『テルスの業火』を調べると1番最初に出てくる名前が“Fullmetal”彼のコードネームだ。
場所によっては彼を神のように称えていた。
若干12歳の作った爆弾は、一瞬にして繁華街を吹き飛ばしてしまった。


   コードネーム“Fullmetal”。今や、この業界でこの名前を知らない奴なんかいないね。
   え?知らないって?もぐりだな。彼は凄いんだぜ。若干12歳で彼は素晴らい爆破装置を作ったんだ!
   彼を有名にしたのは、『テルスの業火』流石の君でも、この事件は知っているね。
   右翼派のテロリストが仲間の解放を訴え、テルス市街のど真ん中に爆弾を撒き散らしたんだ。
   テロリストがいとも簡単につかまったは良いが、肝心の爆弾が処理できなかった。
   地面に密着させた状態で放置された爆弾は数十箇所。
   1度作動させてしまったら、少しの衝撃で爆破。
   無能な爆弾処理班は悪戦苦闘の末、結局解除できなかったんだ。
   避難勧告も間に合わず、爆破に巻き込まれた死傷者は十数万人。
   その爆弾は解析に回されることなく全てが爆発。素晴らしいね。
   処理班も全て吹き飛ばし、かろうじて残ったのは1枚の写真。
   ほとんどピンぼけたその写真は、“神の爆破物”の写真と、賞賛を浴びている。
   その当時、誰もが信じなかった神の名前“Fullmetal”若干12歳の神の名前だ!
   今や伝説になりつつある彼は、今どこで、何をしているのか!!

                                  いかれ道化師のHP「現代の偶像崇拝」より抜粋


彼はこの事件を知った時どんな衝撃を受けたのだろうか。
それでも爆弾を作り続けていた彼は、何を思っているのだろうか。
父親が爆破され、自身もそれに巻き込まれたからか?


それでも、彼はまだ15歳なのだ。


私は彼に恐ろしいことをしてしまった。
ただ、私は彼を失いたくなかったのだ。
私は、彼を失いたくなかったのだ。


でも、彼は、こんな私でも、彼は好きだといってくれた。
幸せにしてやると言っていた。
私はそれでも幸福になれない。
幸福というお面をかぶり続けている私は、果たして彼の言う幸せでいるのだろうか。
彼を愛しているのだ。
彼が今の私の全てなのだ。
彼が側にいるのに、彼も私に好意を寄せてくれているというのに、どうして私は幸せを感じられていないのだろうか。










黒猫の用心棒

教訓6〜またたびですか?癖になるとやめられませんね。だから、自粛してます。〜











最近彼は、トレーニングにご執心だ。
屈強な男になってやると、1日の半分を費やしている。
勿論、半分は例の研究とやらだ。
私としては抱き心地が悪くなるので、筋肉はあまり付けて欲しくないのだが、本人は至極やる気なので、下手に反対も出来ない。
なんたって、彼はわたしのBGなのだから。
射撃の訓練も怠れないと、彼は敷地内に簡単な訓練場を作ってしまった。
的があるだけの簡素なものだが、庭師と和気藹々と作っているのを廊下から眺めていた。
彼は、本当に誰とでも打ち解け、笑いを振りまく。
全員の名前と顔はすぐに覚えてしまって、大半はファーストネームで呼んでいる。


明日私たちは、2泊3日の旅に出る。
浮かれているのは私ばかりで、今回は見事に彼と二人。
仮面会談(彼がそう呼んでいるので、ついつい…)がとある島で行われる。
迎えのヘリが来るため、執事は留守番だ。


