俺が金猫だったら、あいつはさしずめ黒猫だ。
この金の髪の毛が好きではないので、嫌みのようにも聞こえる。
アイツみたいなキレイな黒髪のほうが絶対いいのに。
日中、見事にアイツは部屋から出なかった。
屋敷の、本当に中央にあるアイツの部屋は見事に1度も扉が開けられることなく夜を迎えた。
「執務中は気が散るので中に入らないように。内容を見られるのも困るしな。」
執事さんと3人で、契約の大幅な見直しをしたのが朝食時。
まぁ、あれだけよく口が回ると思う。ぺらぺらとしゃべり続け、執事さんもそれを見事にメモしていた。
流石に「私が抱きたい時に抱きたいだけ君を抱く。」発言はここではなかったけれど、聞けば聞くほど俺は必要ないのではないかと不安になってくる。
体裁のため、雇ってはみたけれど、やっぱり必要ないなどといって追い出されてしまっては、弟と喧嘩別れのような形で出てきた甲斐がない。送別会をしてくれたジャンやリザさんに合わせる顔がない。
作り直した契約書を持ってきた執事さんに思い切って相談すると、意外な返事が返ってきた。
「存じております。これは内緒ですが、前からあなた様を探しておられたのです。はじめは女性と勘違いされていたようですが、それでもあなた様にご執心なご様子です。」
「禁欲生活ですか?確かに、少々語るのに憚られる内情がございまして、ここで全てお話しするわけにも行きませんが、確かにこの5年間どなたも抱いておられないのは事実です。扉に監視カメラがございますので、使用人でさえ、易々とはご主人様の部屋に入ることはできませんので。」
「ああ、そういう意味でしたか。失礼しました。そうですね。私などは、女中の中に妻がおりますので、なんともご主人様の心中をお察しできませんが、相当辛いものではないでしょうか。」
「娘が一人おりますが、生まれてすぐ里子に出しました。ご主人様の言いつけです。ここで育てば外界を知ることなく老いていくしかございませんから。」
「あなた様を知ってから、坊ちゃま、いえ、ご主人様はたいそう明るくなられました。以前は、機械のような方で、感情をあまり表には出されない方でした。わたくし共使用人にも滞りなくやさしく、おおらかで、愛していらっしゃるのは身に染みて感じることができるのですが、何かを我慢されているような、耐えていらっしゃるような。そのような方でした。うれしく思っているのです。あなた様が来て頂けた事を。どうか、ご主人様を様々な面でお守り下さい。」
執事さんはオレの拙い質問にゆっくり丁寧に答えてくれた。
BGって、ただ単に命を守れば良いっていう感覚だったけど、ここでは違うようだ。
フリー以外でBGに付くのは初めてだったけれど、他の奴もこうやって、主人を守っているのだろうかと思うと、大変な任に就いてしまったと、事の重大さに焦った。
ここは閉鎖された空間で、屋敷を出ることができない。それはなぜかは知らないけれど、きっと何か重大なことがあるようだった。
オレは悩みに悩んだ。
どうやってあいつを守るか。外からの危険だけからではなく、アイツの中にいる危険からも守ってやらなくてはならないのだ。
どうするか。
でも、とりあえず、オレは自分の貞操を守らなければならない。
帰ってきた、日用品を漁った。
呆気にとられたアイツの顔は面白かった。
すかした顔しかできないと思っていたので、見ものだった。
しかし、意外な反応。
強行突破でもしてくるかと思いきや、あっさりした反応だった。
シグさんに頼まれたサンドイッチを届けてやった時なんかは、「今日は抱くからな。」などと意気込んでいたのを危惧したにもかかわらず、こっちが勘違いをしたように恥ずかしくなった。
耳年増のオレとしては、男同士でする方法なんかも知ってるわけで、掘られてたまるかという意気込みを挫かれてなんだか、ムカムカしていた。
期待してた?同情?
そんなものはない!
けれど、執事さんのことを思うと、何かしてあげたい気持ちになるのは確かだった。
昼間にも色々考えたのだけれど、やっぱり一人で抜くよりは、人にしてもらったほうがいいよなという結論に落ちついたわけだが、掘られるのは嫌だった。
10000歩譲って、口ならと思い立ち、進言するがあえなく却下。
本当に何もしないと言ったのは本当で、何もなかった。
寝しなにアイツと話すのは面白かった。
「表の警備員?あれは人形だよ。」といわれた時は思わず部屋を飛び出して確認した。
恥ずかしい。何度尊敬の念を抱き、会釈したか!
