金猫とは私も粋な名前を付けたものだ。
彼を初めて見たのは、私の持ち会社に仕掛けられた爆弾を処理した処理班の情報を見たときだった。
半年前。
小さい少女が大男に囲まれて指示している写真。
金色の髪が印象的だった。
実際に見ると蜂蜜の甘い香りがしそうな金色で、瞳までその色だったことには正直驚いて、目を奪われた。
どうにか処理班の情報を入手したはいいが、その金髪の少女の情報は一向に掴めずじまい。
マスタングの情報網を駆使して情報を集めたが、それでもわからなかった。
当の処理班も大金を積むと言ったが、わからないの一点張り。
最終手段はBGの公募。業界隅々まで行き渡るように公募した。
見事に1600通の中に彼女がいたことに驚いたし、ましてや、男だったとは思いもしなかった。
該当者無しということで、この滑稽な戯れをなかったものにしてしまおうと思ったが、せっかくなので、1度見てみることにしたのだ。
敷地内に入ったところからカメラ数台で監視した。
あまりにもラフというか、まぁ、2次試験と偽ってるのでこんなものかとモニターに食い入った。
流石に、着替えをしているところは見ないことにした。
自分は男娼の趣味があったのかと焦りはしたが、無駄に体力を浪費しないためにもそうした。
少女のような顔は、後に一つに束ねられた髪によって更に幼く、少女のようにみせていた。
毒物は入っていないよと独り寂しく突っ込んだり、彼は見ていて飽きなかった。
気がつけば1時間。
これ以上待たせては悪いと思い、ホログラムの準備をした部屋に通した。
会って抱きしめたかったし、会いたかったと言いたかったが、なんせ、命を狙われる身。誰であろうとやすやすと姿を見せるわけにはいかなかった。
彼との会話は存外面白かった。
利発な返答に、相性の良い相打ち。
なにより、くるくる変わる表情には正直ときめいた。
生まれて初めてだ。
この屋敷からほとんど出ることも無く過ごしていた私は、初めての感情に多少戸惑ったが、彼に恋をしてしまったのだと理解した。
決して、男娼の趣味があるわけではない!
翌日、執事の制止にもかかわらず、玄関まで迎え出た。
本当は、迎えの車に乗って彼を迎えに行きたかった。
前日と同様なラフな格好だが、よそ行きの雰囲気があった。
緊張した面持ちがまた、可愛かった。
ん?
男に向けて可愛いというのは失礼か…しかし、可愛いのだ。仕方がない。
あまりにもうれしくて、(年甲斐がないが)しかたがなかったのだ。
驚いた顔も、アホ面(失敬)も全てが可愛いと思えた。
何度も言うが、私は断じて男娼の趣味などない。
と、言い切れなかったのは枕を抱えて入ってきた時だ。
何ですか?あの可愛い生き物は。枕ですか?素敵なオプションですね。
普段は一つに纏められ後になびいている髪が下ろされ、雰囲気が違う。
動揺を隠すためにお使いを頼んだ。
なれない敬語が可愛かった。
下半身が熱くなるのを感じた。5年分の蓄積物が訴えかけてきた。
平静を装うために、小細工をする。
話のネタに契約の話でもと、契約書に初めて目を通した。拷問か?これは。
相手にもだが、私にもだ。
この10年間独り悠々自適に暮らしてきたのだ。こんな24時間体制の監視は正直困った。
しかし、”寝所も共に”という項目は光って見えた。
ありがとうございます。お父様。初めてあなたに感謝します。
よたよたとバランス悪く歩く姿も可愛かった。
余裕が無かったため、一気にまくし立てるようにして早口で話してしまったり、踏んだり蹴ったりだ。
人との交流が下手で申し訳ない。と心の中であやまった。
呆けた顔が可愛いと見とれてしまうと、先ほど冷ました下半身が活動を始めてしまったため、本日2度目のシャワーを浴びた。
というか、これがいけなかったのか?ドライヤーは頭ではなくまたもや下半身に熱を持たせてしまった。
盛り過ぎ…。仕方がない。5年間の禁欲生活は本当に辛かった。
初日からというのはダメだという自制心はもはや無く、気がつけば唇を重ね押し倒していた。
そして、「お願いします。」と懇願しているし…。初めて人にお願いと言いました。
失恋させて、そのショックに付け入ろうとしている。最低だ。私。
