まあ、何と言うか。
なんだ?
オレ、あいつが好きなんだと自覚したわけで…
幸せすぎた。


弟との再会はそりゃうれしかった。
会いたかったけど、ここの暮らしに慣れすぎいたので、連絡というものをすっかり忘れていた。
(なんたって、喧嘩別れしてきた手前、電話しずらい現状があったんだ!)
リザねぇに会った時に一抹の不安は覚えたんだ。
もしかしてって。
リザねぇがBGに付くなんて、珍しいこの上なかったしね。
しかも、なんか企んだ顔もしてたし。


漂流中アイツのことしか考えられなかった。
薄らぐ意識の中でアイツのことばかり考えていた。
心配してるんだろうなとか。
あいつの顔ばかり浮かんでいた。


夢を見ていた。
泥の中に沈んでしまったオレ。
泥の中は少し冷たくて、生暖かくて、まどろみのようだった。
遠くで誰かが呼んでいるんだ。
誰なのかは覚えていない。
誰でもなかったのかもしれない。
誰かがオレの手を掴んで引き上げたところで目が覚めた。
そこは漁船だった。


正直漂流3日目まで位は記憶があったが、それ以降はまったくと言っていいほど無かった。
変なところに流されなくて良かったという安堵と、あいつに合えるという喜びで踊りだしたいくらいだった。
しかし、オートメイルは軋んでほとんど動かない。
身体も、脱水症状と、栄養失調などなどと、最悪な状況だ。
幸い怪我もなかったのだが、心配性のあいつは、オレを暫くベッドに縛り付けていた。










黒猫の用心棒

教訓7〜そうですね。ふかふかの毛布に包まれて寝るのは本当に最高です。〜











車いすが用意され、オレは重病人といった風だった。
無用なオートメイルはただ邪魔なだけなので、取り外していた。
右手はないし、左足もない。
なんとも頼りないBGだと自嘲した。


オレは久々に家に帰った。
弟は立てない足で崩れるようにオレにすがってきた。
「良かった。」
知らせは来ているだろうが、顔を見るまで安心できなかったようだ。
10日前に会ったはずなのに、いやに懐かしかった。
「少し痩せたか?」
「誰かさんが心配をかけるからね。」
兄弟の感動の再会もつかの間、大きな足音と共に壊れるかと思えるくらいの大きな音を立てて扉が開いた。


「たいしょぉぉぉぉー!!!!」
大男がやってきて俺を抱きしめる。
汗臭い。
無精ひげが顔に刺さる。
「ジャン、痛いって…」
アルは笑っている。
こういうのは久々で、始終顔が緩みっぱなしだ。
「リザねぇは?」
「仕事。夕方には帰ってくるよ。」
「そうかぁ。」
ジャンはアルを車いすに乗せると、俺を抱えあげた。
「今から、ロックベルさんとこ行くんだろ?連れてってやるよ。」
後で待機していた運転手さんは唖然としている。
(なんたって、車いすなので、押してきてもらったのです。)
顔と体勢を整えて、かしこまる姿に笑ってしまった。
「明日の夕方お迎えに上がります。」
一応、1泊2日。
オートメイルの整備ぐらいならこれくらいで済むだろうと高をくくっていた。
「整備に時間が掛かるようだったら、連絡します。」
オレ達3人に軽く会釈をし、後にした。
「さて、行きますか。」
軽々と抱えあげられたまま、3人でウィンリィの店に行った。
ジャンは、オレを肩に担ぎ、オートメイルの入った鞄を軽々と持った。


