「はじめまして」と、こっちが下手に出たはいい。
あたり前だ。こっちは雇われる身で、あっちは雇い主。
自己紹介などは必要ないのは知っている。
お互いあらゆるルートで互いのことを調べつくしている。
まぁ、調べられる程度のことだが。
容姿端麗眉目秀麗あとなんだ?
世界中にある形容詞を集めても足りないような人間がこの世にいるなんて、はじめて知った。
あれだ。鏡を見て、自分が美しいとか言っても、ナルシストなんて言葉が似つかわしくない。むしろ当然の感想なんだろうなと思うような顔がそこにあった。
写真で見ても、驚いたが、生はそれなりの迫力があった。
そんな第一印象からとうてい似つかわしくない言葉…もっともオレが毛嫌いする言葉が発せられた。


「小さいな。大丈夫なのか?」


軽く殺意が…いかん、こいつの命を守るのがオレの仕事だった。












黒猫の用心棒

教訓1〜確かにもったいないとは思うけれど、生ゴミはあさらないように!〜













この不景気の世の中、自分の身を守るのにもケチになったか、オレのような仕事は完全にお役ごめん状態になりつつあった。


元殺し屋
元スパイ
元暗殺部隊


どれにも属さない根っからのBGだったため、なかなか求人に応募したところで受かることはなかった。
仲間内の面々はフリーだったり、雇い主がいたりで、それなりに食いつないでいる。
その元締めのオレの弟は怪訝そうな顔をしていた。
「兄サン、この数ヶ月まともな仕事してないようだね。働かざるもの食うべからずだよ。」
若干14歳にして、BG業界屈指のやり手。オレの弟…びっくりする。
「受からないものは仕方ないだろ。」
実技試験まであるものはいい。大抵書類選考で落とされる。
身長か…身長が原因なのか!!
「牛乳飲まないから…」
エスパーか、我が弟よ。思ってることが筒抜け…というか単に感がよすぎるのだ。それが、BG業界屈指たる所以。


「フリー募集じゃぁ、いつまでたってもダメだね。こうなったら、専属を探すしか…」
書類を眺めながら、嫌みを言っていた弟が突然だまり込んだ。
そして突然の破顔一笑。
「兄サン。身長制限ないよ!」
身長制限…やはりこういう仕事柄、体格の良いヤツが募集対象。
オレの身長は…いわずもがな。


書類選考に通った時は祝杯を挙げた。
オレの兄貴分(元陸自精鋭部隊)のバボックやお姉さんのように慕ってる(元某国諜報部暗殺班)リザさんは一緒に祝ってくれた。
一方、法外の報酬が気になっている様子の実の弟のアルは、依頼主の身元を洗いざらい調べている最中だった。


「アルさん、大丈夫ですって。マスタングといえば、相当有名な華族じゃないですか。」
オレ達の間では、そういう貴族流れの金持ちやそういったあたりを華族と呼んでいる。
「にしても、おかしいんだよね。これだけ凄いヤツが募集要員1名、報酬月額2万センズ。家についてるものだよね?こういう華族様って…」
まだ顔中に疑問符を浮かべて悩んでいる。
報酬月額2万センズには、いささか法外さも感じるが何か特別な理由があるのは、あたり前だ。こういう世界な訳だし。訳ありあたり前!
「大丈夫だって、実技があるなら、落ちる心配はない。」
全員の視線がオレに集中。
「誰も、そういう心配をしてるのではないんだけど…」
リザねぇは肩を揺らして笑っている。
「大将は大丈夫ですって。誰よりも強くて賢い。欠点は身長だけですから。」
一言多い。
リザねぇはとうとう、声を出して笑っている。