可愛かった。にじんだ目がキラキラしてるのがキレイで、金の瞳の輝きが一層増して…。
そして、再度唇を重ねていた。
抵抗が弱まっていくのを感じた。
抱かれる気になったのかと唇を離すと、最大の抵抗がそこにあった。
黒猫の用心棒
教訓2〜骨よりは身のほうが好きです。あ、でも、骨も好きです。〜
昨晩は驚きに下半身が納まりはしたが、それもつかの間、寝顔・寝息に1睡もできなかった。2度ほどトイレに行き2度ほど抜いた。
寂しいかな我が人生。
朝から膨大な量の書類に目を通し、昼前には会議(といっても、中継)。午後からは会談(国際テレビ電話)一歩も屋敷の外へ出ることなく今日も1日が終わった。
時刻は9時。
いつもはシャワーをこのまま浴びて、もう一仕事をするが、今日は違う。
いつもの倍の速さで仕事を終えた。
色々と準備があるのだ。
出会って3日目、気が早いようだが限界だった。
「今日は抱くからな。」
と独り部屋で意気込んでみる。
「ふざけるな。誰が抱かれるか!」
不躾にもノックもせずに入ってくる彼が無性に愛しく思えた。そんなところも可愛いい。
私は彼に骨抜きなのだと自覚した。
手には皿に盛られたサンドイッチとコーヒー。
持っている彼といえば、顔をほのかに赤らめている。不機嫌さ最高潮のような顔つきだが、どこかはにかんでいるようにも見える。目の錯覚ではないことを祈りたい。
「シグさんが、食わせろって。」
机の上に乗せようとするが、そこは書類の山。片付けようとしていたところだが、少々意地悪をすることにした。
「今、整理中だったんだが…、片付けるまで持って…。コーヒーが冷めるのは嫌だな。食べるから、じっとしていてくれ。」
昨日の件から言って、彼はこういうのになれていないらしい。揺らさないように集中するさまも可愛い。あまり長くじっとさせるのも可哀想なので、手早く食した。
細かく波打つコーヒーを見ているのも楽しかったが、こわばった顔のほうが見ていて飽きなかった。
あらゆる意味の満腹感を感じつつ、書類の整理をした。
彼はまた2時間後にここに来ると思うと、胸が高鳴った。
契約。
素敵な響きだ。
12時ジャスト。彼は戸をたたく。
「入れ。」
入ってきた彼の姿に驚いた。何たる対策。
ボディースーツ着用…、防弾チョッキですか?あの、どうしてそんなものを着てるのですか?
そして、その可愛い顔を隠す大きな布はなんですか?フルフェイスのマスクですか?
足元から世界が崩れかけた。
「これで、どうにかできるならしてみろ!」
…脱力。
…完敗。
「負けたよ。何もしないから、脱いでおいで。それでは寝にくいだろ。」
そういうと、軽快な足取りで部屋に戻っていった。
自分が可哀想になった。いや、しかし私に抱かれ殺されてしまった彼女たちのことを思うと、罰を与えられているような錯覚を覚えた。
18の頃、童貞を捨てた。彼女は清楚という言葉が似合っていたと思う。初めて会った彼女はシーツを体に巻居ただけの姿で、寝所で私を待っていた。
震えた声で「抱いてください。」と一言しゃべっただけだった。
全ての事象を受け流していた私だったので、そのまま素直に抱いた。
それから、少なくても2ヶ月に1度はそういった形で女性を抱いた。
24の頃、1度だけ屋敷を抜け出したことがあった。父親が死んで、会社を全て継いで、何もかもが嫌になった頃だ。街角で見たテレビから流れていたニュースで先日抱いた女性が写っていた。絞殺殺人。
なんだ?と疑問に思った。抜け出したことを忘れて舞い戻って執事を問いただした。
「知っておられなかったのですか?彼女たちは全員孤児や浮浪者や売春婦といった社会には不必要な方々でして、せめて役に立てようと当主…先代様が始められたことです。あなた様がここにいる、顔、形、全てが機密事項でございまして、その機密を知ったものは処分するのです。本当にご存じなかったのですか?」
体中から血の気が引いた。
私の性欲処理の為に何十という女性が殺された。
「もう、一切女性は抱かない。この家からも出ない。」と執事に告げると、少し悲しそうな顔をして「かしこまりました。」と一言だけ言った。
彼は、ここから出たら殺されるのだろうか…。
不安に駆られた。
とんでもないことをしてしまったのではないか…?