「なあ、初めての泊りがけは良いけどさ、あんた、本当に浮かれすぎ。」
孤島ということもあって、私ははじめての海水浴に勤しもうと色々と準備をしていた。
「君は泳げないんだったね。残念だね。」
アハハと笑う私を、乾いた瞳で見ている。
そんな君も可愛い。と、本当に浮かれているようだ。
「どういう会談なわけ?」
「うーん、基本的に井戸端会議みたいなものかな?」
「女中たちがしてる感じ?」
「そうそう、それに、世界情勢や環境問題なんかをトッピングしたようなのもだよ。」
「レベル違わねぇか?」
「そうかい?」
彼はいつものように、装備品を準備している。
今回はいつものように女装はしないといっている。
可愛いのに。
まぁ、行くところを考えても、集まる人間を考えても、その必要はないのだ。
「今回はやけに薬?の量が多くないか?」
「ん?ああ、向こうの出した食事だろ?とりあえずな。」
「そうかい?」
「ああ、オレがとりあえず、一口ずつ食べてから、食えよ。」
知らない土地に行こうとする彼は、緊張しているのかな?
と思うぐらい、しゃべりも何もかもがたどたどしかった。
「今までさ、BGって、3人編成ぐらいでやってたわけ、俺一人でなんて、初めてなんだよ。」
にらみを利かせる彼は、美人なだけにそれなりの凄みはある。
「だいたい、他の奴らも2人ないし、3人は連れてくるんだろ?」
「そうみたいだね。ヘリも大型のものみたいだし。」
彼は、道具をしまいこむと、寝る用意してくると言って、部屋に戻っていった。
気が付けばもうすぐ12時だった。


盛大なお見送りにもなれた。
今回は2泊3日の大旅行。
古参は握手を求めてくるし、涙を流して万歳三唱している。
「相変わらず、すげぇな。」
乗り込んでから、ため息混じりに口が動いている。
ヘッドホンを装着して、チャンネルを合わせる。
彼は慣れた手つきで既に終わっており、使用人に向かって手を振っている。
私はたどたどしく装着するのを見かねて彼は、手伝ってくれた。
見よう見まねで付けるものだから、少々は見逃して欲しい。


無事、島に着いたはいいが、泳げる海岸はないと上空から確認した私は落胆していた。
島に着いたところで私たちは仮面をしている。
今回は嗜好を凝らせた。
彼にはじめ作らせたら、おどろおどろしいものを作ってきたため、却下した。
上出来だと思う!という彼は、それを部屋に飾っている。
二人で作ろうと、一緒に考えた。
シンプルすぎず、懲りすぎず。
こんなで出来かと二人で満足していた。
が、甘かった。
彼が始めに作ったものでも、シンプルなのではないかと思うほどの懲りよう。
何をしているんだと、思わず突っ込んでしまった。
どこかのカーニバルを髣髴とさせるものから、それひとつで美術品として評価されそうなもの、はてまた、きらびやかな宝石や羽で装飾されたもの。
「あれで、良かったんじゃねぇか?」
「偶然だな。私もそう思った。」


支配人と名乗ったのは70がらみの白髪が綺麗なジェントルマンだった。
彼をお嬢さんと間違えて、憤慨させたこと以外は、とてもスムーズに収まった。
頂の頂上に立ったこの屋敷は、部屋から海が一望できる。
ただ何も無く広がる海に、年甲斐も無く感動した。
夕食は各自の部屋でとの事だったので、彼は安堵していた。
一緒に食事をなんてメンバーでもない。
初日は、こんな様子で幕を閉じた。
慣れないベッドで初めて寝るため、寝付けないと困っていたら、彼が枕を持ってやってきた。
「どうせ、あんた一人じゃ寝れねぇだろ?」
「うれしいね。」
「へ、オレが子守唄歌ってやるから、さっさと寝ろ。」
勿論、先に寝付いたのは彼のほうで、私は月明かりに光る彼の髪を眺めているうちに寝てしまっていた。


本物の朝日は格別にまぶしかった。
背伸びをして窓を開けると、潮の匂いが鼻腔を掠めた。


ノックと共に、朝食をお持ちしましたとの声。
給仕とも顔を合わせない。
部屋の外に、朝食の乗ったカートが置かれている。
徹底ぶりに思わず笑ってしまった。
私は彼をそっと起こす。
最近わかったことだが、どうやら彼は耳が弱いらしい。
「エド、朝だよ。」
耳元でささやくと、くすぐったそうにして身体をよじる。
静に目を開けて鬱陶しそうに耳をこすっている。
「お願いだから、耳元でしゃべるのやめてくれ。朝から気分が悪い。」
そういう彼はどこか照れくさそうに言うので、なかなかやめられないのだ。
「おはよう。」
「おはようございます。」
そう言ってしまうと、彼は開けたままだった窓を思い切り閉めた。
「ばっか、何やってんだよ。」
「こんなところでは、狙われやせんだろうが。」
怪訝そうな私をよそに大きくため息をつく。
「そうじゃなくて、潮風で部屋の中べとべとになるんだよ。」
確かに、先ほどから、部屋の中が潮くさい。
「あんた、本当に箱入りぼっちゃんだな。」
つられて笑う。