二人はやさしい。
かけなしにやさしい。
BGはオレ達の親の家業で、その時からいた彼らは本当に幼い頃から世話になっている。
親父と母さんが殺された時も必死に守ってくれたし、再興できたのも彼らの後ろ盾があったからだ。
今や200人の大所帯となってはいるが、はじめは4人ぽっちだった。
アルの手腕や、まぁ、色々と評判になりここまで大きくなった。
オレは、見事にそういう経営的なものの才能はなかったらしく、ハボックやリザねぇに鍛え上げられて才能を認められ、こうして仕事をしている。
ちなみに、12歳くらいまでは引っ張りだこだった。幼い外見をいいことに、スパイ活動・諜報活動・潜入活動と、仕事は山のようにあった。
それもその頃まで。いまや仕事はからっきし。自分で言うのも情けないが、幼い顔立ちそして、この身長。しかし、完全な子供というとそうでもなく…。中途半端な形で今に至る。
爆弾作ったり、解体したり、薬物検査したり、薬物作ったり。そういう仕事の依頼も頻繁にあるが、基本的に一回コッキリ、低報酬のため、なかなか食いぶちとはいかない。
ちなみにそういうのに関してはこの界隈1番だと自負している。頭は…良いと思う。
天は流石に1持つも2持つも与えないか。
確かに、身長以外はパーフェクトだ。
ナイフ系の体術はハボックに劣るものの、身長さえあれば結構いけるのではないかと思うし、重い銃はもてないけれど、命中率・早打ちはリザねぇのお墨付きだ。


実技試験があるものかと思っていたが、そんなものはなかった。
試験会場だと思ったところは山奥の絢爛豪華な豪邸で、中に招き入れられると、着替えを要された。
仕方がない。実技試験だと思ったんだ。パーカーとジャケットそしてジーンズ。ラフな格好ですみません。
着替えた格好は黒のスーツ首にはリボン帯。シャツ以外全身黒尽くめ。
サイズはなんとぴったりジャスト!と思ったが、どうも少しだぼついている。
(それは、あれだ。履歴書の身長を3センチばかり水増しして書いたからだ!)
そのままお待ちくださいと品の良い…執事だろうか?がお茶を持ってきてくれた給仕と共に出て行った。
周りには誰もいない。
俺一人。
正直不安だった。
20分目にお茶に手を出した、癖か薬物キッドを鞄から取り出して調べる。ピルケースぐらいのサイズに入る簡易版だが、オレが独自に編み出した薬物検査やくだ。大抵の(オレの知っている)薬物は全て反応する。
30秒後。
薬物は検出されず。
まぁ、こんなところで選考者を殺してどうするなどと思いながら、お茶を飲んだ。なんのお茶とかはわからないが高級な匂いがした。


小気味の良いノックの音と共に、執事らしき人が入ってくる。
「お待たせして、申し訳ありません。もうじきロイ様がお会いになられます。」
時計を見ると、1時間近くたっている。
「その前に、色々とご説明をさせていただきます。」
いよいよ、実技試験の内容かと思ったが、予想外も甚だしかった。
「期間は3ヶ月。延長もあります。その場合は、3ヶ月毎で契約更新。1年以上の延長の場合は、次年から1年毎の契約更新になります。はじめの3ヶ月は、月額2万センズ。延長の場合は、延長金10万センズに、月額2000センズが。1年以上の延長の場合は、延長金50万センズに、月額2000センズが支給となります。」
オレの顔はたぶん、生きてきた中で最も間の抜けた顔になっていたと思う。
「今から、実技の試験では?」
「そんなものはございませんよ。書類選考であなた様お一人しか選ばれていないというのに、振るいにかけるものもございませんが…」
書類選考で、オレが合格?金額から言って応募したのは2桁ではすまないはずだ。なんたって、オレのところからでも、十数名受けている。
「続けてよろしいですか?」
「あ…はい。」
唖然。
「基本的に休日はございません。はじめの3ヶ月はロイ様の身元を離れることは許されません。更新時、3日間ほど休日が与えられます。契約更新の度3日ほど。1年以上の場合は然り。」
ということは、1年以上の契約延長の場合は、1年に3日しか休みが無いわけですね。
「面会は基本的に禁止です。肉親の類も禁止です。電話は認められていますが、会話の録音・暗号解析にかけさせていただきます。」
恐ろしい、ということは、リザねぇの手料理やハボックと遊ぶことが出来ないし、ましてや、唯一の肉親の弟にも会えないということか。
なるほど。コレだけの悪条件、2万センズは安くない。
基本的にBGは2交代か3交代だ。24時間つきっきりとは言っても、休みだってキチンとある。
電話だって、特殊回線を使えば秘匿で大抵の所には掛ける事だって許されるのが普通だ。
BGたるもの、やすやすと主人の秘密を口外することはない。
ましてや、暗号だってやすやすと解かれるような暗号は使いはしませんよ。オレを誰だと思っている。