屋敷の使用人は一切の外出が禁じられている。
食料などの配送者とも顔を合わせないようにしている徹底振りだ。
ここを辞めることは、死を意味することだとあの時知った。
だから、使用人が辞めたいと思わないような主人を目指した。
恐怖が全身を支配していた。
足が震えてきた。
心臓が震えた。
彼を手放すことは彼を殺すこと。
いや、しかし、彼の存在自体が特殊だ。やすやすとは殺されないだろう。
確信のない安堵を感じた時、ノックが部屋に響いた。
体が震える。
平静を装って「入れ。」と振り絞った。
昨日と変わらない姿になっている。
抱えられた枕に顔を半分うずめながらの上目遣いは、自制心の糸を切れさせようとばかりのようだが、無心を装う。
「本当に、なにもしないよ…な?」
「しないよ。」
作り笑いは得意だ。
顔が引きつるのを感じる。今晩も一睡もできないのだろうかと、落胆した。
「さあ、寝ようか。」
「お、おう。」
「あ、あのさ、考えたんだけど…、口でするとかダメか?」
真っ赤になった可愛い顔。勇気を振り絞ったといわんばかりだ。
可愛くて思わず抱きしめそうになる。
けれど、それをしてしまっては、またフル装備になりかねないと考え、私は軽く頭に手を載せた。
「ありがとう。君が横にいるだけでいいから。」
はにかんだ笑顔はまさに少女のそれで、BGという事実も、なんだか忘れそうになっていた。
その夜は静かに寝ることができた。
夢も見ずに、真っ暗な睡眠を…。
5時に目が覚めた。
彼はまだ夢の世界のようだった。
静に起きると身支度をした。
執務室に行くと窓を開けた。だが、それは外ではなく、絵だ。あえてホログラムにはしなかった。
窓を開けたことを感知して人口の風が吹く。それでも、私にとっては外の世界だった。
書類に目を通す。
事件はその日に起こった。
貿易相手の国王が是非とも会いたいといって仕方がないのだ。どこからか、優秀なBGを雇ったと聞いたらしい。
「これでもう、君も外へ出れるというものだね。」
軽く言ってのけた。
24歳のあの日以来、最初で最後。このかた、ここから出たことは無かった。
断割る理由が既に無かった。
国王は先代が最も交友を深めていた人物であり、彼の国の貿易はほぼマスタング家が取り仕切っているようなものだった。
この屋敷にも、私が幼い頃何度か来ている。
10年前のあの事件も知っている人物で、彼の前では秘密など無いに等しい。
2日後、私は屋敷の外に出ることになった。
「エド、2日後が君の初仕事だ。」
「え?」
意気揚々とした顔もまた、可愛かった。
暇をもてあましていたのだろう、研究基材がまだ手元に戻ってきてないらしい。
「なあ、襲ってきた奴って、殺していいの?殺しちゃだめなの?聞くの忘れてたんだけどさ。」
正直驚いた。そうか、彼はBGとして私の側に居るのだった。
「殺すのが慣わしらしいが、顔さえ見られなければ問題はない。あまり殺さないでくれ。こちらもできるだけ努力する。」
きょとんとした顔も可愛い。
「フルフェイスのマスク、貸そうか?」
満面の笑み。
「いや、それだけは遠慮する。」
自家用ジェットがあるなんてはじめて知った。
操縦できるヤツがいるのかと危ぶんだが、うちの執事は何でも出来るらしくジェット機のメンテナンスをすると言い屋上に意気揚々と登って行った。
この家から運転手以外がでるなんて前代未聞だった。
屋敷内が騒然としていた。
「本当に10年間外に出た事なかったんだ。」
生半可な返事をすると、頬を膨らませた。そんな顔も可愛い。一つ一つのしぐさが可愛くて仕方がなかった。
本当は5年間だが、話すのが億劫になった。それを話しても何かが起こるわけではない。
「この家探検して思ったんだけどさ、迷路だよね。」
「そうだな。この屋敷は先々代が建てたもので、彼もまた私のように変わり者だったらしい。」
「自覚があったのかぁ。」
そういうくるくるした表情が好きだし、驚くたびに変わる声のトーンもかわいらしい。
「今日はいやに饒舌だね。」
「そうか?仕事らしい仕事ができるからかな。」
「そうか。君の仕事はBGだったね。」
「え?何でオレここにいるわけ?その発言おかしいよね。」
君が寝るまでのたわいない会話。この時間が好きだ。
まだ3日目。慣れるには早すぎるが、もしかしたら、ずっと前からこんな時間を毎日過ごしていたかのように思えてくる。
彼は可愛い。
本当に可愛い。
彼をこの屋敷に招きいれたのは間違いではなかったのかと、不安に駆られる。