はじめはスパナ、次はネジと、凶器が次々に投げられた。
ジャンがうまくよけてくれたお陰で、当たらずにすんだ。
顔は怒っているのか笑っているのかよくわからない。
よかったぁと、診察台に座らされた俺を抱きしめた。
機械油の匂いと、女の子特有の甘い香りは、もうオレをドキドキとはさせてくれなかった。
「ほっんとうに、心配したんだからね!」
「ごめん。」
軽くスパナで殴られる。
オレはわざとらしく痛がると、4人で大笑いした。
笑った顔は本当にかわいらしかったけれど、心臓が高鳴ることは無かった。
「せっかくの金髪が台無しね。」
そういってひとつに纏め上げた髪で、遊んでいる。
「切ってあげようか。このまま伸ばすわけには行かないでしょ?」
オレは少しだけ躊躇ったが、これからまた伸ばせば良いと了承した。
あいつはオレの長い髪が好きだと言ったから。
せっかくなら綺麗に伸ばしたい。
ひとしきり会話をすると、アルのところへ向かい、痩せた?と話している。
「馬鹿な兄が心配ばかりかけるからね。」
そう言って、アルとウィンリィはお互いの頬にキスをした。
「もう、エド、心配かけるんじゃないわよ!」
そう言って彼女はオレの知らない顔をして笑った。


急に遠くへ行ってしまったような気がした。
オレの知らない2ヶ月ちょっとが二人の間にはあった。
「まず、エドに報告。」
顔を赤らめたウィンリィが、こちらを向きなおし腰に手を当てている。
二人で顔を見合って、顔をくしゃくしゃにしている。
「言わなくても、わかった。」
二人は幸せそうだった。
オレも、その幸せな空気に包まれた。
あきれ半分で口を出すと、ウィンリィはふくれっ面になる。
「ふふふ。もう、アルは私のものよ。」
そう言ってアルを抱きしめる。
アルも照れくさそうに笑っている。
「幸せに免じて、オートメイルの修理は文句、言わないわ。」
その幸せをオレは知っていた。
オレも現在進行形で幸せ真っ只中だ。


まずはつなぎ目をと、どんどん解体していく。
今まで好きな女の子の前でよくパンツ1枚の姿で平気でいたなと思うと、急に恥ずかしくなった。
「何、赤くなってんのよ。今更恥ずかしがることもないでしょ。」
ウィンリィは不思議そうな顔を見せている。
そして、内部に入った潮を取り除いていった。
「あちゃー、こりゃ新調しないと駄目かも。」
「明日の夕方までになんとかなる?」
「無理。」
間髪いれずに返答。
「全部を新調!わかる?神経も全部つなぎかえるの。腐るわよ。」
腐るわよの台詞にオレはたじろいだ。
1度、メンテナンスをサボって腐らせたことがある。
あの時は、こっぴどく怒られたし、痛い思いをした。
「どれくらい?」
「1週間は掛かるわねぇ。」
気が遠のくのを感じた。
おずおずと、電話を借りた。
執事さんにつなぐと、さようでございますかと淡白な返答が返ってきた。
ご主人様にお繋ぎしましょうかと言われたが、なんとなくやめた。
この時間は仕事に集中している時間だ。


明日、朝一で手術よというウィンリィの声が頭の中でワンワンと響いた。
あれは本当に痛いんだ。


その夜は宴会。
仮の義手・義足を貸してもらい、仮だが5体満足となった。
リザねぇもにこやかに楽しんでいる。
口々に無事で何よりと言っている。
「もう、この10日間、アルさん恐かったんだからぁ。」
ジャンがオレに泣きつく。
オレはよしよしと大きな体をなだめた。
「兄さんは本当に馬鹿なんだから。」
「バカとは何だ!オレは見事各国の要人を守りきったんだぞ!」
「あー、はいはい。」
あきれている弟に向かって何度となく武勇伝を語る。