「よくできているだろう。定期的に肩を動かしたりするプログラムが入ってるんだよ。」
どうみても本物にしか見なかった。これで、話しかけて返事でもしたら本物だ。
事件は次の日に起こった。
暇をもてあましてるオレに初めての呼び出しがあった。
「エド、2日後が君の初仕事だ。」
初仕事に浮かれるオレだったけれど、それよりもアイツは浮かれていた。
人を殺すのは嫌いだった。いくら、トリガーを引くだけの銃でも、殺した感触は残るから…。
殺さないでくれと言われたのは初めてだった。
命を狙われ続けると、そういう感覚に疎くなると聞いたことがあるがアイツは違うようだった。
初の外出でテロに巻き込まれそうになるなんて、運の悪い奴だと思ったが直接狙われたわけではないとわかって安堵した。
爆弾がオレの作ったもので、テロリストの単純な思考が読めたのが幸い、未遂に防いだ。
幸い爆弾も回収できた。実はあの中には人には見せられないものが入っていたのだ。爆発するからと高をくくっていたからいけない。爆発しない危険性もあることを知った良い機会のように思えた。
なんせ、あの中には、オレが幼馴染の女の子に当てたラブレターなるものが入っていたからだ。
人に見せられたものではないので、一番安全な確実な方法で処理したかったのだ。
帰宅後すぐに爆弾を解体し、ラブレターを暖炉の中に入れて燃やした。こっちのほうが確実かと自嘲した。
弟のことが好きなのはうすうす気づいていた。でも、認めたくなかった。それだけだ。
別に、未練を断ち切るために爆破するなんて考えたわけではない。
そういや、オレ失恋したのに案外平気だ。
理由は簡単。
アイツと、この新しい生活が気に入っていて、すぐさま立ち直ったということだ。
アイツが何に苦しんでいるのか気になった。興味がわいた。
断じてオレは男色かではない!
が、アイツに抱かれてもいいかなと考えていた。
黒猫の用心棒
教訓3〜缶詰は確かにおいしいと思います。でも、わかめの味噌汁をご飯にかけたものには敵いません。〜
どうして、女を呼べないのか、数いる女中を部屋に呼ばないのかを考えたら不思議な気持ちになった。
あの顔だ。もてないとも思えないし、使用人の信頼も無駄に厚い気がした。
オレとしても興味がないわけではなかったし、どうせなら女の子としたかったし、と、色々な思いをめぐらせたが、報酬からいっても、身を売るぐらいさして問題ない気がした。
「…、すまない。よく聞こえなかった、というか、理解ができなかったのだが…」
2度と言うかバカヤロウ。
枕に顔をうずめると抱きしめられた。すっぽりと腕の中に納まってしまった自分が不憫だった。
大切なものをやさしく抱きしめるようにも思えたけれど、力強く抱きしめられているようにも思えた。
お互い何もいわない。
口を開こうにも枕で顔を抑えているので、満足に呼吸もできていない。
それなのに、なぜだか心臓が大きな音を立てだした。苦しいからなのだと言い訳したが、それこそ苦しい言い訳だった。
満足に呼吸はできないといっても、これ以上苦しい事もあったし、それに比べれば普通に呼吸しているのと大差ない。
心臓がいつもより活発に活動しているから、苦しいのだ。
耳元に呼吸を感じた。全身が心臓になったようにどきどきしているのを感じた。
顔が赤い…と思う。まくらに顔をうずめておいて正解だった。
「すまない。」
と、言葉を発したアイツは静に離れていった。
「?」
なんだよ。抱きたいっていたのはアンタだろ?なんだよ、すまないって。
オレの一世一代の決心を無駄にするきか?
風呂にだって念入りに入ったんだぞ!
