10歳。
オレは大学に入学した。
12歳。
オレは大学院に入った。
オレは物心ついたときから見る夢がある。
森の中を誰かと手をつないで歩く夢。
ただそれだけ。
でも、とても幸せな夢。
忘れた頃に見る、忘れられない夢。
くろねこ通信※黒猫の用心棒の続きみたいなもの※
第1回 くろねこはきんねこがだいすき
学校は騒然となっていた。
教育実習に来る大学院の学生がなんと15歳の餓鬼だというのだ。
天才児輩出校と世間では呼ばれている我が学院。
珍しくないといえば、珍しくない。
世の中には飛び級というものが存在し、それがまた例外ではなかっただけの話だ。
「エドワード・エルリック。15歳。専攻は生物だそうだ。」
マース・ヒューズ初等部からの腐れ縁。
そして、オレの前の席。
「だから、なんだよ。」
「それがさ、すんごい美人なんだよ。」
「は?男だろ?」
「なんていうか、あれだ。お人形さんみたいな奴。」
人形みたいな餓鬼?
女子のおもちゃになりそうだとオレは笑った。
「今の、グレイシアに聞かれたらどうなるかな?」
オレは意地悪げに悪友に囁く。
こいつは最近、彼女持ちになった。
なんとなく、悔しい。
とは言っても、つい先日まで彼女と呼ばれるものは居た。
それなりにもててはいる。
「勿論、グレイシアのほうが美人さ。あっちはオレのマイエンジェルだもんさ。」
恥ずかしげもなくさらりと言えるこいつに感嘆する。
こういう事がさらりと言えたなら、こうやって別れることもなかったのかもなと、ふと思う。
それにしても、見てみたいものだ。
ヒューズがグレイシアを差し置いて、美人と褒めちぎるなんて。
目からウロコ。
ああ、いるんだな。こういう奴が。
糞餓鬼面しているのに、本当に作り物めいた…人形みたいな雰囲気をかもし出している。
金髪、金目…珍しい瞳だな。
なんか、蜂蜜系の甘い匂いがしそうだ。
睫毛だって、ありえないくらい長い。
くちびるだって何か塗っているように赤い。
「はじめまして、エドワード・エルリックです。大学院で生物を専攻してます。」
女子がキャーキャー黄色い声を上げている。
うるさい。
それでも透る、ハスキーボイスだ。
声変わりは微妙といったところか。
15歳にしては身長も小さい。
対格比の隣にいるアームストロング先生がでかすぎると言う事も、無きにしも非ず?
にしても、“女の子”みたいな顔だな。
後でポニーテールなんかしてるし。玩具必須。ご愁傷様。
「あー、オレ別に教師になりたいとかそんなんじゃなくて、暇つぶしに来ただけなんで、お手柔らかに。」
あ、口は悪し。態度も悪し。
でも、屈強な女子共はそれでも黄色い声を上げ続けている。
「先生!彼女とかいますか?」
おお、勇者。今、この時点で聞くか?15歳の餓鬼に!?
ふてぶてしく答えると思いきや、真っ赤になっている。
この手の話は苦手と見える。
可愛いなどと女子共は黄色い声を更に高くして叫んでいる。
「いない!」
声を振り絞って、真っ赤になって、なんと健無げな。
自体の収集が付かない。
アームストロング先生は多分、予鈴までほって置くつもりのようだ。
傍観者よろしく、にこやかにその様子を見下ろしている。
本日の女子共の収穫
●彼女は居ない。
●好きな人も居ない。
●キスもしたことない。
●このクラスの中にタイプの女子が居る。
●年上は嫌いじゃない。
適度なところで予鈴。
糞餓鬼は女子の波状攻撃で疲れ切っているご様子。
南無阿弥陀仏。
心の中で拝んでおいた。成仏しろよ。
その日はそれきり、姿を見ることはなかった。
次の日も、次の日も。
あれ?
なんでだ?