例によって例の如く、簡単な毒物検査をした彼は、満足げな顔をしてあっという間に平らげてしまった。
私はどうも、興奮気味なのか食欲が無く、珈琲とパンをひとつ食べただけだった。
彼は牛乳を飲まない。珈琲も飲まない。朝は野菜ジュースと決めている。
自前の野菜ジュースを持ってきていて、コップに注いで飲んでいる。
「だから、何もカルシウムは牛乳から取らなくてもいいんだよ。」
そういう彼の好物はシチューだ。
不思議なものだ。
「オレも、不思議だと思うよ。あんな白濁汁が、あんなおいしいものに変るんだからさ。」
それを聞いたコックは大きな声で笑ったと彼から聞いた。


10時から会合。
13時から14時まで休憩した後、18時まで行われた。
彼は待機室で待機している。
ここも以前と同じつくりのようだった。
だが、今回は待機室にモニターが無かったとのことなので、暇をもてあましていたらしい。


特に出席者同士の交流に制限は無く、知った顔であれば、お互い個人的に話をしている姿も見受けられた。
彼らが引き連れる使用人兼BGは、誰もが屈強な大男共であった。
うちの猫は大層有名人だったらしく、彼らが猫に深々と頭を下げる姿が目立った。
仮面の意味ねぇよと、軽く笑っていた。
凄いねと、彼に言うと、自嘲気味の笑顔で返答した。
「ああ、オレが凄いんじゃなくて、弟が凄いんだよ。」
彼の弟は最大手のBGの排出会社だ。
「中には、同じ会社のもいたかな?」
興味なさげな彼だが、私は興味がある。
「オレに立てついて、弟にチクラレて見ろ、この界隈じゃ仕事できなくなると心配してるんだろうよ。」
「君はそんなことしないだろ?」
「あたり前だ。第一、めんどくせぇ。」
まあ、人の性として仕方のない反応だろう。
「懐かしい顔がいたら、話してきていいよ。」
「マジで?」
そう言うと、彼はえへへ、行ってきますと。可愛い顔をして行ってしまった。
誰がいたんだ?
それくらい教えていってくれても良いではないか。


すると、30分もせずに戻ってきた。
「えへへ、久々に会ったら、やっぱ懐かしいな。」
「早かったな。」
「そりゃそうだよ。お互い仕事中だもん。」
彼は、私の座っているソファーの肘掛けに腰を下ろした。
「オレさ、肉親って言うのが弟一人なんだよね。」
知っている。
彼の事はそれなりにでしかないが、知っている。
「で、俺らは父親の代からいてくれている人に育てられたんだ。」
とはいっても、10歳からだけどね。と言ってこちらを向いた。
こういうときの彼は、本当に可愛いと思うし、歳相応の表情に魅せられる。
「名前は言えないけれど、お姉さんのような人と、アニキみたいな人でさ。」
彼がこうやって自分のことを話すのは本当に珍しいことで、わたしは心を躍らせていた。
「コードネームは言っていいのかな?お姉さんのほうは“鷹”で、アニキの方は“Mr.ジャクリーン”」
「Mr.ジャクリーン?」
「そうそう、初めての任務での呼称が女名じゃないと駄目だったらしんだ。それで今も。」
「では、よほど女形のような奴なのかな?」
「ぜんぜん、ぜんぜん、筋肉モリモリの兄ちゃんだよ。」
と、小さいからだを大きく広げて大きさを表現する。
アハハと軽やかに笑って、私にもたれかかってきた。
「いい人だよ。会わせたいな。多分仲良くなれる。一緒にお酒飲んだらいいよ。」
遠くを見て笑っている。
この業界、そんなことはあってはならないし、夢のまた夢だということを彼も私も知っている。
「そうだね、君の幼いときの話でも聞けたらいいね。」
「あー、それは駄目。」
真剣な顔をしてこちらを向く。
「どうしてだい?」
意地悪そうに問いかける。
「色々と、恥ずかしい話をあいつは大笑いしながら話すんだ。」
「ははは。そりゃいい。」
「鷹のお姉さんは、美人だよ。さっき会ってきたのもお姉さんの方。」
「君より?」
弾む会話が楽しかった。
「もちろん。凄い美人だよ。見たら、惚れるかも。」
「まさか、君以外には目もくれないよ。」
そう言って私は彼に口づけをする。
彼は頬を染めて、エヘへと笑っている。
「そうそう、今回は珍しい参加者がいると言っていてね。私も前回は特殊な扱いをされたが。」
「いいの?そういうこと言っちゃってさ。」
「良いさ。別に名前とかがわかってるわけじゃないしね。」
「へぇ。」
「君と同じくらいか、少し年上かな?少年が一人いてね。」
「へぇ。あんたが一番若いかと思った。」
仮面をしててもそれなりの年齢はわかる。
仮面などはほとんど建前で、大体の人物の見当もついている。
「金髪の綺麗な感じの子だったよ。声のトーンもやさしくてね。彼は、とても知的で、面白かったよ。」
やきもちを焼くかなと少しばかり期待したが、そうではなかった。
何か考えるような顔をしている。
「そいつさ、車いすじゃなかった?」
「ん?そうだったが、なぜ知っているんだね?」
彼はため息をつきながら、両手で顔を覆った。
「そいつ、オレの弟だ。」