「君を抱きたいのは、変わらないけれど、恐くなってね。」
ああ、これか。
無意味な自制心。
無意味な加護心。
「オレは、アンタに抱かれたいんだ。オレの一世一代の決心を無駄にする気か?悩んだんだぞ、悩んで悩んで悩んだんだ。抱きたいってあんた、言っただろ?」
まくし立てるように言うと何かがスッキリした。
枕を捨ててアイツに抱きついていた。
「エド?」
「オレ、アンタを守りたいんだ。」
抱きついた胸板が以外に広くて、回した腕が届かなくて、…なんだか情けなくなったけれど、本心だ。
コイツを守りたいと思った。
相性の良い会話も、相槌も全てが気に入っていたから。
「本気にするぞ。」
オレが嫌みを返すまもなく口を塞がれた。
初日にしたものとは比べ物にならない執拗な感触。
嫌ではなかった。
心臓が壊れそう。
頭の芯がぐらぐらしていくのを感じながら、キスに応じた。
息継ぎもきっと相性が良いのだろう。苦しいけれど、苦しくなかった。
「恐いか?」
酔っているオレに問いかける姿は不思議と恐かった。
これからすることに対してなのか、こいつになのかはわからなかったけれど、なぜか恐かった。
聞くほど、恐がっているように見えたのだろうか。
「恐くない。」
嘘をついた。
恐かったけれど、心臓が頭がおかしくなりそうで恐かったけれど、恐くないといった。
恐くないといわなければならない気がした。
足がふらふらして歩けそうになかった。
それを察してか、抱えられた。
「重い。こんな重いオートメイルを付けてたら身…」
思わず顔を殴ってしまった。
軽く殴ったつもりだったが、少しよろけられた。
「失敬。禁句だった。」
確かにオートメイルは重い。足と腕。外した時のオレの体重の半分くらいの重さがあると言っていた。
これ以上軽くすると、耐久性がなくなるらしい。
大人がつける分には問題がない重さであるのは確かである。
「次は右手で殴る…。」
しゃべりにくい、恥ずかしかったし、なんだかふわふわしていた。
心臓がおかしい。
「止めてと言っても止めんぞ。」
「お、おう。」
今すぐ前言撤回して逃げてしまいたかったが、ここで止めるなんて男が廃る…?
あれ?オレ、女役だったっけ。
そうか。オレが女役か。
「あのさ、オレが女役?」
一瞬固まって、笑い出した。
「そうだな。男同士だったな。忘れてた。」
俺もつられて笑った。
それって、どういうことだよと心のそこで突っ込んだ。
広いベッドが今日は更に広く見えた。
二人で寝るには広すぎる。ましてや、一人で寝るには寂しすぎる。
「女性でも、そこが好きなのがいたよ。大丈夫。」
何が大丈夫なんだか。
下手に笑いあってしまったため、妙にかしこまってしまった。
お互いベッドの上でかしこまっている。
「お願いします。」
「こ、こち、らこそ?お、お願いします。」
軽いキス。
また、軽いキス。
物足りない気がした。
また、軽いキス。
物足りない。
また、軽いキス。
顔をかがめて、少し距離をとる。
不思議そうな顔をされたが、多分オレのほうが不思議そうな顔をしているだろう。
「もしかして、緊張してる?」
そう聞くと困った顔をした。
「勝手がわからなくてね」
「女の扱いと一緒でいいよ。面倒くさい。」
「いや、それはいいんだが、初めてというのが初めてで…」
納得。確かに実際問題、どうしたらいいのかオレにもわからない。
突っ込む場所も突っ込まれるものも知っているが、そのプロセスというか、知らない。
お互い笑った。
そして、キスをした。
そういえば、枕を落としたままだ。
他人の重さを肌で感じた。
すっぽりと納まってしまう自分に少々嘆いたが、この方が都合がいいような気がした。
まだ、服は着たままだけれど、密着している部分が熱くて、それだけでドキドキした。
柔らかいベッドを背中で感じるより、重なった体が気持ちよかった。
頭を柔らかくなでられる。心地良い。大きな手に包まれているような錯覚に陥る。
服の上から、優しくなでられる。
成すがままのオレは、緊張して動けない。
動いたほうがいいのかなと思いながら、目を合わせると笑ってくれた。
申し訳なかったので、首に腕を回してキスをした。
(オレからするなんて!雰囲気に流されただけだ!)
夜の静かな空気の中で舌の絡まる音が響いた。
もしかしたら、廊下まで聞こえてるのではないのかと危ぶんだが、廊下に立ってるのは人形だ。
「傷口、見てもいいか?」
オレの身体は傷だらけだ。
見て気持ちがいいものじゃない。
特に肩は色が変色していたりと、自分で見ても気持ちが悪い。
「駄目じゃないけど、気持ちが悪いよ。」
「じゃあ、変えよう。私が見て、君は平気かい?」
こう聞かれたら、平気と言うしか無いじゃないか。
「平気だよ。あんたが平気なら。」
オレを全部見せるからさ、あんたもオレに全部見せたらいいよ。
そしたら、オレが全部守ってやるからさ。
オレがあんたを守ってやるからさ。
大きく開いた襟から傷口を触る。
そして、やさしくキスをする。
そして、傷をたどる。
この腕がオートメイルじゃなくて、生身の腕だったらもっとあんたを感じれた?