顔に出ていたらしく、汲み取ったか彼が心配そうな顔を向ける。
防衛線と、私と彼の間には1メートル近くの距離がある。
それだけ離れても平気なほど無駄に広いベッドなのだが、今は少々このベッドが疎ましい。
手を伸ばしてもギリギリ届かない距離で彼は眠るのだ。
頭をなでることも、抱きしめることもできない距離だ。
それでも、寝顔は見えるし、規則正しい寝息も聞こえる。幸せこの上ない時だった。
検査機関から彼の私物が戻ってきた。
拳銃・ナイフ、一つ一つ丁寧に確認するようにバラして組み立てる。
器用なものだと思った。
しかし、風貌が遠足に行く前の子供のようにしか見えず、思わず笑ってしまった。
彼は腰に巻くポーチの中身を点検しながら、機嫌の悪そうな声で文句を言った。
自分の持ってる武器装具を確認しておいて欲しいと、執務室で作業を行っている。
仕事片手間その光景を見ている。
「背中に一丁と、足に一丁銃を携帯している。腰と足と腕に3本ずつナイフ、腰のポーチは毒物検査薬、爆弾解体道具、解毒剤。あ、解毒剤は基本的に1本ずつしか持っとかないから。あんたの分な。オレは大抵の毒には抗体持ってるし。」
BGっぽい口調で説明していく。
細い身体に色々と仕込むものだと感心した。
「で、当日オレ、女装するから。」
あっけらかんとした口調に思わず素通りしてしまうところだった。
「女装?」
「そう。スカートの方が色々と隠せるんだよ。公式の場で変な格好とか出来ねぇだろ?」
「大丈夫、昨日執事さんにお願いしといたから。朝には届くって。」
その日の夜は、興奮冷めやらない私は(私のほうが遠足前の子供のようだ)なかなか寝付けずに、規則正しくゆれる彼の肩を数えていた。
日帰り旅行だが、見事なお見送り。屋敷中のほぼ全ての人間が見送りに着ているのではないかと思うほどの人数だった。
中には涙ぐんでいるものもいる。
私は一体何処へ行くんだ?と不安に駆られた。
「盛大な見送りだな。日帰りだって言うのに。」
「慣れればなくなるさ。」
どこかむずがゆい思いを感じながら笑うと、彼も一緒に笑った。
こういう感情の相性はとても良いようだ。合わせて貰っているにせよ、起伏の相性が良い。
彼は飛ぶジェット機の中で着替えをし、見事に「少女」になっていた。
「少し、化粧をしているのかね?」
「色つきリップ。」
少し恥ずかしそうに返答する彼は可愛かった。
長い髪を二つに結わえて、大きなリボンで留めている。
フレアなスカートの下に銃などが隠されているとは到底思えなかったが、座席に腰掛ける際カチャリと音を立てたのを聞き逃しはしなかった。
全身グレーのシックな2ピースで、スカートに合わされたジャケットはゆったりとしたものになっている。
それでも、昨日聞いた装備がこの細い肢体のどこに隠されているのかと疑問を抱いた。
緊張している私を気遣ってか、始終笑顔でいてくれた。
「お久しぶりです、ルイ8世。」
「ロイ君!!こうやってあるのは父君の葬儀以来か。」
「ええ、お元気そうで何よりです。」
歓迎のパレードなんかはない。
本当はしたいのだと彼は笑っていたが、事情を考慮してくれているのか簡素なリムジンで王宮までやってきた次第だ。
大きな体をかがめ、大きな手で握手をする。
「国民も、貴方に感謝しているますよ。」
「私はただ、父の仕事を引き継いだだけです。」
この国の鉱山を見つけ、輸出ルートを確立し、経済的に豊かにしていったのは紛れもなく私の父である。
父が亡くなったときは、この国でも大々的な告別式が執り行われた。
貧しかったこの国は、いまや超大国の仲間入りをしている。
滞りなく済むはずだったが、やはり無理だったかと落胆した。
自家用ジェットが爆破された。
幸い怪我人無し。
空港に犯人がいるとのことだったが、探すのも億劫だったので国王に任せた。
国王はたいそうご立腹で、死刑だと叫んでいる。
一方彼はそ知らぬ顔をしているようだったが、緊張感が漂っていた。
会談の席では同席せずに見える距離で待機していた。
微動だにしない。屋敷内で見る表情と言うものが無く、無機質と言ったものだった。
優秀なBGであることは間違いないようだった。
国王との会談半分彼のことを考えていた最中の報告だった。
お陰で、見事なビジネスチャンス到来。この国にまたマスタングの名の系列のビルが少なくても3つは立つはずだ。
国王専用のジェット機に乗って帰ることを強要され、しぶしぶ絢爛豪華なジェット機に乗って帰った。勿論、運転は国王お抱えの操縦士だ。執事が落胆したのは言うまでも無い。