「持込物は一度全て回収させていただきます。それから、検査してお返しします。衣類は全てこちらで用意させていただきます。週に1度身体検査をいたします。体内の金属物を調べますので、医療的に何かをしている場合は、診断書とレントゲンをご用意下さい。それを判断した後に再度レントゲンを取らせていただきます。」
徹底振りには正直笑えてきた。
採用されても、来たくないなと…帰りたくなってきた。
「寝所も一緒です。警備班が扉には立っておりますが、念のためです。1日の休憩時間は1時間とさせていただいています。主に、トイレとバスタイムです。」
本気で帰りたい。
交代人員がいないのが確実におかしい。
軽いノック音とともに、失礼しますと可愛いメイドさんが入ってきた。
「ロイ様が部屋にお通しするようにと。」
「では、参りましょうか。」


警備は厳重。
窓1枚1枚張り付くような形で警備員がいる。
窓も見た感じだが、高性能な防弾ガラスのようだ。多分だが、高圧電流も流れている。窓の外数メートルに金網が設置してある。それからこっちには木々が無い。その金網もてっぺんにはレーザーがついてたりするんだろうなと思ったりした。よく見ると窓も2重だ。ここまでしても、守りきれない人間って、ここまでして守らなければならない人間ってなんだ?
オレはBGとしては考えるべきではないことを考えながら、重々しい空気の廊下を歩いた。
警備員はピクリとも動かない。よほどの訓練を受けている屈強揃いと、感嘆した。


執事がひときわ目立つ大きな扉の前でノックをした。
中から、渋い、柔らかな「入れ。」の声がした。命を狙われて怯えているような奴の声ではない。悠々とした声だ。
その部屋には窓が無かった。いや、あると言えばあるのだが、それは精巧に描かれた絵だった。窓ははめ込み。多分、時間や景色によって柄が変わるのだろうと思った。そういうことに金をかけそうな顔をしていた。
「失礼します。」と入ると執事は静かに戸を閉めた。
オレと奴一人だ。
え?ちょっと待って。
一人きりにするんですか?マジで?勘弁してください!
とりあえず、一言…そして冒頭へつづく。


殺意が沸いたが、それはそれ。
契約内容があまりにもひどいので、辞めさせてくれと言おうとした。
可愛い盛りの弟に3ヶ月も会えないのは…、しかも存在が機密事項の弟との連絡を録音及び解析されるなんて冗談じゃない。
「今までの実績は調べさせてもらった。いいセンスをしている。頭が切れるようだね。」
アメトムチ。
「爆破物の処理も凄いじゃないか。この爆弾は湿度も影響する。体温の微妙な変化で空気中の湿度が…」
こちらをちらりと見る。
あんぐりしたあっけに取られた本日2度目のアホ面をさらしていた。
「失礼。君にはこういうごたくは不要であったね。」
もしかしたら、気の合ういい奴なのかも。
あの厳しい契約内容も、こいつじゃなくて、こいつを心配した誰かが作ったものだとすれば、こいつの一言でなんとかなるかも!
お互い饒舌にも、爆弾の解体秘話、薬物検出の丸秘テクニック。
言っておくがオレはおしゃべりじゃないし、特秘事項はしゃべっちゃいない。
気がつけば2時間も話していた。


「もう、こんな時間か。仕事を先に済ませておいて正解だったな。」
しっかり時計は経過した時間分進んでいた。
「下で契約書にサインして一旦帰りなさい。送らせよう。」
返事をして、御礼を言って、契約書にサインをした。執事らしき人は、笑って見送ってくれた。
明日は10時に迎えに上がらせていただきますと、運転手が言った。


