからすぐに亡くなったので、本当に記憶はおぼろげだ。
いうなれば、先代の妾になる。
2人は相思相愛で、反対を押し切ろうとしたがこの領地を守るため、仕方なくジャン様の母親と結婚したらしい。
ジャン様の母親も、先々代方と一緒に街で暮らしている。
良く考えれば、天涯孤独いいところだ。
オレも、こいつも両親がいない。
でも、一つだけ違うのは、望まれて生まれてきたか、そうではないかだ。
「このご婦人たちも、私の出生を知ったら、手紙を出してくれなくなるのかな?」
こういうときのこいつの顔は酷く辛そうで、また同時にそれを楽しんでいるように見えた。
「縁の切れ目が金の切れ目でございます。ご自身で絶ってどうなさいましょう。」
「ははは。確かに。このご婦人の父親は富豪だし、得意先だ。」
「でしたら、真摯に手紙をお書き下さい。」
オレが女だったら、オレがどこかの令嬢だったらどれだけ良かったことか。
こんな時、酷く思う。
でも、そんなオレをこいつは愛しただろうか。
「もう1通ございます。ジャン様からです。」
この手紙が来ると、いつでも不安げな、そしてうれしそうな顔をする。
兄弟仲は悪くはない。
むしろ良いと言っていい。
ジャン様はこいつを慕っているし、尊敬している。
こいつも、ジャン様をとても大事に思っている。
「来週末辺り、帰って来るらしい。」
オレもそれについては複雑だ。
ジャン様が帰ってくるのはうれしい、なんたって弟にも会える。
問題はそれの付属品だ。
あの人たちが帰ってくると、この屋敷だけじゃなくて領地全体がピリピリする。
難癖をつけるのがお得意と見える彼らは、住民の作るものに対して色々とケチをつけたりする。
此処産の布や工芸品がどれだけ高価な値で取引されているか、あの人たちは知らないんだ!
「君も複雑だろうが、まぁ、1週間程度の滞在だろう。」
笑っているが、どこか乾いている。
嫌味つらみを言われても、笑っていなくてはならない。
ああ、最悪。
この1日の最大にして最悪なイベントを済ませた後は、湯浴みをする。
これから先は、オレ達は主人と執事ではなくなる。
「エディー。脱がして。」
「脱ぐくらい自分でや…って、こっちくんな。」
そのまま覆いかぶさるようにして、オレを壁に追いやる。
半分脱ぎかけのワンピースはだらしなく腕に絡まっている。
それをいいことに、そのままそれを持ち上げられた。
こいつは、こういう変態プレイが大好きだ。
放置、視姦、目隠し、緊縛(こんなゆるい程度)、など!バリエーションは豊富だ。
オレとしては普通ので満足だ。
腕を高々と持ち上げられて、見事に自由を失っている。
もう少し身長があれば、こんなことはさせないのだが、頭二つ分の身長差は大きい。
そのまま、おでこに、耳に、鼻に、頬に、キスを落とす。
「このままじゃ、脱げないし、脱がせられないんだけど。」
「うーん、そうだね。このままするか?」
「馬鹿言え!」
そうは言っても、なすがままなのはいつものこと。
脇元に鼻を突っ込んで臭いを嗅ぐのもいつものこと。
オレは必死の抵抗と、身をもじる。
慣れないし、くすぐったい。
「いい匂い。」
「ホント、変態。」
そのまま、舌先で舐められれば、オレは腰砕け。
立ってなんていられないし、変な声も出てくる。
ああ、こいつに良いように飼い馴らされている自分が恨めしい。
遡ればまだ8つかそれくらいだ。
オレの下着を嗅いでいるコイツを見てしまったところから、こういう関係になってしまっている。
堂々と嗅ぎ、堂々と開き直りやがったこいつの姿はいまだに忘れることができない。
トラウマいいところだ。
意味がわからなくて真っ青になって、とにかく、訳のわからないまま押し倒されたんだ。
いたいけな少年に…全く…。
おかしな性癖を持ったご主人を持つと大変だ。
ま、おかしなところはそれくらいで、あんな劣悪な環境下でここまで真っ直ぐ育ったのだから文句は言えない。
そのまま、下着の中に手を入れられ、まさぐられたならば開始のゴングが鳴る。
もはや誰にも止めることはできない。
まだ理性の残る頭の隅っこでため息を突きながら、この変態の手に身をゆだねた。
「あー、もう、掃除するのが大変なんだから、絨毯の上でそういうことすんのやめろよな。」
「そういうのは、女中に任せればいいだろう?」
「あー、わかってねぇな。こんなゴシップくれてやってどうする。」
「みんな知ってるのに?」
「知っているのと、実際生々しい現場があるのは違うんだ!」
オレは、素っ裸のままというか、思考能力が真っ当になると同時に事態の深刻さに驚いたわけだ。
あたり一面に飛び散ったオレの何にだ。
もう、最悪。
風呂の中なら簡単に掃除できるが、絨毯の上じゃ…。
すぐに拭かなければ染みになるし、こびりついて取れなくなる。
それに、これはこの領地の特産品だ。
作ってくれた人の顔が浮かぶだけ始末が悪い。
「エディ。」
「なんだよ。今忙しい。」
「掃除している側から悪いんだが、君のお尻の穴から垂れてるものがまた更に絨毯に染みが…」
「ばっか、早く言え!」
とりあえず、オレは浴室に急行した。
そこで、中身をがっつり出して軽く下半身を流してタオルを巻いて舞い戻った。
「君のその処理の速さは、敬服に値する。」
オレはそれを無視して、掃除をした。
相手にされないとわかると、大人しく服を脱いで浴室に向かった。
気配が消えると、オレは大きくため息をついて、取り残しがないか目を皿のようにして探した。
「お待たせ。」
ふてくされた背中は、今か今かと待ちわびたようだった。
「誰のお陰で、オレが掃除したと思ってるんだよ。」
「誰かな?」
ニヤニヤと意地悪く笑うこいつを、泡を手の上に広げて背中から洗ってやる。
さっきまでオレの中に入っていたそれも丁寧に洗う。
わかってはいたが、また元気になる。
洗い流しながら、オレはそれを口にくわえた。
こいつも、手に泡を広げてオレの身体を撫でる。
お互いに泡だらけになりながら、身体を擦り合わせる。
「怒ってるかい?」
「呆れてるだけ、次から気をつけてくれ。」
「わかった。」
対等な立場のこの時間だけは、オレも心が安らぐ。
そり立つお互いのそれをすり合わせながら、オレの後の穴は侵入を期待した。
オレも人のことは言えない変態だ。
その日は風呂場で2回で終わった。
ふやけた手足が面白いと、2人でシワシワな手を見合った。
そのままオレは自室に戻り、まだ高揚しつつも疲れた身体を糊のきいたシーツにうずめた。
肌にひんやりと気持ちが良く、そのまま夢の中へと誘われた。
オレ達の日常はこんなものだ。
平和で穏やかで、臭いものには蓋をして。
オレも、あいつが好きで、あいつも、オレが好きだ。
それだけあれば満足だし、それ以上はいらない。
この先、何が起こるか皆目見当もつかないが、願わくは爺になるまでこうしていたい。
やっぱり、そんなことは無理だったらしく、嵐はやってくるのだった。
とぅ びぃ こんてにゅう
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