女子共は怪訝な様子で、アームストロング先生に詰め寄っている。
自分たちが無闇にからかったからなのかと、反省の色ちらほら。
しかし、先生は口を濁すばかりで、何も言わない。
もう、来ないかもなと、女子に向かって思ってみた。
勿論、思うだけ。後が恐い。
だが、次の日は元気よく登校。
「初日に、オレの実験室でトラブル起きちゃって、お騒がせしました。」
照れた口調で頭を深々と下げる。
ヒューズ情報では、今大事な研究の真っ最中なのだが手詰まりを起こしたため、気分転換をするために教育実習に参加しているとのこと。
その研究でトラブルが起こったらしい。
解決したんですか?などと、矢継ぎ早に質問されている。
「一応、解決した。つか、させた。ので、これから、皆さんと一緒に授業を受けることになります。」
そして、また深々と頭を下げた。
そして、顔を上げたときの顔に妙な既視感を覚えた。
俺は小さい頃から妙な夢を時々見ている。
暗い森の中を誰かとずっと歩いている。
でも、とてつもなく幸せな夢なのだ。
その相手は暗くてよく見えないのだが、時々差し込む月明かりに蜂蜜色の長い髪が映るのを覚えている。
何度か俺に笑いかけるのも見たことがある。
それに良く似ていた。
俺は大きく頭を振った、そんな訳はない。
第一彼女は女で…女?
俺より身長が遥かに小さくて、髪が長かったけれど…。
確証がなかった。
スカート履いていたとか、なかったか?
暗くてよく見えなくて、でも月明かりが綺麗で…。
糞餓鬼と目が合った。
ああ、その目だ。
オレはその目を知っている。
HR終了後、アームストロング先生から呼び出しを食らう。
「マスタング君、エルリック先生のお世話を頼みます。」
「………、はい?」
「彼はあの通りですので、穏便に事が運ぶように見守って欲しいのです。」
「は、はぁ。」
「教育実習生とは言っても、基本的には転校生と同じと考えてもらって構いませんし、」
「?」
「彼は、教育課程を取ってないので、体裁上は教育実習生ですが、皆さんと和気藹々楽しんでもらってください。」
含みのある言い方にオレは不安になったが、模範生・優等生のレッテルを貼られているので、しぶしぶ請け負った。
お世話と言っても、一緒の教室で一緒に授業を受ければ良いだけの事だ。
移動教室のときは、迷子にならないように…。
「あの、エルリック先生は?」
「次の時間は、早速移動教室だからって、張り切って出て行きましたよ。」
「ガッテム…。」
この学校は迷子になりやすい。
1年生の遅刻理由でダントツに多いのは迷子だ。
トイレに行っていて、集団の移動に間に合わなかったとなれば大変だ。
地図でもあればいいのだが、来客用の入口にひとつあるだけだ。
オレは廊下を猛ダッシュで走っていた。
メールで連絡を取ると、まだ移動先の教室には来ていないとのこと。
近くにも姿は見えないらしい。
来たらメールをしてくれと、走りながら送った。
器用な自分に感嘆する。
だだっ広い校舎。
せめて、特別教室棟にいることを願った。
ここだけでもかなり入り組んだ作りになっている。
例であげるなら、音楽室。
入口は3つある。その3つとも別々の方向へ繋がっている。
オレの教室から行くならば、1つ目のドアから入るには特別棟に直接行かずに、1学年の教室棟を抜けて、中庭に出る。
中庭を横断して、3段くらいの階段を上る。
上ったところでは左右に階段があり、その右側を登っていく。
上っていく途中に渡り廊下と繋がっている箇所があり、それを渡りきったところが音楽室だ。
2つ目の入口は、特別棟に行き、中央階段を3階まで上がる。
上がりきったところで、左に曲がり、すぐの避難通路から階段を下りる。
降りる途中の合流地点をそのまままっすぐ行ったところが音楽室だ。
3つめは、これが一番正攻法。
2学年の教室棟の2階に行き、それから渡り廊下で特別棟に行く。
ついたところの右に3つ目の教室が音楽室だ。
このように、複雑かつ、意味の判らない仕様になっている。
なので、迷えば、本当にたどり着けないのだ。
手当たり次第探すが、メールも来なければ姿も見えなかった。
当の昔に本鈴は鳴り終わっていた。
入り組んだ特別棟が憎たらしい。
かぼそく叫ぶ声が聞こえる。
下の階だと、階段を下りるが姿が見当たらない。
それもそのはず、中央階段から降りれば、左右の階段から降りたところにはたどり着けないのだ。
軽く舌打ちして、もと来た階段を駆け上る。
左端まで猛ダッシュ。
声は大きく聞こえてくる。
安心半分、呆れ半分で、オレは階段を駆け下りた。
不安な顔をして誰か〜と鳴きそうな声で叫んでいる。
「エルリック先生。」
「あ、マス、マス…。」
「マスタングです。探しましたよ。」
息が切れる。
これだけ走ったのは、去年のマラソン大会以来だ。
「ありがとう。迷っちまった。」
「この学校、迷い易いんです。」