エドといえばどこか神妙な面持ちで、国王の解析班から半ば無理矢理強奪した爆破物の破片の入った袋を見ていた。
「確かに一般の空港だったけど、おかしいだろ…。あんたが狙われたにしては迅速すぎるし、行動も派手だ。なんたって無人のジェット機を爆破する必要がある…?」
自問のように聞こえたが、あえて私は答える。
「それもそうだな。妙と言えば妙だな。」
「確かにアンタがBGを雇った事は、あのド派手な公募から言って、知らないヤツはいない。調べれば簡単にオレが採用されたことだってわかる。でも、すぐさまBGを引き連れて他国へ出かけるなんて、誰も考えていないだろうし、準備する間もない筈だ。」
考えるときの癖だろうか。手で唇を弄んでいる。
「…、たしか国王専用のジェット機はこれ1台の筈だ…」
と、わたしが口をはさむと、思い立ったように破片に目をやる。と、突然、興味無さげな顔になった。
「空港へ連絡したら?たぶんそっちに何かいるはずだ。」
「いや、戻ろう。」
「はぁ?何言ってんの?わざわざ戻ること無いよ。」
「いや、戻ろうか。面白い事がおきそうだ。」
「だから、大人しく帰ったほうがいいって。」
「なぜだい?」
「だからさ、…とにかく帰ろう。」
操縦室に向かおうとする私の服のすそを引っ張る。そのしぐさは可愛くて、抱きしめてしまいそうになった。
いやいや、今はそんなことを言ってられない。
「久々に外に出たからってはしゃぎすぎだよ。」
呆気。
いや、確かにはしゃいでたかもしれないが、大の大人に向かって、15の男の子が…。正直ショックを受けた。
私が大人しく席に着くと、ため息交じりでこちらをにらみつけた。
呆れ半分といったところか。
「多分、うちの国にいるんじゃない?こんなでかいのは流石に屋敷には入らないし、テロリストだかなんだか知らないけど、うちの国で待機しててそのままとんぼ返りするこの機体に乗り込むんだと思うよ。」
真剣な金色の瞳に吸い込まれそうになる。
「どうして、そんなことが?」
「これだよ。見たことがある形状の部品でさ、さっきので合点がいった。これ、俺が作った特注品だよ。結構最近作ったものだと思うから、国外へ出て増産されてるとは思えない。」
「君は爆弾まで作っていたのか?」
「オレ、BGとか、そういう仕ご…って、そうじゃなくて。」
呆れて怒った顔もまた可愛いと見とれてしまった。
「操縦席を乗っ取って、この機体を宮殿にドーン!とか。そういう類じゃない?俺の作った爆弾をたんまり乗せてさ。」
ここで、ふと疑問点。
いくら頭が良くても、推理にしては出来すぎているし、自信もありげだ。
そんな顔も可愛いと思ってしまう自分が情けなくなってくるが…
「君はいくつこの爆弾を作ったのかな?」
「10個。」
てへっと舌を出す。悩殺的なその表情に、心臓が大きな音を立てたが、そんなことを言ってられない。
「最初の試作、急いで欲しいって言うから部品なくってさ、継ぎ足しで作って、この破片元オレの目覚まし時計なんだ。」
ああ、かわいい。
これ以上ないくらい可愛い。可愛い以外に彼を表現する手段を私は持ち合わせておらず、(詩人だったら良かったのに…)可愛いと思うほか無かった。
「で、威力はどれくらいあるのかい?」
「ジェット機の爆破は試作の爆弾1個。」
「それって、ものすごく威力があるということですか?」
「そうですね。」
さて、どうしようか。
このまま国王のところへ戻るのが先決か。
空港の警備を強化してもらって、不審者・不審物を洗いざらい調べる方がことを荒立てないで済むか。
「このまま帰ろう。そのかわり、空港へ連絡するぞ。」
「得策。」
国王専用ジェット機に乗る際、彼の進言で燃料タンクから操縦席のパネル裏まで徹底的に調べ上げた。
自家用ジェットが爆破されたんだ。それくらい当然なわけだが…。
国王はえらく彼の事が(国王は彼女だと思っている)気に入ったらしく、気分を害すことなくそれに応じた。
不審な点も無く今に至るのだが、帰りは当然操縦士だけとなる。
警備不足もいいところだ。
到着した頃、修羅場真っ盛りだった。
何に失敗したか、身体に例の爆弾をまきつけた男2人が大声で何かを言っている。
ここからではわからないが、どうせ事がばれたことによる逆上が関の山。
降りようとする私を制して、エドが嬉々とした顔で降りていく。
「アンタはそこでじっとしてな。」
扉が閉められる。
確かに安全だが、外にいるときは常にそばにいるようにって話ではなかったのかい?