あんたは、やさしいから…
こんなオレでも好きだって…
好きって言いすぎだろ?
可愛いって、男に向かって可愛いとか言うなよ。情けなくなるじゃん。
でも、あんたの声で好きって言われるのも、可愛いって言われるのもむずがゆくて好きだな。
ああ、だんだん恐くなくなってきた。
むしろ、あんたが近くにいるのが安心する。
あんたの体温、呼吸、声…
「恐いか?」
「もう、大丈夫。」
今度は作り笑いじゃないよ。
こういうやさしいところが好きだな。
声も好き。
低いトーンの声。
耳障りがとてもいい。
でも、耳元で聞くとぞくぞくする。
手も好きだ。
大きな手、細い指。
指を絡ませると、自分の手の小ささに情けなけなくなるけど…。
髪をやさしく梳くときの感じも好きだ。
体温も心地いい。
湿った体温がとても気持ちいい。
でも、この黒い髪はもっと好きだ。
サラサラしてる。
身体に当たるとくすぐったい。
ちょっと硬めの髪。
なんか、オレばっかり気持ちよくていいのかな?
身体がクリームみたいにとろとろになっていくような…
このままあんたに解けてしまえばいいのかなぁ?
目で了解しあって、キスで確認して…
大丈夫だって、オレ痛いの平気だもん。
途中でやっぱり駄目なんて、言わないよ。
少しだけ恐くなったのは秘密。
オレがちっぽけに思えたんだ。
あんたが大きく見えたんだ。
すっぽりと包まれる…不安なんて、ないはずなのにな。
おかしいな。
ああ、恐いよ。
息ができない苦しさと、今まで感じたことのない痛みが体中に走る。
オレ、我慢するよ。
だって、あんた今凄く幸せそうな顔してるしさ。
オレが我慢するくらいならいくらだってするよ。
オレ、あんたのBGだもん。
オレ、あんたをすっぽり包めるぐらいになりたいよ。
痛いけど…、痛いけど、もっと近づけてるのかな?
執事さんも言ってたけど、我侭だって言っていいんだぜ?
みんなそれを待ってるんだ。
みんなあんたが好きなんだ。
あんたは何に怯えてる?
オレが側に居てやるよ。
でも、痛いな。
痛くないって、言っても痛いよ。
でもさ、あんたの幸せそうな顔見てたから、我慢できたんだぜ。
オレはあんたに、ちょっとは近づけた?
その夜は珍しく夢を見た。
暗い、暗い真っ暗な森の中で声がする。
声の主を探しても探しても見つからない。
誰の声かわからなかったけれど、知ってる声で、急いで見つけなければいけない気がした。
森は暗いし、足元も見えない。
こけるし、ぶつかるし、体中怪我だらけで痛い。
でも、声の主を見つけなければいけない。
月明かりのさす湖と出逢う。
湖の女神様はリザさんそっくりだった。
声の主はどこにいるのと尋ねると、まだ足りないと教えてくれた。
何が足りないのかわからなかったけれど、何かが足りないんだと納得した。
コロボックルの行列と出逢う。
その一人はハボックそっくりで、声の主はどこにいるのと尋ねると、足りないから駄目だよと言われた。
何が足りないのかわからなかったけれど、何かが足りないんだと納得した。
アルそっくりの妖精は、足りないのに逢おうとするなんて無謀だねと言った。
足りないものを探した。
声は森中にこだましているのに、どこにいるのかわからない。
何が足りないんだろうか。
起きると体中が痛かった。
それよりも、首が痛かった。
腕枕って、気持ち良くない。むしろ痛い。
「おはよ、エド。」
「………。」
寝顔をずっと見てたのか?悪趣味な。
「お、おはよう、ござ、ます。」
声がうまく出ないのはのどが渇いてるから。
どうしてこいつはこんなに平然としていられるのか不思議だった。
そうか!突っ込まれるほうと突っ込むほうの違いか!!