久々の自分の部屋は、閑散としていた。
何と言っても、ほとんど持ち出しているしね。
半分寝かけたところで、リザさんが訪ねてきた。


「エドワード君。聞きづらいんだけど、…。」
「なに?」
「マスタング氏と恋人同士なの?」
「な、ななんなにな言ってんだよ。」
「そうなのね。」
オレの周りはジャン以外みんなエスパーだ。
「あの時、少しだけ気になったのよ。」
「お、オレ、…。」
「そういうことを咎めてるわけではないのよ。素敵な人だと私も思ったし。」
「う、うん。」
「一応、主従関係ってあるじゃない?だからよ。そういう関係になったら、相手だってエドワード君を守ろうとするんじゃない?」
確かにそうだ。
あいつはオレのことを一番に考える節がある。
今回の事だってそうだ。
「でも、主人を何があっても守るのがわたし達の仕事なの。」
でも、あいつにはオレが必要なんだ。
俺がいないと駄目なんだ。
「最悪の事態を招かないように。ね。反対はしないわ。エドワード君今、優しい顔をしてるもの。」
くすくすと笑い頭をなでられる。
「お、オレ、あいつを守りたいって、真剣に思ってるんだ。」
「アルフォンス君もね、エドワード君がいなくなってから暫く落ち込んでたんだけど、ウィンリィちゃんがいてくれてね。」
「だから、か。」
アルから、殺伐とした空気が抜けていたのはそのためだったのか。
「だから、みんなが幸せでいてくれて、わたしもうれしいのよ。」
笑う彼女はとても綺麗だと思う。
湖の女神様はこんな顔をしていた気がした。


頭をなでられて、おやすみとおでこにひとつキスをもらった。
もし、母さんが生きていたのなら、こうしてくれたのだろうか。
「ありがとう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」


助けてくれたのは湖の女神だった。
負けては駄目よと、オレを引き上げた。
湖で身体を清めたオレは、女神にお礼を言った。
女神は悲しげな顔をして笑うと、水密灯をひとつオレに手渡した。
足りないない、だけど、見つかるわ。
そういって月の光に融けていった。
オレは歩き出した。
足元はもう、暗くない。


全身麻酔をしたオレの身体は深く眠った。
激痛で目を覚ますまで、オレは森の中をさまよっていた。


「いってー!!」
「うるさい。」
暴れないようにとしっかり身体はベッドに固定されている。
この手術の痛みは本当に最悪だ。
点滴とつながれたオレの身体には弟の血が入ってきている。
その弟は、青い顔をして隣で寝ている。
「アルが起きたら御礼言いなさいよ。」
「わかった」
オレとアルは特殊な血液型らしい。
とは言っても、ごくまれにしか生まれない程度だ。
父の家系は高い確率でこの血液型だったらしい。
が、今はアルとオレしかいない。
貧血の頭を持ち上げて、出された痛み止めを飲む。
「身長が少し伸びてるみたいね。」
「まじで!?」
「まじ。1.5センチほどね。」
微々たるものだが、それでもオレにとってはうれしい限りだ。
「はいはい。暴れない。」
右腕と左足から伸びている管からはおかしな色の液体が混ざりつつ血が排出されている。
「腐ってたとは言わないけど、結構膿が溜まってたわよ。アルには悪いけど、もう400もらうかな?」
それより、痛くなかったの?と問われた。
確かに多少は痛みがあったが、気にするほどではなかった。


アルはフラフラする身体で、仕事があると帰っていった。
計800ml。
あの細い身体から搾り出させてしまった。
申し訳ない。


夕方には腕と足から管が抜け、輸血の血液だけになっていた。
「アルより酷い貧血だからね!」
と釘を刺されていたので、おとなしく増血剤を注射されて寝ていた。
寝しなにあいつのことが頭をよぎった。
仕事をしてるだろうか、無駄に心配してないだろうか。


目を覚ますと、隣には見たことのある顔があった。
おかしい。
まだ夢を見てるのだろうか。
頭を優しくなでられる。
オレはまた睡魔に誘われた。


「やっと、起きた。微調整するから、はめてみて。」
「ああ、…。」
「どうしたの?」
「誰か来た?」
「んにゃ、来てないわよ。」
「そうかぁ。」
オレは深く息をついて起き上がった。
痛みもだいぶ引いていた。
恋しいのはオレの方だ。
あいつに会いたかった。
次ぎ会ったら、もう二度と離れたくない。
抱きしめて欲しい。