おとなしく、元いた席に戻る。
丁度窓から、テロリストの姿が見えた。
腰に巻いた爆弾が不恰好だなと彼らの姿を確認した瞬間、爆弾が視界から消えた。
と同時に、金色が目にも留まらぬ速さで2人を倒して行った。
あざやか。
思わず拍手をする。
前の席でほぼ同じ光景を見ていた執事も拍手。
そして、ばつが悪そうに咳払いをした。
「ご主人様をほっておいて、けしからん。」
「いいではないか。ここ数日、退屈だったんだろう。」
鮮やかな立ち振る舞いに、BGとしての信頼を見出したが、少々先行きは不安であった。
彼と合流すると、手には爆弾。こっちで処理すると無理を言ったらしい。
「だって、俺が作ったものだし。爆破してない状態で解析されたら、困るんだよ。それに、オレ以外がそう易々と解体できないし。」
「なるほど。」
「それよりも、主人をほったらかして何をしているんだね。」
突然ばつが悪そうな顔をする。
当然だ。主人として言うことは言わねばならない。
「だって、あのままじゃ、空港ごと爆破とかありえたし、オレの作った10個全部腰に巻いてたみたいだし、ジェット機の中にいれば安全かなと。それに、…」
ちらっと上目遣いにこちらを見る。
なんでも許したくなる顔だ。
ああ、可愛い。可愛いんですけれど、どうしたらいいんですか?
「それに?」
「オレの実力、というか、そういうの確認しておいて欲しかったんだよ。確かにここのところ暇で暴れたかったけどさ、どうもあんた、オレのことをBGとしてキチンと認識していない気がしたんだよ。」
それは失礼。
仕方ないじゃないか。ただ君に会いたかったんだ。
BGを雇ったんじゃなくて、君だから側にいてほしいと…。
言い訳じみた感情がこみ上げてくる。情けない大人だ。
「実力がないなら、雇ったりいたしません。任務を遂行することだけお考えなさい。」
空気を割ってはいる厳しい台詞。
「すみません。以後気をつけます。執事さん。」
彼は、執事の言うことは割りと素直に聞くらしい。
唯一、私の事情を全て知っている使用人だ。
彼を採用した理由も経緯も知っている。
当然、勘違いも彼に抱く気持ちも全て知っている。
彼の採用を許可したのも彼だ。
…?
釈然としない点があるように思えた。
「ですから、坊ちゃまわたくしは、あなた様が幸せである道を選択したいのです。もし、間違った道であろうとそれがあなた様の幸せならば、わたくしは命を投げ出す覚悟でございます。」
「わたくしは、うれしいのでございますよ。5年前のあの事件から、あなた様は全てに興味を失われたように見えました。ですから、今回の件は全てがうれしいのでございます。何かに興味を持たれた。」
「ご安心下さい。彼がここから出たいと思わないように全力でサポートいたします。わたくしにとっても彼は救いなのです。あなた様に人としての心を思い出させてくれました。だから、殺したくは無いのです。」
ふと思ったことに対しての返答。
こんなにも思われていたことによる安堵と、やはり彼も例外ではないという恐怖を覚えた。
今日もまた12時ジャストにノックする音がする。
「入れ。」と静かに言うと、真っ赤な顔をして立っていた。
熱でもあるのかと危ぶんだが、そうではないらしい。
扉を後ろ手で閉めたきり、その場所から動こうとしない。
しばらくの沈黙。
沈黙を破ったのは彼だった。
「あのさ、お願いされてもいいよ。」
彼が来て5日目のことだった。
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2007/04/10up
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