「お帰り。この仕事なんだけど、やる?」
と弟が書類を何枚か渡してきた。
「受かったんだけど、オレ。」
生涯、この驚いた顔を忘れないと思う。


「延べ1600通の応募」
「なにが?」
荷造りしている俺に向かってアルが書類に目を通しながら言う。
「マスタング氏のBG」
「へえっ!?」
本日3度目。いい加減、アホ面が板についてきそうだ。
そうそうと、オレは契約内容の紙を渡す。驚く速さで読んでいく。多分全部覚えてしまっているのだろうなと思った。これが、アルが機密事項たる所以だ。存在そのものが機密事項。本来ならば、優秀なBGを幾人と付けて居なければならないのだが、ここの社員でもごく1部しか知らない。
スケープゴートに資料室とかもある。そこで1時間じっとしてるのが仕事の時もある。本人は時間の無駄というが、命を危険にさらすことはことさら辞めて欲しいし、今でも常に命が狙われているのだから。明晰な頭脳のおかげで。
契約書を読んでいるアルの顔が険しくなっている。
「兄サン、辞めなこんな仕事。」
「なんでだよ。」
「おかしいって、法外な契約金もそうだし、なんたってあやし過ぎる。」
「契約破棄したところで、違約金とか出るわけじゃないしさ。3ヶ月したら、帰ってくるよ。」
ほぼ喧嘩別れで次の日を迎えた。
研究道具一式は結構な荷物になった。蔵書もある。
それを車へ積み込むと、出発した。見送り無しか、と落胆した。無情な弟だ。


屋敷に着くと、主人自ら出向いていた。
もちろん、屋敷の外には出てはいないが、それでも、危なっかしいと思った。
だから、1日中側にいろとね。
「BGがずっと側にいろなんていうのは建前だ。私も1日中付いてまわられるのは少々困るんだよ。」
と、耳打ちされた。昨日も思ったが案外ライトな雰囲気のいい奴だと思った。


1日目は屋敷を覚えた。広すぎる。
使用人専用通路なるものまであり、その広さ、迷路具合といったら驚くほどだ。
隠し通路に、隠し扉。一つ一つ確認しながら覚えていく。まかせろ、弟に似て記憶力はいい!
その夜から、仕事は始まった。枕を持って奴の部屋に出向いた。
枕だけは無理言って、検査を早く終わらせてもらった。この枕ではないと眠れない…繊細なのだ。
1日中地図を持って屋敷を探検したので、へとへとだった。
夕食はだだっ広いテーブルで一人で食べた。オレって、使用人だろ?と思ったが、言われたとおりにしとけば無難なわけで、寂しくフルコースを満喫した。
「あまり、ロイ様はお食べにならないんです。1日1食でも食べられたらよろしい方で…」などと、執事さんは言っていた。


いつ見ても微動だにしない警備員に尊敬の念を抱きつつ会釈しノックすると、「入れ。」の声。昨日と変わらない。入るとまだ執務中だった。
時間は12時前。感嘆。
「失礼しました。」と、なれない敬語をたどたどしく駆使し、隣の自室に戻ろうとすると呼び止められた。
「今何時だい?」
「12時前。」
「もうそんな時間か。」
大きく背伸びをすると、首を左右に振った。
「すまないが、厨房へ行ってブランデーとグラスを2つ…君は飲める口かな?」
首を振る。なんとなくしゃべれなかった。はじめてみたくつろいだ顔に不自然さを感じたからだ。
昨日あれだけ談話したのにも関わらず、緊張感が漂っていた。そのほうがむしろ自然な気がした。
「では、ホットチョコレートか、ホットミルクを貰っておいで。」
首を縦に振って肯定すると、違和感を覚えたまま部屋を出た。その違和感の原因はこの後知る。
厨房へ行くと、片付け終わってやっと休憩といった雰囲気だった。