腕をはめても、暫く痛みで感覚がない。
微調整が一番時間が掛かる。
動かせるぐらいに痛みが引くと、腕を回したり、指を動かしたりする。
今回のはいつものより軽いようだ。
「あったりまえよ。私を誰だと思ってるのよ。ウィンリィ様よ!」
工具を構えてカッコつけている。
「今回は軽めのにしてみました。身長も伸びてるようだしね。」
「サンきゅ、ウィンリィさ・ま。」
「何よ、気持ち悪いわね。」
へへへと笑う俺にウィンリィもつられて笑った。


休憩がてらにと、ウィンリィはオレの髪を切った。
酷く痛んでいる毛先を重点的にだ。
といっても、ほとんどアルと同じくらいの長さになってしまった。
「本当は、坊主でもいいくらいよ。」
そう言って、意地悪そうに笑った。
腰まであと少しだったオレの髪の毛は、見事に短くなっていた。
驚くかな?
「私のトリートメントを貸してあげるから、しっかりお手入れしなさいよ。」
そうしてここにい在る間中、オレはウィンリィ監修の元、髪のお手入れに勤しんだ。


本当に丸1週間掛かった。
手術の次の日、オレは熱を出した。
仕方がない。と言えば仕方がないが…。
微調整も時間が掛かり、オレが熱を出したせいもあって、ウィンリィには無理をさせた。
「まぁ、あんたの体調考えずに、1週間って言った私も悪いからね。」
大あくびをしながら、謝罪をするオレに応える。
オレはすっかり元通りになった身体をぞんぶんに動かす。
「調子が悪かったら、すぐに来なさいよ。」
そう言って、オレを追い出すようにして見送った。
「いいね。兄さんはなんか元気で。」
いまだ貧血気味の弟はフラフラしている。
血の気がないと、ここ最近鉄分豊富なものばかり食べさせられている。
オレも暫くはほうれん草とレバーの炒め物はこりごりだ。


その間、オレは例の研究の成果を報告したりしていた。
あいつの前で連絡をとっても良かったのだが、先方がいい顔をするものではなかったからだ。
もうすぐ完成すると伝えると、お待ちしておりますという声と、その後で歓喜に満ちた声が聞こえいた。
オレは完成間近の途中経過をメールで送った。
天才だと絶賛する彼らの声にオレは照れていた。
身体の調子も良くなりつつあり、浮かれていた。


日がかげていく空を見ながら、屋敷に向かう車の中でうとうととしていた。
早くあいつに会いたかった。
会って抱きしめて欲しかった。
空を抱きしめて、寂しい思いをする日々は終わりだ。
一人では寂しくて寝れなくて、困ってるかなと俺は声を立てずに笑った。
オレは、かろうじて寝れた。
というか、疲労と薬のせいだ。
後何秒で会えるだろうか。
時を数えながら、睡魔に誘われた。


「もうすぐ着きますよ。」
運転手が笑いながらオレを起こす。
よだれを垂らした口を急いで拭く。
照れ笑いをすると、運転手もバックミラーの中で笑っていた。


屋敷に着く。
扉を開けると真っ暗。
確かにもう、夜もふけているが寝るには早い。
すると、お帰りと言う大勢の声とともに、明かりがついた。
と、驚いていると、後から抱え上げられた。
「お帰り。私の金猫。」
ただいまと、思い切り抱きついた。
いろんな方向からお帰りが飛んでくる。
オレは一人ずつには返せないので、大きな声でただいまと言った。
上機嫌でオレを抱えているこいつは、恥ずかしげも無くオレにキスした。
もう、公然となっているとでも言いたげだったが、オレは恥ずかしくて、暴れた。
しかし、降ろす気はちっともないらしい。
使用人たちは、黄色い声を上げている。
ああ、恥ずかしい。
そのままオレを抱えて食堂へ向かった。
「髪を切ってしまったんだね。」
残念そうな顔をする。
「あの髪のままじゃ、流石に伸ばせねぇもん。」
「それもそうだね。」
「今度は、あんたのためだけに伸ばすよ。」
耳元で、そう囁くとあいつははにかみながら笑った。
オレ、帰ってきたんだ。
そう思うと、胸がいっぱいになった。