身体を起こそうにも、身体が鉛のようで思うように動かなかった。
とにかく、首が痛いので、うねうねとおかしな動きで腕枕の拷問から離れた。
離れると、向こうも腕が痺れていたのか軽く動かしている。
あいつは、さもいつもの朝のように起き上がり、軽く背伸びをしている。
枕元に置いてあったミネラルウォーターをオレに差し出して、おでこにキスをする。
うまく身体が起こせないことを目で訴えると、抱えてくれるのかと思いきや、口移しで飲ますと言う荒行を見せた。
ほどよく冷たく、喉を通るのが気持ちよかった。
幾分か身体が軽くなったように思ったが、それでもあちらこちらで鈍痛を感じる。
「身体、痛いのか?」
「あたり前だ。」
困った顔をして、すまないと謝られると昨日の痴態を思い出し、全身で火を噴く思いがした。
「でも、そろそろトイレに行かないと、お腹が痛くなるかも。」
なんで?と問い返すと、更に困った顔をした。
アイツは応えずにオレを抱えると、トイレに連れて行った。
抱えられ方に問題があったけれど、暴れる気力もない。
便座に丁寧に座らせ、扉を閉める。
全裸で座っている俺は滑稽に思えたが、そういえばハボックは全部脱ぐと言っていた気がした。
「おもいきり君の中で出してしまったんだ。申し訳ない。次からは気をつける。」
扉の向こうで申し訳なさそうな声がする。
次があるのかと安堵した。
?
安堵?落胆の間違えではないか?
太ももを見ると、乾いた精液がこびりついている。
そういうことか。
ため息をつくとどうしたものかと天を仰いだ。
身体は最高潮に痛い。
体調が悪いと、夕方まで自室で臥せっていた。
執事さんは事のなりを理解したのか、そっと軟膏をサイドテーブルに置いてくれた。
ありがたかったが、次ぎ会うときにどんな顔をすればいいのか悩んだ。
ベッドで大人しく寝ていることができたなら、夕方には回復する予定だった。
しかし、うまく出せなかったのか腹痛も重なり、トイレとベッドの往復が続き、体力的に限界だった。
夕方になると、身体の痛みも腹痛もどうにか治まった。
こんな日に何かあったなら、オレは役立たずもいい所だと自嘲した。
何を守るのがBGの仕事なんだろう…
高い天井がぐるぐる回っているように見える。
そうとうきてるようだ。
動かすとギシギシ音がしそうだったけれど、胃袋が食べ物を求めていた。
いつものように食事をしにいくとあいつもいて、ぎこちない顔をこちらに向けていた。
「もう、大丈夫なのか?」
「平気。」
嘘。
身体は平気だったけれど、あいつの顔を見た瞬間顔が赤くなったと思う。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、穴があったらもぐりたい気持ちになった。むしろ、掘ってもいいので、入りたかった。
幸い、テーブルの端と端。
初めてこの無駄に長いテーブルに感謝した。
食事が思うように喉を通らない。
いつもなら、足りないくらいなのに…
「食欲がないな」
「そういう、訳では…ないんだけど」
顔を上げるとすぐさま目が合う。
不自然すぎる勢いで視線をそらす。
一緒に食事をするといつもそうだ。オレの顔をじっとみてる。
普段は気にも留めないことだけど、今日は視線を感じただけで、そこにキスされているような…
オレって淫乱?
マジで?
食事の後は、気分を落ち着けるために銃の点検をした。
身体はまだ痛かったけれど、何もしないよりは落ち着くはずだ。
前回装備したのとは別にかなりの量を持ってきている。
オレ専用にサイズをあわせてもらったものや、自分で改造したものなど、全てを持ってきた。
全部で21丁。
仕事の内容によって変えることはリザさんが教えてくれた。
場合によっては、手近にある銃でも撃つことができないと駄目だと、種類も豊富に揃えてある。
12時まであと、2172秒。
銃の形状というものは似通ってはいるが、照準を合わせる位置なんかはまったくといっていいほどバラバラだ。
合わせる位置は一つなのだが、弾道というものがある。
近距離ならさして問題はないが、遠くにあるものを撃って間接的に攻撃する時なんかは、銃慣れしていないとすぐさま撃つことができないのだ。
シャンデリアの金具を落とすとか、照明の配線を狙ったりする芸当はオレにはまだできないけれど、そのうちリザさんのようにできるようになればいいなと思っていたりする。
せいぜい、グラスなんかのガラス製品を割るくらい。
それでも、体勢悪や急な対応の場合の中で撃ちきれる奴なんてそうそういないと…思う。
軽く撃つまねをして体勢を変えた瞬間、下半身に激痛が走った。
流石に切れ痔などという恐ろしい状況にはなってはいなかったが、腰が、足の付け根がかなり悲鳴をいまだに上げていた。
残り1328秒。
風呂には入った。
体中に赤い発心のようなうっ血した痕を見た瞬間、いたたまれなくなった。
特に、腕の傷口の周りに多い。
このぶんだと、背中も相当の数があるだろうと危惧してみたが、見る勇気がなかったので闇に葬ってみた。
昨日と同じように、無駄に意気込んでみる。
流石に今日は何もないと思う。
そのはず。
何を期待しているのか、鳥肌が立った。
オレってマジで淫乱?