「すみません。」と小声で言うと、見事に聞こえたようで全員がこちらを振り返った。
「なんだ、坊主。」といったのは見事な割腹の強面のおじさん。コック長なのか、手元には長いぼうしがあった。
「ブランデーとグラスと、あと、ホットチョコレート下さい。」
なんとなく怖気づく。気圧されると言ったほうが適格か。
「ちょっと待ってな。ってお前サンか、ご主人のBGは。」
「そ、そうですが…」
大きな声、大きな体、大きな手、低い声…大きな手で頭を軽くたたかれる。
「ちっさいのが、大丈夫か?」
この大男からすれば、世界中のほとんどの人間が小さい。と大して気に止まらなかった。
「大丈夫です。」
「ダメだよ、シグ。あまりいじめてやるな。やっと決まったんだ。」
「そうか。」
後にはいかにも女中頭といった風貌の強面の、でも美人な女の人がいた。きっと、怒ったら恐い。絶対。
「よろしく。エドワード君。こちらとしてもやっとBGが決まってほっとしてるんだ。」
その女中頭のおいでおいでの手招きに応じて、そちらへ足を向ける。
「ホットチョコレートは時間が掛かるから座って待ってな。」
そういうと大きな手で、小さな鍋をつかんで火にかけだした。
「私はイズミ。ここで女中頭をしている。こっちは料理長のシグ。私のだんな様だ。」
最期の一言は小声で耳打だった。少しはにかんだ笑顔は、どこか母さんを思い出させた。
「ここ10年とBGが決まらなくてね。この厳重なセキュリティーもこれでなんとかなるだろう。」
年齢や兄弟のことを聞かれているうちに、チョコレートのいいにおいでいっぱいになった。
「ご主人は少々ヘンテコな方だが良い方だよ。しっかり守っておくれ。」
と最後に付け加えられた。
10年間閉じこもりっぱなし。か。


再び警備員に尊敬の念を抱きつつ会釈しノックすると、「入れ。」の声。
机の上は既に片付けられていたが、昨日感じた緊張感があった。
「お持ちしました。」
と、トレーを机の上に置くとおかしなことに後から返答があった。返答の主は目の前にいる。
「よくできているだろう。ホログラムだよ。昨日君と話したときもコレを使ったんだ。」
振り向くと同じいでたちで立っていた。
「ホログラム?」
「そう。触れもしないし、殺されもしない。実際に会ったのは今日が初めてだよ。」
いや、昨日かと。時計を見ながら付け加えられた。
手には契約書を持っている。
「これは、色々と考え直すところがあるな。」
というと、ダストボックスへ投げ入れた。
「先代が私のためを思って作ったのか知らないが、拷問だな。よく、君はこの契約内容を承諾したね。」
「郷に入っては剛に従えって言うし、嫌だったら、すぐ帰るつもりだった。」
そうかと、笑っている。
不思議な光景だ。同じ顔があって、片やまじめな顔をして微動だにしない。片や腹を抱えて笑っている。
「まぁ、この契約書を見るのは君が初めてなわけだが。」
ということは、書類選考でこの10年間の応募者は落とされていたわけか。
「君が2人目のBGだよ。前のはマスタングを裏切ったんだ。慎重にもなるな。」
さっきの会話とオレの疑問符を知っているような発言だ。
「大体察しはつくよ。皆喜んでいるようだし。」
弟と同じ種族の人間なんだと驚いた。感と言うか、すごい。
「金額とか、契約期間とかはそのままでいこうか。で、休日もそのまま。連絡は、録音はしないけど、できれば私の居るところでしてほしい。休憩時間というか、移動の際は一緒に移動してもらうとしても、この部屋にいるときは自室にいてもらってかまわないし、内線を持って移動してくれれば、屋敷内は好きにしてもらっていい。寝所はどうするかい?ベッドは無駄に広いよ。君の寝相が悪くなければ一緒のほうが私も安心できるし…。」
と、一気にしゃべるのは昨日の饒舌具合からも知っていたが、今まさに目を通したばかりという契約書の内容の一番気になるところばかりをこうもさらっと覚えてしまって、変えてしまった。
「それでいいです。」
オレのほうが覚えられなかった。饒舌は饒舌。まくし立てるような早口は癖なのだろうと思った。
「では、隣が寝所だ。シャワーを浴びてくるから、先に行ってなさい。他の細かいことも、おいおい変えていこう。」
いい奴だと思った。契約内容も本人は知らなかったようだし。
裏切られた…そんなことがあれば誰だって警戒する。