食堂へつくと、見事なパーティー会場と変貌していた。
そこにはおいしそうな料理の数々と、大量のお酒が所狭しと並べられていた。
「さて、快気祝いといこうか。本日は無礼講だ。好きに騒いでくれ。」
そう言うと、辺りはお酒の匂いに満ちた。
シャンパンが開けられ、それぞれに振舞われる。
ひとしきりその様子を見届けて、やっとオレを降ろしてくれた。
すると、執事さんがグラスとシャンパンを持ってやってきた。
「お加減はもうよろしいですか?」
「大丈夫です。」
オレは大袈裟に身体を動かした。
「それは、よかった。」
優しい笑顔の執事さんにオレは安心した。
怒られるのではないかと少しだけ心配していたからだ。
オレとあいつにグラスを渡し、それにシャンパンを注いでいく。
耳打ちで、「お一人では、よく眠れなかったようですよ。」と。
そして、ウインクをして立ち去った。
隣でバツの悪そうな顔をしている。
オレは、笑った。
あいつも笑った。


「それでは、我が金猫の快復とマスタング家の開放を祝って!」
みんなそれぞれ乾杯と高らかに声を上げている。
オレは隣で(多分青ざめていただろう)グラスを落とした。
歓喜の渦にグラスの割れた音など誰も気づかなかった。
オレは胸倉を掴んで問いただした。
「そのままの意味だよ。みんな自由になれる。執事も娘に会える。」
「なんだったんだよ。この家は、何のために…あんたは閉じ込めていたんだ?」
「私は君に守ってもらおうと決意したんだ。」
「は??」
「何があっても、私を守ってくれ。」
その顔はさっきまでと違って、真剣そのものだった。


「猫!こっちに来て食べろ!」
オレを呼ぶ声に、あいつは行っておいでと小さく言った。
オレは腑に落ちない気持ちを抱えながら、大いに楽しんだ。
みんな笑っている。
みんな幸せそうだ。


最後は庭師のじいさん達が大声で歌っていたまでは記憶がある。
あれ?ここはどこだ?ふわふわする。
頭は重いし、眼はチカチカするのに。
お酒飲んだっけな?ああ、せっかく身長伸びてたのに止まったらどうしよう。
目を開けると、黒い髪がキラキラしていた。
ああ、帰ってきたんだ。
そう思うと、安心してまた眠ってしまった。


いつもの森を歩いてる。
水密灯が足元を照らしているので、怖くないし、大丈夫。
ウィンリィ似の妖精とアル似の妖精が、足りないものは見つかった?と聞いてきた。
まだ見つかってはいないけれど、もう大丈夫な気がした。
すぐ見つかる。気がする?
怖くないから大丈夫。
声の主にももうすぐ逢える。
確信もないのに、そう信じていた。


どんよりと頭は重いし、目がシバシバする。
目をこすりながら洗面所に行き、顔を洗った。
「頭痛い。」
「お酒なんて飲んだら、身長が伸びなくなるよ。」
「うる…せぇ。」
大きな声が出せない。
頭がギンギンする。
いや、ガンガンか?
どちらでもいい。


制服を着ると、いつもの俺がいた。
真新しいオートメイルが鈍い色で光っている。
手を握って開いて…調子は良いようだ。
足も軽く動かす。
軽くなった分、動かしやすくなっていた。


オレは、あいつの部屋に向かった。
事の次第を問いただすためだ。
部屋の前で大きく息を吸った。
ノックをせずに扉を開けた。
「ノックをしたまえ。」
のんびりとした口調でオレを咎める。
オレはそれに対しての反応をしない。
「あんたは、どうする気だ?」
「何のことだね。」
「あんたは、何を隠しているんだ?」
「何も隠してはいないよ。」
オレと目を合わせず、書類を追っている。
「開放ってどういう意味だ?なぜ、今まで閉じ込めておく必要があった。」
書類を一纏めにして脇に置き、肘を突いてオレをまっすぐ見た。
その目は真摯だ。
「私は、君に守ってもらう。だから、それ以上のことは必要ないと判断したんだ。」
「だって、あんたはその姿さえ秘密だって…。」
「そうだとも。大丈夫。誰も殺しはしないよ。」
「あ、あんた…死ぬ気か?」
大笑いをする目の前の男には見覚えがあった。
何処かで遭った。
「違うよ。私は死なないよ。それでは君に守ってもらう意味はないだろう。」
オレは安堵した。
「私は、守ることが疲れたんだ。私の代で、全てを終わらせる。」
「な、何で…。」
「時代が必要としていないからだ。そして、私が必要としていないからだ。」
違う。
違う…!
何かが違う。