安心した顔を見せる。
本当に可愛いと思う。
糞餓鬼相手に何を思っているんだと、自己突っ込みする。
「あ、ごめん、オレ探して…授業は?」
「大丈夫です。オレ、優秀なんで。」
「ああ、ご、ごめん。」
しょぼくれた顔をしている。
頭を撫でて大丈夫だから、心配し無くていいよなんて優しい言葉をかけたくなる。
でも、こいつは15歳の糞餓鬼だ。
「いいですよ。サボれてラッキーですし。」
オレは行き場の無くなった手をポケットに突っ込んだ。
ただ今の場所、まったくもって移動先とは反対方向。
更に、あと15分足らずで授業は終わる。
このまま戻っても、号令だけに参加するようなものだ。
「今から戻っても中途半端ですし、案内しましょう。」
「そうなのか?」
「あと15分を切りましたし。」
「あ、サボらせちまった。ごめんなさい。」
しおらしい。
「いいですよ。オレ、先生のお世話係になったんで、出席扱いにしてもらいます。」
「せ、世話係?」
「不満でも?」
「いや、動物扱いのようで、癪だ。」
「この学校、複雑でしょ?卒業生はまだしも、教育実習生にはこうやってお世話係がつくんです。」
「確かに、地図見てもわからなかった。」
「でしょ?」
ネーミングに問題があるんだよと、まだふてくされている。
ふくれっ面に指を指すと、プすっと口から息が漏れた。
そして、2人で笑いあう。
屈託無い笑顔を向けられる。
やっぱり、見たことある?
オレは糞餓鬼を連れて校内を回れるところだけ回った。
糞餓鬼、失礼しました。
存外、良い奴だ。
でも、ちょっとだけ、歳の割にはお子様。
「マジ意味わかんねぇ。この学校作った奴の顔殴りたい。」
「慣れるまでの辛抱ですよ。」
「慣れたころには、研究所に戻ってる。」
「そうでした。」
そうか、1ヶ月しかいないんだった。
「なぁ、敬語やめてくんない?名目上先生だが、年下だし。」
「え?いいの?よかった。餓鬼に敬語って正直辛かったんだよね。」
「うーわー、切替早っ!」
終了の合図が校舎内に響く。
「次の授業はHRやった教室。戻るか。」
「オカエリー。迷ってたって?」
「アームストロング先生も、止めればいいのに。」
ケタケタと笑う学友の群れに、先生を連れて入っていく。
ヒューズはケタケタといつまでも笑っている。
「まぁ、オレとしてはサボれてラッキーだったけどね。」
「でも、先生はあの授業を受けたほうが良かったと思うよ。」
さっきの授業は地理。
馬鹿でかい地図なんかを持って歩くのは不便だからということで、毎回特別棟の教室で授業がある。
「なんでだ?」
「この学校の地理って、色んな意味でスゲーんですよ。」
「あ、口で言っても面白くないだろう。」
すぐさま口を挟むヒューズは、地理が大変好きとのこと。
オレとしては、そこまで面白い教科とも思えないが、授業はそれなりに有意義だ。
「次は、来週の火曜日。」
「楽しみにしてていいと思いますよ。」
すっかりなじんでいるように見える。
女子共は、自分たちのテリトリーに入れられなかったことを悔しがっている。
「次の授業は、国語ですよ。教科書とかあります?」
「オレが世話係になった。オレが貸すんだと。」
「へぇ、ロイが。珍しい。」
確かに珍しい。
学校がオレに勉強以外をさせるなんて、本当に珍しい。
オレ的には、模試で1番を取り続けろとか言われる方が楽に思えている。
正直面倒だ。
本鈴。
机が1台増えている。
そこにおずおずと、先生は座った。
見事オレの隣。
1番後で果たしてこのちっさいのは、黒板が見えるのであろうか。
ま、ほとんど遊びに来ているようなものなので、いいのか。
案の定、見えていないらしい。
しきりに身体を左右に振って黒板を見ようとしている。
「別に、ノートとらなくても、いいだろ?」
「郷に入っては郷に従え。」
あっそう。
「後で、ノート見せてやる。だから、大人しくしてろ。」
「あ、ありがとう。」
それから大人しくなった。
授業終了。
「なぁ、この漢字なんて読むんだ?」
「は?」
多分義務教育中に習う漢字だろう。
俺は、聞く耳を疑ったが、本当に読めないらしい。
「これは、“さが”って読むんだ。」
「あ、“せい”じゃなくって、“さが”か。」
「それでよく飛び級なんてできたな。」
「基本、英語とドイツ語なんで。あと、ロシアとラテンと中国も少々。」
「あっそう。」
英語と…。
英語は兎も角、ドイツ語他なんてさっぱり。
「でも、結構偏ってるんだけどな。」
「だろうな。」
多分、専門用語系の難解な漢字は読み書きできるんだろう。
でも、こういう日常的に使う普通の感じはあまり読めないと見えた。
「次は、数学。」
オレはひとつ背伸びをした。
隣で必死こいてノートを写している。
授業開始。
数学は眠い。
本当に眠い。
一つしか答えのない数学。
単純明快。
オレは見事に100点しか取ったことがない。
どうだ?自慢だ!