夕食後、部屋に一通の手紙が届いた。
差出人は“A”とだけ記してある。
『20時2階広間で待つ。』
彼は青ざめた顔をしている。
「やばいよ、どうしよう。怒られる。怒られるよ!!」
「どうしたんだい。落ち着きたまえ。」
「2ヶ月以上連絡してないんだよ。喧嘩別れしてきたんだよ。」
「それはよく知ってる。」
「弟、怒ると恐いんだよ。」
あわあわと、部屋の中を行ったり来たりしている。
この部屋の時計は彼は自分の時間が狂うといって、着いた早々止められている。
「ああ、あと469秒。」
彼は今にも暴れださんばかりだ。


「そうこうしていても、始まらんだろう。」
私は彼の腕を引いて、2階の広間へ向かった。


「はじめまして。」
広間に入った私たちを迎えたのは、清楚な感じのする女性と、車いすの少年だった。
扉を閉めると、彼らは仮面を取って挨拶した。
わたしたちも、それに習い仮面を外し、挨拶をした。
「アルフォンス・エルリックです。兄がいつもお世話になっています。」
「こちらこそ、私は、ロイ・マスタングです。」
握手をする。
その手は細く、頼りないように思えた。
短い金髪を右に流している。
見比べなくとも似ていなかったが、優しい顔つきをしている。
「彼女は、世話人として連れてきた“鷹”です。」
ああ、先ほど彼の話に出てきた女性か。
なるほど、相当な美人だ。
見とれていると、後ろから蹴られそうだったので、早々に口を開いた。
「エドワード君には本当に助けていただいてます。」
そうにこやかに言うと、アルフォンスくんは興味なさげにそうですかとだけ言った。
「少し、兄弟で話をさせていただいてよろしいですか?」
「勿論。」
しかし、当の兄は、兄としての威厳よろしく、私の後ろで更に小さくなっている。


「兄さん、怒ってないから、隠れないの。みっともない。」
辛辣な声のトーンに私もつられて青くなりそうだった。
「だって、怒ってるだろ?」
私の服の裾を掴んでいる。
アルフォンス君は小さくため息をついて、笑顔を作る。
「怒ってないって。」
「本当か?」
「本当。」
花が咲いたように笑い、弟のところへ駆けて行く。
どちらかといえば、彼のほうが弟のようだった。
立つことは無いが、彼よりも身長は高いであろう。
「アル〜!」
飛びつくように抱きつくそれは、感動の再開さながらであった。
アルフォンス君はよしよしと背中をなでている。
「兄さん、元気そうで何より。心配してたんだよ。連絡ひとつくれないんだもん。」
「ごめん、でも、元気だよ。ぴんぴんしてる。って、また大きくなった?」
「ん?どうかな?でも、兄さんは縮んだ?」
「お、お前が大きくなったから、そう見えるだけだ!!」
たわいもない兄弟げんかをしている。
“鷹”はその様子をやさしいまなざしで見ている。
彼の幸福な空気はこうやってできたのだと、うれしく思った。
「ジャクリーンは?」
「別の仕事だよ。一緒に来るってうるさかったけどね。」
「てか、なんでいるんだよ。」
「ん?僕も前々から誘われてはいたんだよ。」
兄の威厳というものはこの兄弟には無く、弟の膝の上にまたがっている彼は小さな子供のようだ。
「マスタング氏が前回から参加してるって聞いてね。もしかしたら兄さんにあえるかもって。」
匿名参加という割には、それなりに参加者の漏洩はしているようだった。
まあ、ほぼ全員名前を一致させようとしたら、簡単にできる。
「兄思いの弟で、兄ちゃんはうれしいよ。」
「はいはい、いい加減降りて、重いから。」
「ああ、ごめん。」
彼は私を振り返り、恥ずかしそうな、うれしそうな顔を見せた。


