彼女(彼?)とボクと、時々、先生。

sutudy00:彼女とボクはこうして出会う。







「マ・ス・タ・ン・グ・せ・ん・せぇ〜。」
大きな甘い声と共に階段を軽やかに駆け下りてくるそれをアルフォンス・ハイデリヒは見上げた。
短いひざ上のスカート丈に、下着が見えるのではないかと思わず顔を背けた。ss
授業の質問をしている相手、ロイ・マスタングは顔を向けなくとも、それが誰なのか判っているようであり、振り向くこともせずに、問題に関する的確な回答を思案していた。
近くまで声の主が寄ってくると、ようやく顔を上げる。
「エルリック。」
声の主の名前はエルリックと言うらしい。
アルフォンスはその声の主に驚いていた。
煌びやかな蜂蜜色の髪を二つにまとめて揺らしている。
走ってきたのだろうか、頬を軽く赤く染め息を弾ませている。
なにより、アルフォンスが驚いたのは、その両眼だ。珍しい琥珀色。
大きな瞳は、宝石といわんばかりの輝きに見えた。
「今日、研究室寄って帰るから。アルも一緒だから、大丈夫。」
「わかった。気をつけて。」
彼女たちの会話を眺めたまま、アルフォンスは少女の可憐さ美しさに見とれていた。
「じゃあな、オレ急ぐから。」
パタパタと去っていくその姿を見送りきるまで、それを凝視していた。


「先生!誰ですか?」
思わず、アルフォンスはロイに問い詰めた。
会話は脳にとどまらず右から左へ耳を突き抜けていったが、彼らの親しげな雰囲気だけは読み取れていた。
「…。惚れたか?」
にんまりとするロイはアルフォンスをからかうように、それを突きつける。
実際ロイの心情は複雑だったが、それはそれ。教師のお面を被っている間はただの教師なのである。
「い、いえ、そういう…」
アルフォンスは上気しながらも必死の抵抗をした。
裏腹に、それを立証する如く、耳までも赤くなり、否定すれば否定するほどそれは確信に至る。
ロイはその様子をまじまじと眺めていた。
これからの自身の言動をどうするか。
一般生徒同士なら、校則で禁止をされていない交際を応援するところだが、これにおいては話が別であった。
「やめとけ。」
呆気にとられるアルフォンスの顔を見ながら、ロイは普段見せる陽気な教師像からは考えもつかないまじめ顔を見せた。
その顔にアルフォンスは上気したものが引いていくのを感じていた。
相手の真剣な顔は、揺るぐことがなかった。
それは、牽制というよりも強いものだった。
「それは、先生の恋人だからですか?」
誰にも言いません。先生と生徒だなんて、大変でしょうけど、頑張ってください。僕、応援します。と、一気にまくし立てる。
先ほどまでの真剣な顔は既に崩れており、普段見ることのない饒舌さを見せる生徒に呆気に取られていた。
一つため息をつき、どこまで説明しようかと思案した。
ここで下手なことでも言えば、ゴシップのネタになるような気がしたからだ。
ただでさえ、噂に事欠かないロイであり、エルリックであったため、このような噂は避けなければならなかった。
「先生はね、ハイデリヒ君。あいつらの後見人なんだよ。まぁ、一緒には住んではいるが。」
「あいつら?」
「A組にいるだろ。お前をそっくりそのまま縮めたやつが。」
「ああ。」
アルフォンスの頭に浮かんだのは、ドッペルや生き別れの双子の兄弟、はてまた分身など入学時に噂された同級生の顔が浮かんだ。
確かに彼もエルリックだったと、曖昧な記憶を手探りしていた。
「そいつの兄貴があれだ。」
「へえ、そうなん…です…か?」
アレ?とアルフォンスは会話をプレイバックする。
ロイは見るうちに顔が青くなり、冷や汗が出ていた。
そして言葉にならない声で口をパクパクと金魚のようにして、目線を反らした。
「ア…アニ…
「マスタング先生!」


「何をしていいらっしゃるんですか?会議が始まりますよ。」
ロイのピンチを助けるが如く登場したリザ・ホークアイにロイは感謝を覚え、アルフォンスはタイミングの良い登場を訝しんだ。
「ホークアイ先生」
リザの機嫌は誰が見ても最高潮に悪いと取ってわかる。
その顔は笑顔だが、出ているオーラに風神雷神の形相が見えるようだった。
リザは、救いの女神といわんばかりのロイの耳を強く引き、助けを求める声をにらんで制止した。
その姿に、アルフォンスは背筋が凍る思いをする。
「ごめんなさいね。ハイデリヒ君。」
こちらを向いたいつもの優しい笑顔に一瞬胸をなでおろしたハイデリヒだが、次の瞬間リザは神をも凌駕する形相を見せた。
「今聞いたことは忘れなさい。」
声もいつもの優しい穏やかなものとは違い、地を這うよなおどろおどろしい声だった。
アルフォンスは憧れの女教師という存在であったリザ像が音を立てて崩れていくのを感じながら、返事をした。
嵐のように去っていくそれを、血が引いていくのを感じながら見ていた。
「………。」


「うっかり口を滑らせたなんて洒落になりませんよ。」
「あ、あのホークアイ先生。学校でそういうモノは…」
ロイの背中には黒く鈍く光る銃が突きつけられていた。
掌サイズのそれは、一見玩具のようだがかなり使い込まれているようだった。


「なぁ、マスタング先生どこに行った?」
その声に正気を取り戻したアルフォンスは、驚きながら声の主の方を振り向いた。
声の主はそれに驚き、声を漏らしながらたじろいだ。
「?」
先ほどまでの疑いはどこへやら、アルフォンスには声の主がどうしても女生徒としか見えなかった。
「先生なら、ホークアイ先生が会議だって…」



* * * * * * * * * * *

これが彼女(彼?)と僕の出会いで、なんでもない日常がなんでもある日常に変った瞬間だったんだと後に思う。
後に、僕はこの瞬間をとても後悔することになるけれど、それよりも後に、この瞬間に感謝し、彼女との出会いが何か特別なものだったと思うことになる。







とぅー びー こんてぃにゅぅ
2007/05/16up

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