隣で先生は必死にノートを取っている…?
凄いスピードで教科書の問題を解いている。
超の付く進学校のため、教科書もそこいらの学校より難解だ。
それぞれの章の最後には基本問題・応用問題・難関問題というのがある。
基本的に授業で解くのは応用問題までだ。
極偶にだが、難関問題がテストに出る時もあるが、キチンと授業で説明があったものだ。
で、隣に座っている奴は、この難関問題を片っ端から解いている。
顔は、すこぶる楽しそうである。
ちょうどオレが先日から、詰まっている問題に掛かっていた。
公式を当てはめるまではわかるのだが、どうもそこからどう行くのかがわからなかった。
じっと問題を解く様子を見る。
腹が立つぐらいサラサラと解いていく。
あ、そうか。ここがあれになるんだ。
納得しながらその様子を見る。
へぇ。そういう方法か。盲点だった。
オレの視線に気づいてか、こちらを向く。
「黒板見えねーんだもん。」
「知ってる。その問題で、詰まってたんだよ。ありがとさん。」
「いいえ、どういたしまして。」
「で、そこなんだけどさ、」
「ん?」
「その数字は、ここから出てくるんだよな。」
「ああ、面倒くさいんで、ひとつ式飛ばしてるんだけど、ここがこれになるんだよ。」
「へぇ。で、そこが、これになるんだな。」
「そうそう。最終的にはここに戻るわけだ。」
「ああ、やっとわかった。」
「ここをこうするのって確かに盲点だけどさ、数こなせば結構気づくんじゃね?」
目の前で数学教師が咳払いするのも気づかず、問題に夢中になっていた。
気づいた時にはもう遅く、クラスメイトの注目を浴びつつ、数学教師に激怒された。
「オレ、怒られたの初めて。」
「オレは一昨日怒られた。」
「それは威張るところじゃねぇよ。」
オレ達は意気投合した。
こいつは頭が良い。
会話も普通に成り立つ?
ところどころ日本語が怪しいのは、この際目をつむろう。
そして、ところどころにドイツ語?や英語が混ざるのも目をつむろう。
難関問題なんか、普段解く奴なんかいない。
テストに出ないし、基本、高校レベルじゃないんで。
それを解く天才餓鬼。糞餓鬼改めか。
「ロイ、それで?」
「ああ、面白い奴だって話。」
「あんたが、そうやって誰かのこと話すのはじめてみたわ。」
オレは、幼馴染のリザと一緒に帰宅する。
これは一種のスケープゴート的なものだ。
公然とは言ってないが、彼女彼氏の関係と世間は思っている。
もちろん、今まで付き合った彼女には了解の上である。
こいつの家は意外にお堅いのだ。
実際は、ただのお隣さん。
リザにはちゃんと彼氏がいる。
「今日、これからジャンと会うの。アリバイよろしく。」
「は?今日どこにも行かねぇよ。」
「えー?困る。もう約束しちゃったもの。」
「まず、オレの予定聞いてからにしろよ。」
「こんど何かおごるから。」
いまいちリザに頭が上がらないのは、なんでだろうか。
「さて、どこをふら付くか。」
家に帰り、私服に着替え、リザと遊びに行くと言って出かける。
もちろん、途中までリザと同行。
本日は気合が入っているようだ。
「なに?その気合。」
「そう?ジャン、こういうの好きだから。」
胸のラインが強調された服。
いくら気がなくても、目のやり場に困る。
「へぇ。」
まだ会ったことのないリザの彼氏が、おっぱい星人なんだと思いながら、住宅街を抜けた。
バスに乗って繁華街に赴く。
ここで、リザとはお別れだ。
「9時に公園ね。」
「了解。」
きちんとオレが送り届けて、リザの母親に挨拶すれば任務完了。
まずはゲーセン。
最高点をたたき上げたのもつかの間、先日大差で抜かれてしまった。
リベンジ。
奴の名前は2E。
100円で長時間遊べるパズルゲームは、脳の活性化にも最適だ。
オレはいつもの台に座り100円を入れた。
20分経過。
自己新更新!