カラスの行水。
浴びてくるといって何分?きっと即席めんも食べれないと思う。ちなみに、チキンラーメンは1分では食べません。あしからず。
トレーを落とさなかったのは幸い。
隣の寝所といった部屋はまさにその名の通り、広い部屋に大きなベッド。
どれくらいある?おれが10人大の字に寝ても大丈夫…それは言いすぎか。
それくらい広いベッドに驚いている間に出てきた。
蒸気を帯びた体は少し赤らんでいる。髪からはしずくがたれている。
「あの時間が一番無防備なんだ。1秒でも早くするに越したことはない。」
と、怪訝そうな顔をするオレに言った。
倒れ込むようにして、ベッドに入る。
「髪…」
「いつも、このままだが。」
起き上がって「ブランデーをもらえるかな」と手を差し出した。
枕がびしょびしょだ。
確かに、枕元には両手でも数えられないほどの枕がある。変えればいいのだが、理不尽さを覚えた。
ブランデーをグラスに注いで渡すと、オレはドライヤーを求めて部屋を出た。
使われた形跡のないドライヤーを見つけるとUターンし、優雅にブランデーを飲む奴の頭に熱風を吹きかけた。
「気にしなくていいのだが…」
「オレが気になるんです。」
一応敬語。
「君も、チョコレートを飲みなさい。さめてしまうよ。」
おおまかにタオルとドライヤーで乾かすと、マグカップをとってベッドの端に座った。
甘い匂いが睡魔を誘った。丁度良い温度で、ゆっくりと暖かくなるのを感じた。
「君の就寝はだいたい何時だい?」
「早いときは10時に寝るし、仕事とかあるときは3時とか5時とか。」
「そんなだから、身長が…、あ、では、12時にしようか。私もそれくらいまで仕事をするし。その時間になったら、直接こちらの部屋に来て寝ててかまわない。起床は8時でいいかな?」
「わかっ…りました。」
「なれない敬語は良いよ。ここでは執事以外は普段、そうしてもらっている。」
「わかった」
「君はコードネームとかで呼んだほうが良いのかな?」
「どっちでも。通称は鋼。理由はこの足と腕。親父が殺された爆破に巻き込まれたんだ。半年に1度はメンテナンスが必要なんだけど。」
腕を指差しながら、笑ってみる。
「触ってもいいかな?」
「い、いいよ。」
ここにくる途中、馴染みの技師装具店で診断書とレントゲンというか、取らなくても見えるけどを貰った。
静に触る。切なげなその目にドキリとした。
目が合うと逸らせなくなった。顔が近づく。
口の中に、ブランデーの味が広がる。お酒って、おいしくないのな。
そのままベッドに吸い込まれた。


って、オイ。この状況…おかしいだろ。


不意を付かれたのと、ベッドが思いのほかふかふかで、力が入らない。
口が自由になった瞬間に罵声を浴びせる。
「触っていいと、言ったではないか。」
「それは、オートメイルの話。あんた、なんなんだよ。」
「流石に童貞ではありませんが、殺す必要の無いえさが目の前に…」
まじめな顔をしておかしなことを言う。
変だ…
こいつ変だ…
「可哀想なことに、殺されてたんだよね。彼女たち。知ったのは5年位前だけど。」
驚く顔を確認すると続ける。
「若いし、したいじゃないか。」
暴君だ。
「それから、5年ご無沙汰です。お願いします。」
「おれ、男だけど…」
「知ってるが。」
「選定理由は?」
「顔。容姿。8割。」
ここぞというキメ顔。後光というか、キラキラしたものが飛んでいるように見える。
ショック。
正直に言う。先日のアホ面はまだまだの出来だった。今の顔は至上最高のアホ面だ。口をパクパクと金魚のように。冷や汗が出る。血の気が引く。
あれだ。顔面蒼白のアホ面。
「屈強な人間ばかりでね。女性もいたが、好みのタイプがいなかったんだよ。この際、男でもと思ったら、意外に可愛い顔をしているのがいたし、身長もさばを読んでいたみたいだしね。」
正直ショック。
身長サバ読んでてすみません!!
かなりショック。
お願いされても困りますと、かなり狼狽。 「オレが、男は嫌です。初めての相手は決めてあります。片思いですが、相手は女の子です。」
「彼女は君の弟が好きなんだろう?弟もそうだと調書にはあったよ。相思相愛だ君には出番がない。」
さらにショック。
そんなこと知らなかった…。
馴染みの技師装具屋。幼馴染。オレの初恋…こんな形で失恋するなんて思わなかった。
「失恋の痛手は新しい恋で癒せばいいんだよ。」
と、また顔が重なる。
もう、どうだっていい。
あまりのショックで、その後の記憶がない。