なんでもない会話。
4人…ほぼ3人だが、会話を弾ませる。
「その時に脊髄をやられてしまって…、こんな感じです。」
狡猾な感じのする少年だと思った。
頭は兄の数倍は切れる。
天才の域を超えているだろう。
「兄さんがかばってくれなかったら、父さんみたいに全身吹っ飛んでたね。」
いやに明るく語るその姿に、なぜか心が痛んだ。
「マスタングさん、いい人みたいで良かった。もうすぐ3ヶ月の契約が切れるね。次の仕事用意しておくからね。」
そうか、私を敬遠しているのだ。
「あ、アル、オレ、多分、更新になると思う。」
チラッと私を見る彼は青ざめて、不安げだ。
私は小さくうなづいてやった。
「そうなんだ。」
空気が凍るのを感じた。
「アル、でも、3日くらい休みがもらえるし、1度帰れるから。」
「いいよ。無理しなくて。兄さんの荷物全部そっちに送ってあげるから。安心して。」
こ、恐い…。
何に対して怒っているんだ?
「マスタングさん、無理してません?役に立ってます?」
「彼は、とてもよく働いてくれてますよ。」
「そうですか。それはよかった。」
そうか、心配なんだ。
心配で、目の届く位置に置いておきたいんだ。
どこの馬の骨とも分からない私の元で、いつ何が起こるかわからない状況が恐いんだ。
もう、誰も失いたくないんだ。
ああ、彼は私と一緒か。


「ごめんな、なんか、アル、機嫌悪くて。」
部屋に戻ってきた私たちは、相変わらず、ソファーとその肘掛けに座っていた。
私は小さく笑い、彼の頭を抱えた。
「君のことをとても心配してるのだろう。」
「過保護って言うか、アルのほうが兄みたいでさ。」
「私にもそう見えた。」
「いや、いっつもああやって、くっついたり、してる訳じゃなくて、今日は、たまたま、久々に会ったから。」
真っ赤な顔をして弁解をする。
可愛いしぐさに思わず口付けた。
「私にも同じように甘えればいい。」
そう言って、私はソファーに座りなおし、膝をたたいた。
彼の顔が見る間に赤くなる。
「おいで。」
そういうと、ゆっくり立ち上がり、私の前に立つ。
「お、お邪魔、します。」
とは言ったものの、動こうとしない彼を抱え上げ、膝の上にのせた。
暴れるかなと思いきや、いつになく大人しい。
腰に手を回し、彼が落ちないようにする。
「あ、あのさ。」
小さな彼は顔を下に向けている。
表情は見えない。
蜂蜜色の髪の毛がさらりと流れる。
「なんだい?」
「オレ、契約更新でいいんだ…が、…いって。」
頭の上にあごをのせようとした私は、思い切り顔を上げた彼に頭突きを食らわされた。
「………〜ッ…。」
「ご、ごめん!」
あごを押さえる私はなんとも情けない。
「あ、ごめん、ごめんなさい。」
「だ、大丈夫だよ。」
あごと頭を抑える私たちは互いに笑いあった。
そして、口付けを交わした。
「できれば、永久に私のBGでいてもらいたい。」
「ずっと守ってやるよ。」
そう言って、きつく抱きしめあった。


アルフォンス君には悪いが、彼を手放す気は更々ない。
彼が私から離れていかないためにはどうしたらいいのか。
彼を閉じ込めてしまいたいと、恐ろしい妄想に駆られた。


その夜の夢もまた、あの森。
私はその森で地面を掘っていた。
ずっと、ずっと掘っていた。
何かを埋めるために、いや、隠すために掘っていた。
何かはわからなかったが、とても大切なものだった。