「あんた、何自棄になってんだ!」
大声を出したオレの頭は最高潮に痛む。
思わず、後に倒れそうになるが、どうにか踏みとどまる。
「自棄などにはなってないよ。」
困った顔をしてこっちを覗いている。
「だって、…。」
「泣くことはないよ。今私は、自由なんだ。」
オレは泣いてなんかいない。
コレはあんたが流している涙だ!
「ちっともあんた、幸せそうじゃない。」
頭が痛い。
胸も痛い。


「戻りなさい。今、私は仕事中だ。」
冷たい言葉に聞こえた。
オレも仕事中だ。
あんたの言うことにオレは従うしかないんだ。
部屋を後にした。
重い頭でベッドに倒れこむと、吸い込まれるようにして眠っていた。


起きると昼前で、朝食も取っていなかったオレは腹の虫が勢いよく合唱していた。
厨房へ行き、軽い食事をもらった。
それにしても、みんな元気だ。
昨日の跡はどこにも見られず、いつもの空気に戻っている。
オレは部屋に戻り、研究の続きに没頭した。
今は何も考えたくなかった。


疑問点がよぎる。
研究論文の作者なんて気にも留めてはいなかったが、改めて見ると、一人の人物が突出して多い。
“キング・ブラットレイ”
何処かで聞いたことのある名前だった。
オレは駆けた。
この屋敷には使われてない部屋がいくつもあるが、厳重に施錠してある部屋は1つだ。
興味本位で入ったことが1度だけある部屋。
オレは息を切らせていた。
無駄に手に汗をかいている。
心臓も大きく打っている。
鍵なんてなくても、開けられる。
オレは、静に息をし、扉を開けた。
前回入ったときと同じで、埃とカビの匂いがする。
オレは、そこに、その名前の著書が並んでいるのを確認した。
こもった空気の中で、オレは息苦しさを感じた。


研究者が隠したものは、何処にある?


そして合点がいく。
あいつの身体の中だ。
だから、あいつの存在自体が機密だったんだ。
オレはほとんど完成した理論を持って、12時なるのを待った。


「なあ、コレ見たことあるか?」
紙の中で細密に書かれた構造式。
青ざめるその顔は、どこか安堵の色を出していた。
「まさか、こんなに早くコレが再びこの世に現れるとは思っても見なかった。」
君は天才だと揶揄するその姿は、震えている。
「コレの完成形があんたの身体の中にあるんだな。」
「そうだね。私の体のどこかにマイクロチップが埋められているんだよ。」
「コレがなんなのか、あんたは知ってるか?」
「知ってるとも。人が生まれなくなるバイオ兵器。」
オレは、そんなこと気にも留めなかった。
ただ、面白かった、楽しかったのだ。
また、オレは繰り返そうとしていた。
「何のために…。」
「私の身体には、それと、その治療薬の情報が入ったチップが埋められている。」
オレは、自分の首を時分で絞めていたんだ。
これ以上の裏切り行為はない。
こいつが隠そうとしたもの、守ろうとしたものを隣でのうのうと解読していたんだ!
「君がコレを広めようとするなら、私はどうしたらいいんだろうね。」
「どうしよう、オレ、途中経過送っちまった。」
オレは何ということをしてしまったんだ。
既に大詰め、オレが完成させなくとも完成させてしまうだろう。
「大丈夫。安心したまえ。完成しただけでは何もできない。」
「え?」
「とある血液型の特殊な遺伝子情報が必要なんだ。」
「とある血液型。」
なるほど。
オレの中で理論は完成した。
遺伝子の操作情報。
強い優性遺伝子。
「5年前。この血液型の人間は抹殺させた。」
「でも、全員って訳には行かないだろう?」
「まぁ、そうだが、珍しい血液型でね。一族のものしか、しかも男系でしか受け継がれない。」
「あはは、オレのところみ…た…い?」
全身から血の気が引く。
立っていることがやっとのような…
「え?」
「私も、先日知った。」
あんたのそんな辛そうな顔はじめて見た。
なんでそんな顔してんだよ。
オレ、駄目じゃん。
あんたを守るって、幸せにするって言ったのに。