心の中でガッツポーズをとりながら、目指す2Eの記録に向かった。
スピードは恐ろしく速い。
一瞬の判断ミスで終わりだ。
「あ、そこ。」
聞き覚えのある声にオレは思わず振り返る。
その瞬間、ゲームオーバーの音が響く。
「あー…」
あと、2389点で2Eの記録を…。
1094276点という自己新を悔しい気持ちで眺めた。
「あ、ごめん。つい…」
「いいよ。」
オレは、出しっぱなしにしていた財布をポケットに突っ込んだ。
「何してんだよ?」
「遊びに来た。」
「ひとりで?」
「お前もひとりだろ?」
これには事情というものが…。
しかし、9時までの恰好の暇つぶしを見つけた。
「先生、9時までオレに付き合って。」
「いいが、先生はヤメロ。」
「あ、」
「エルリックでも、エドワードでも、As You Like It」
「じゃあ、糞餓鬼。」
「は?」
「高尚なこと言う奴は糞餓鬼で結構。」
「意味わっかんね」
「会話の中に突然シェークスピアとか入れてくるような奴は、糞餓鬼で結構。」
怒ると思いきや、笑っている。
あれ?既視感?
「オレも、何するかな?」
オレの顔をジーっと見つめる。
「くろねこ。で、くろ。」
「はい?」
「お前、猫みたいだもん。」
「じゃあ、糞餓鬼改め、きんねこ。」
あれ?言いつつ再度既視感。
「で、きん。」
「なんか、ばぁさん見たいな名前だな。」
「じゃぁ、糞餓鬼。」
「きんでいいです。」
「もういい、普通に呼ぼう。オレはエドって呼ぶから。」
「じゃ、マスで。」
「なんで、そっちなんだよ。」
「じゃあ、タング。」
「意味わっかんね〜。」
オレ達は道の大らいで大笑いした。
腹が減ったということもあり、オレ達はファーストフード店に向かった。
こいつは、見事な大食らい。
ハンバーガーを3つ(違う味)ポテトのLにドリンクL。あとナゲットL。
オレはハンバーガーにサイドメニューをLサイズにしたもの。
「お前、それだけで足りるわけ?」
「充分。」
「オレは、お金がないので、これくらいで抑えてみます。」
「お金があったら?」
「あと、2つバーガー食うかな?」
大食漢。
それで、身長が伸びない理由は何だ?
普段から、こういうのばっかりだからか?
それにしても、不思議な気がした。
見た目女の子。
顔もそうだが、髪型も。
大き目のパーカーからのぞく細い首。
短パンからのぞく足もそうだ。
少年のそれといえば、そうかもしれないが、耽美的な香りが少女に見せている。
「おまえ、それが私服?」
学校では一応スーツっぽいものを着用している。
七五三よろしくお子ちゃまスーツだ。
蝶ネクタイをプレゼントしてやりたくなる。
「これ?弟のコーデネート。」
「弟いるんだ。」
「14歳。年子なんだよ。中学3年生。」
「へぇ。」
「ロイは、一人っ子っぽい。」
「正解。」
単調な会話。
でも、普段クラスメイトとしている会話とは違う気がする。
「弟は普通に中学生?」
「そうそう、あいつ、飛び級嫌がったんだ。でも、それが正解。」
「飛び級のほうが凄ぇ気がするけど。」
「そう見えるだけ、実際は大変だよ。期待と羨望。」
「だろうな。」
「ま、いいんだよ。別々の価値観で生きていけてるし。」
遠い目をする、こいつが妙に艶を纏ったように見えた。
「で、その弟がオレの服のコーデネートをするのが好きなわけだ。」
「その結果がそれか。」
確かに可愛く統一されている。
「今日、あいつは彼女とデートで、オレは一人ふらついているわけだ。」
似たような境遇に、同情した。
「オレも似たようなものだ。」
「いい加減、付き合ってるって公言したらいいんだが、しないんだよ。だから、3人で遊ぶといってオレは一人放置な訳だ。」
呆れた口調でものを言ってはいるが、存外楽しそうだ。
なんだかんだと言って、オレは弾む会話を楽しんでいた。