爆発音で目を覚ます。


「あんたは、とりあえず、着替えて荷物を纏めとけ。」
いつもの気だるい寝起きとは違い、彼は既に覚醒していた。
屋敷中にけたたましく鳴る警報機の音。
耳が痛かった。
彼は自室に戻っていった。
ものの30秒、彼は制服に着替えて戻ってきた。
私は、まだシャツを着ている途中。
「いいか、そのまま聞け。爆発があったのは1階の食道付近。」
私はいそいそと着替える。
今の間にどこからそんな情報を得たのか。
「崩れることは多分ないから、このまま屋上のヘリポートへ行く。」
ようやっとジャケットを羽織る。
「爆破の規模から行っても、大きくないはずだ。」
荷物は彼の進言で、常に纏めてある。


まだ半分寝ている頭で、現状を把握しようとする。
とりあえず、今私は彼に手を引かれ屋上に向かっていた。
仮面はしっかり装着。
この場合、全員ということも考えられるが、特定の人物とも考えられた。
ヘリポートは既に参加者がまばらに集まっていた。
ヘリはいつでも発進できると準備は終わっていた。
着た順に支配人が謝罪を述べ、次々にヘリに乗せていた。
私が着てから2つ目のヘリが飛び立った頃、また爆発音。
彼は、挙動不審状態で、キョロキョロしている。
弟の姿が見えないからだろう。
「弟を連れに戻ってもいいぞ。」
私は彼に叫んだ。
彼は目を見開いて、首を横に振った。
「“鷹”ついてるから。大丈夫。」
そういった彼は大丈夫そうではなかった。
ヘリに乗り込む順番がまわってきた。
しかし、私は乗り込んだ彼を下に落とした。
(ヘリは既にすこし浮かんだ状態で乗り込んでいるから。)
しりもちをついて呆気にとられる彼。
「弟と一緒に無事に帰って来い。」
そう叫ぶと、私は彼を置き去りにし、一人島を離れた。


私がいれば、足手まといなのだ。
もしこのヘリが爆破されても、それは私の運命だ。


無事に屋敷に着いたとき、執事が迎えに出ていた。
執事の顔は青ざめている。
「ぼっちゃま…」
「無事戻った。」
しかし、彼はいない。
状況を軽く説明して、彼に非はないとしつこく言うと、あきれ返った溜息を吐かれた。
「わかっております。」


わたしは、彼が戻ってくると信じていたし、彼は死なないと信じていた。


しかし、既に3日が経った。


事件の全貌はこうだ。
参加者の一人のBGが実は暗殺者で、暗殺を試みたが、失敗したと。
屋敷はヘリが全機無事に飛び立つと同時に崩壊したらしい。
アルフォンス君は私が飛び立ったすぐ後に到着したらしい。
彼は入れ違いに屋敷に戻っていたのかもしれない。
アルフォンス君は激怒し、私を罵った。
当然だった。
捜索隊を編成し、島をしらみつぶしに捜索させた。
犯人の遺体しか見つからなかった。
彼はいったいどこに行ったのだろうか。
もしかしたら、どこかのヘリに一緒に乗り込んだのだろうか。
私は気が狂いそうになった。


そして、1週間が過ぎた。


私は気が狂う思いだった。
屋敷中がそわそわとしている。
もう、1週間なのだ。
生きてはいないと誰もが確信していた。
手につかない仕事は、見事に山のようになっていた。
私は、何度と無く頭を打ち抜こうと拳銃を用意した。
しかし、彼が生きていると信じたかった私はそれすらかなわず、ただ、心を荒立てているしかなかった。


私は、執事の反対を押し切り、単身彼の会社に向かった。


大きな簡素な部屋。
大きな机の後で一人の少年が、しきりに書類に目を通している。
こちらを見ようともしないその顔は笑顔だ。
「何をしに来たんですか?」
「謝罪しに来た。」
「何を?」
「エドワード・エルリックのことについてだ。」
「社員の任務中の死亡はよくあることです。雇い主の命は助かっている。」
「彼を…」
「たかが、社員一人の死亡ぐらいで、僕は動きません。労災も降りますしね。」
「だが…」
ついさっきまで笑顔だった顔が、般若面のように変る。
「殺されたいんですか?僕はあなたが憎い。ただ一人の肉親を殺した。」
私は頭を下げるしかない。
暫くの沈黙が続く。
「誰か良いBGを探しましょうか?たくさん居ますよ。うちは優秀ぞろいだ。」
拒絶拒絶拒絶。
顔を上げると笑顔に戻っている。
「あなたとお話しすることは何もない。」
そう言うと、奥の部屋に入っていた。
私はただ立ち尽くした。
「下まで、お送りします。」
“鷹”に連れられ、出口へ向かった。
何も語られないその唇は固く結ばれていた。