残りジャスト200秒。
枕を抱える。
ここのねまきは足首まであるワンピースタイプのものだ。
着るものは全てこちらでと、下着から全部支給品だ。
初日は流石に足元がスースーして落ち着かなかったが、流石に慣れた。
それが、今日に限って心許ない。
昼間は何があろうと、白シャツ、黒スーツにリボン帯。よく考えてみると、どこかの学校の寄宿舎のように思えた。
アイツの…趣味か?
ため息。
残り30秒。
部屋を出る。
隣の部屋なので、2秒と掛からずにノックできる。
部屋を出ると、執事さんがブランデーとチョコレートの入ったお盆を持って立っていた。
「こ、こんばんは。」
事の成り行きを全て知っているだけ、どう接していいか、こっちが困る。
ああ、穴があったら、入りたい。
むしろ掘って入りたい。
「こんばんは。もう、お休みですか?」
「う、うん、12時だから。」
「そうですか。コレを。」
枕を急いで脇に挟んでお盆を受け取る。
チョコレートの甘い香りが心地良かった。
残り2秒。
執事さんはオレに気を使ってか、代わりにノックした。
「入れ」の声。いつもと同じ声。
親切に開けてくれて、オレと、アイツに軽く会釈をした。
おやすみなさいと言うと、おやすみなさいと返してくれた。
とても幸せそうな顔をしていた。
むずがゆい気持ちになりながら、遠くなる足音を聞いた。
「これ、執事さんが。」
「ああ。」
お盆も持つ手もだいぶ慣れた。
歩く度に腰の痛みを感じたけど、慣れたもの。そんなに揺れはしない。
「私が持とう」
返事を返すまもなく、高いところへ行ってしまったお盆。
主人として、こんなんでいいのだろうかと危ぶんだが、気にしないことにした。
小走りでドアまで行き、戸を開ける。
あいつはニコッと笑った。(皮肉では無いが、意外とかわいい。)
後の祭り、激痛が走り泣きそうになった。
ベッドの箸に腰掛けてチョコレートを飲む。あいつはもちろんブランデー。
氷のカラカラする音だけ辺りに広がる。
かれこれ、328秒この状態。
沈黙を破ったのはもちろん…、
「身体はもう、平気かい?」
何に反応したのか、身体が熱くなる。
そうだ、ホットチョコレートを飲んだからだ!
「そっ、それなりに。」
「昨日は、本当にすまなかった。」
真剣に謝る姿が不思議に見えた。
今度は反対に身体の熱が一気に冷める。
オレ?何?何か悪いことした?
え?何?無かったことにしたいみたいなこの空気…。
「え?何?なんで謝る訳?」
罰の悪そうな顔をする。
やっぱり、男だったのが駄目だったのか?
それとも、傷だらけのこの身体が気持ちが悪かった?
気持ちよくならなかったのがいけなかった?
もしかして、ぜんぜん気持ちよくなかった?
「オレ、初めてで、何ができるかとか、わかんなくて、痛いばっかりで、ごめん。」
何を言ってるのか。
驚いた顔をしたかと思えば笑い出した。
「いや、いい。こっちこそ、痛い思いをさせてすまなかったと。」
頭を抱えられる。
膝の上に置いたカップの中でチョコレートが大きく波を撃ったけれど、半分も残っていなかったのでこぼれずにすんだ。
「なんだ。」
安堵?
おかしいな?
このまま無かったことになってもちっとも問題はないのに…。
うれしくてしょうがない。
あれ?次を期待してる?
嘘…マジでオレ、淫乱?
下からのぞく形でされたキスはチョコレートボンボンの味がした。
目をつむって軽く上を向く。
オレって、酒に弱いのかな?
なんだか酔ったようだ。
その夜は、二人で手をつないで寝た。
腕枕はこりごりだった。
次の日は身体の痛みもなくなっていて、さわやかな朝になった。
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2007/04/10up
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