そして腹ごしらえと、時間までオレ達は街をふらつきながら話した。
「なんで、教育実習なんかにきたんだ?」
「ん?気分転換?」
「名目上は、だろ?」
「あはは、ばれてる?」
「もちろん。」
「オレさ、あんたに会いに来たんだよ。」
「は?」
真剣な顔をしてオレを覗き込む。
なぜか心臓が大きく鼓動を打つ。
「なんて言ったら運命的?」
冗談めいた口調だが、その顔は真剣そのものだ。
「……。」
「冗談だって。確かに、あんたを世話係?に指名したのはオレだけどさ。」
「お前か、犯人は。」
「だって、お前、今この国で一番頭がいいんだろ?オレの脳細胞刺激してくれるかなって。」
大きな瞳に車のランプが反射してキラキラ万華鏡のように光る。
口は笑っているのに、目は笑っていなかった。
「刺激って、たかが1番だろ?お前に敵うところなんかないよ。」
「充分刺激になってる。おもしろいよ。」
「そりゃ、どうも。」
「教育実習に来た理由は、同年代と交流すること。」
「じゃあ、中学でも良かったんじゃねぇか。」
「だから、あんたに会いに来たんだって。」
「それは、それは。」
「茶化すなよ。」
顔が次第に赤くなる。
なんとなく、可愛いと思った。
「オレは飛び級したけど、あんたはしてない。だから、会いたかったんだよ。」
頬を染めながら、口を結びながらオレを見上げる。
やっぱり可愛い。そこいらの可愛いと称される女子より可愛い。
仕草もそうだが、言葉の端々に感じれる恥じらい?がオレを高ぶらせる。
「へぇ。で、どうでした?ご感想は。」
「あ、変な奴。」
「おあいこだろ?」
「あと、無駄にかっこいい。」
「はい?」
「迷子になったオレを見つけてくれたとき、うわ、こいつなんかかっこいいと素直に思った。」
「そりゃどうも。」
「あ、お前の名前知らなかったわけじゃないんだぞ!驚いたのと安心したので、うまくしゃべれなかっただけだ!」
「はいはい。」
…あれ?
一生懸命に弁明する姿に思わず頭を撫でてしまった。
見上げる顔も驚きに変っている。
でも、オレのほうが驚いている気がする。
あれ?
そして、妙な既視感。
「あ、あのさ。」
振りほどかれるわけでもない手は、そのまま頭の上で行き場をなくしている。
「な、なに?」
その手は何だといわれるかと思いきや、驚くべき台詞が飛んできた。
「あんた、森の夢、見たことないか?」
「え?」
その瞬間トラックが横を通り過ぎ、爆音と風でオレはこいつを守るようには阻んだ。
あれ?
普通の男友達なら絶対やらない。
むしろ、彼女でも多分腕を引っ張って避けさせるくらいだ。
「み、見たことないならいい。」
突然早歩きで歩き出す。
それでも、オレのコンパスには敵わない。
「エド。」
「な、なんだよ。」
オレは思わず肩を掴んで口を押し付けた。
何やってんだ?
意味がわからない。
第一、こいつは紛れも無く糞餓鬼だ。
「な…、な…。」
真っ赤になった顔が、不安げに見上げる。
あちゃー。
「森の夢、見たことある。隣にいるの、お前だろ。」
見るうちに、ひらかれた目が更に大きくなる。
こいつの顔の半分は目でできていると確信した。
「あんた、なのか?やっぱり…」
「手をつないで、森の中を歩くんだろ?」
「そうだ…よ。」
「どんな、美少女かと思いきや、こんな糞餓鬼かよ。」
きょとんとした顔でオレを見上げる。
なんか、抱きしめたいな。
「糞餓鬼って言うな!」
オレ達は出会った。
出会うべくして出会ったのか。
それが、なんなのか。
残り3週間ちょっと。
これがオレの人生をがらりと変える事件だったら、退屈な毎日から抜け出せる。
そう思いながら、再度、この運命?の糞餓鬼に口づけをした。
ねくすと>>
2007/04/25up
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