運転手が駆けてくるのが見えた。
何が起こったのかと危惧したが、その顔はそれとは違った。
「ご主人様、金猫が見つかったそうです!」
私は安堵と共にその場に崩れてしまった。
「生きてます!無事です!」
隣で“鷹”は報告してきますと、口元を緩め駆けていった。


ああ、良かった。
本当に良かった。


屋敷に戻るが、その姿は無かった。
「ただ今、漁村にて保護されたようです。」
執事があわただしく報告する。
彼の顔もまた安堵に満ちている。
運転手にすぐに迎えに行ってやるようにと指示を出した。
流石に、私はもう出してもらえないだろうと思ったからだ。
「ご安心下さい。」
執事は私に言った。
その言葉は何よりも安心した。


16時間後、彼は屋敷に戻ってきた。
真っ黒に日焼けした顔は生気が薄れていたが、それでも軽い口をたたけるほどだった。
「1週間も漂流しちまったよ。」
こけた顔は満面の笑みだ。
私は彼を抱きしめる。
ふらふらと、運転手に支えられていた彼を抱えあげる。
恥ずかしげに笑う顔に、私は安堵した。
待っていたかというばかりに、屋敷の使用人全員で迎えた。
みんな笑っている。
ああ、良かった。
無事で、生きていて、本当に良かった。


「あの後さ、アルを見かけてヘリポートに戻ろうとしたんだけど、手榴弾持ったバカが、ヘリポートに向かおうとしててさ」
勇者が冒険を語るかのように嬉々として語る。
「攻防の末、どうにか阻止したはいいけれど、その後へリポートに行ったら誰も居ないんだもん。」
あははと高らかに笑う。
「なんか、起爆装置とかも仕込んでたらしく、解体するまもなく爆発してさ。」
彼の部屋のベッドの上で彼は寝かされている。
むろん、本人は大丈夫だと言い張ったが、それでも心配は心配なのだ。
「仕方がないから、海にダイブだよ。でも、オレオートメイルでさ。爆破で一緒に飛んで来た板に掴まって漂流。」
突然真剣な顔になる。
肩が震えている。その瞳は潤み、今にでも大粒の涙を流しそうだった。
「死ぬかと思ったら、あんたの顔が浮かんだ。アルじゃなくて、あんただ。」
小さな手で私にしがみつく。
「あんたに会いたい一心で、生きてた。」
声がだんだん嗚咽交じりになってくる。
「恐かった。恐かった。死ぬかと…あんたにもう、会えないかと思うと、恐かった。」
涙で濡れたその顔を優しく拭う。
「生きててよかった。本当に。」
私は彼を抱きしめた。
強く抱きしめた。


「でも、あの時置いてかれて正解だったと思うよ。こうして生きてるから言えるけどさ。」
「ははは、君は見事に各国の要人を守りきったんだったね。」
「そうそう。あのままだと、アルが乗り込む前に大変なことになってたかも。」
「そうだね、」
「でも、よく考えてみると、腕利きが集まってたわけだし、どうだったかなと…」
落ち込む彼に、私は笑顔を返す。
彼もつられて笑った。
「明日にでも、アルフォンス君に元気な姿を見せておいで。オートメイルの整備もあるだろう?」
「うん。」
潮でぼろぼろになった髪、日に焼けてこけた顔。
腕と足は、海水のお陰でほとんど動かないようだ。
栄養失調の彼は医師の判断から点滴だ。
お腹がすいたと暴君を言っているが、仕方がない。


報告によると、彼は板の上で死んでいるかと思ったと漁船の乗組員が言っていたとのことだ。
何枚かあわせられた板の上で、それに身体を巻きつけた状態で発見された。
気を失っていたとのことで、死体と間違われても不思議ではなかった。
目を覚ました彼は、連絡コードと自身のコードネームをしきりにつぶやいていたという。


眠る彼の額に口付けをし、自室に戻った。
彼が生きていたという安堵感で、私はいっぱいだった。
「これで、お仕事もはかどられますかね?」
執事が小粋にウインクをした。
書類の山を見て、うんざりしたが、ペンを握る手が軽かった。


彼がいなければ、私は生きていけないという恐怖を覚え寝付けなかったため、私は仕事に没頭した。









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2007/04/11up

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