ファーストキス…オレの貞操…さようなら。
守る価値あるの?こんな奴。


起きた時にはしっかりパジャマを着込んでいた。
体も大丈夫。
時計は…8時まであと5分あった。
残り4分ジャストでまた目を閉じた。
爆弾処理には必須。5時間くらいまでは軽くコンマ1秒たりとも遅れることなく数えられる。
身に起こった色々な事が頭の中をぐるぐるしていた。
4分の二度寝…。無謀だったのは言うまでもない。
失恋…そして男に…ファーストキスを奪われ…オレの夢が…いつかアイツの身長を抜かした時に告白して、それから…。
4分ジャスト目を開ける。


いつの間にか寝返りを打っていたのか、奴の顔が目の前に…。無駄に目が合う。いたたまれない気分になる。視線を落とせば、ファーストキスを奪われた…く…ちが…
「おはようございます。」
やどたどしく口を開く。
「おはよう。」
どこか不機嫌だ。
体を起こしてベッドから出ようとする。が、襟をつかまれてまた、ベッドへ舞い戻った。
さっきとは違い、顔が数センチと離れていない。
「キス一つで、気絶とはそんなに私のキスはうまかったか?」
キスで気絶?違う、あまりにもショックなことが起こりすぎての気絶だ。
「現実逃避だと思います。」
視線をそらす。
「寝てる君とするのも良かったが、初めてでそれはダメだと思ってね。」
「寝てても、起きてても、男とはしませんって。」


「ほう。」
何かをたくらんだ顔になる。悪い仕事いっぱいしてるから命を狙われているのかと納得した。
「それでは、契約内容を変更といこ
「は??」
「君は既に契約を交わしているし、今から契約の一方的な破棄の違約についても決めてしまおう。」
「は??」
「そうだな。一方的な破棄についてだが、8000万センズの違約金とでもしよう。これが大事だ。私が抱きたい時に抱きたいだけ君を抱く。」
「!!!!!?????」
驚いているうちに、奴は身支度を整えていく。
「君は確かにBGだが、この家の設備でこの10年間どうにか凌いでこれた。これからも、最新鋭の設備を常時入れていくつもりなので、本来なら君は必要ない。が、周りがうるさいのでおいておく必要がある。君の1番の仕事はBGよりも私の性欲処理の相手だ!!!!」


おかーさーん、ここに変体がいるよーーーー!!!!
たすけて、お父さんーー!!
リザねぇ、コレを撃ち殺してください!!!!!
ああ、アルの言うとおり、断ればよかった。
こんなところ、面接に来なければよかった。
後悔が襲う。


「第一君は私のBGだ。主人の寝首を欠くことはないだろう?それに、契約内容に寝所は一緒と書いてある。誰も君が同性の私に抱かれてよがり狂っているなんて気づかない。」
ワイシャツの白が、朝日を浴びてまぶしく感じた。
目がチカチカする原因はコレだけではないだろうけれど、これは夢なのだと思った。
だって、ありえないじゃん?
オレがよがり狂うとか、こいつに抱かれるとか、平気で言ってる変体が目の前にいるんだぜ。コレは夢だ。実にリアルな夢だ。
180度体を回転させ、枕に頭をうずめる。
そういえば、愛用の枕はどこにやっただろうか。


「ここでの君のコードネームは金猫だ。普段はエドと呼ぼう。問題は?」
「ないです。」
憂鬱だ。実に憂鬱だ。







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2007/04/10up

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