5年前、俺たちはファミリーの集まりに参加していた。
一族で裏の世界にいたオレ達は、年に1度親睦を深めるために食事会が参加していた。
そこであったんだ。
爆破事件。
オレは弟を必死に守った。
親父の身体がバラバラになって吹っ飛ぶのをオレは見た。
そうだ、他の親戚もバラバラになった。
オレの身体も半分バラバラになった。
警護していたほとんどの奴らもバラバラに吹っ飛んだ。
リザねぇとジャンは俺たちを必死に隠し、守った。


「あんたが、あんたが殺させたのか?」
「否定はしない。」
「そうかぁ。」
オレはその場に崩れた。
オレはおかしくもないのに笑った。
自分でもわからなかった。
ただ、名涙を流しながら笑った。


暫く笑ったら、急に何もかもがどうでもよくなった。
「君はそれでも私を守るか?」
その顔は真剣だ。
「守るよ。」
オレは言った。
「守れるのか?」
「守るよ。あんたを愛してる。」
オレは立ち上がり、あいつに向かって駆けた。
そして、机の上のものを蹴散らしながら上った。
「あんたを愛してる。」
オレはあいつのネクタイを掴んでキスをした。
そして、首筋に噛み付いた。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。
何度も何度もキスをした。
動かないこいつをオレはきつく抱きしめた。
「なんでだよ、オレ、あんたが好きだ。」
そして、顔を掴んでキスをした。
しつこく、口腔内を犯した。
「あんたが好きなのに、…あんたが憎い。」
息も切れ切れにオレは口を開く。
何も言ってくれない。
ただ、悲しそうな顔をしてオレを見ている。
「あんたが好きなんだ。」
オレの前に銃が差し出された。
「殺してくれていいよ。私も君を愛している。」
オレはその手から銃を払いのけた。
乾いた音を立てて銃が床に落ちる。
「殺してくれていいんだよ。」
笑うその顔は涙で濡れている。
オレはキスした。
抱きついて、きつく抱きついてキスをした。


「オレは、あんたから離れない。あんたは苦しめばいいんだ。オレを愛してるといいながら、オレに愛されながら苦しめばいいんだ。」
オートメイルが音を立てた。
苦しいのか、嗚咽を漏らしている。
「後悔すればいいんだ。オレと出会ったこと、オレを愛したこと。」
「君を愛している。」
オレ達は互いを求めた。
いつものような甘いものではなく、ただお互いの感情をぶつけ合った。
愛してると愛してると、そう…。


オレは走っていた。
いつの間にか水密灯が無くなっていた。
足りないものが見つかった。
が、それからオレは逃げた。
逃げたんだ。


翌日オレ達は話し合った。
もう、全ての手はずは整っていたらしい。
オレは些細なことだが、研究に関係したものを全て燃やした。


ひとり、また一人、使用人はマスタング家を後にしていった。
オレ達2人だけの生活はあっという間に始まった。
それでも、何人かの使用人は通ってくれている。
全ての仕事の引継ぎを済ませるまで…。
そういうところは尊敬に値する。
誰に不利益になることもあいつはしない。


「エド、母の国へ行こうか。」
オレ達は簡単な荷造りをしていた。
ここを手放すためだ。
もう、大半の事業から手を引いていた。
あと数日もすれば、ただのロイ・マスタングになる。


オレ達は何かを確かめ合うように毎夜身体を重ねた。









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2007/04/11up

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