大体、ロイ様なんてたまじゃない。
様付けなんて、いらないし、傅く必要性も微塵も感じられない。
でも、こいつはご主人様で、オレは執事だ。
いや、執事にしてはけったいな恰好。
というか、オレは男だし、あいつは何を考えているんだか。
もう、屋敷の奴らは微塵にも疑問を感じていない。
むしろ、外出する時のほうの正装に疑問を持つらしい。
それもおかしいだろう?
三日月輪舞曲〜みかづきろんど〜
月齢:朔
1日の仕事と言えば、朝、朝刊が届く前に起床。
夏場にしろ、冬場にしろ、どちらにせよ明け方前だ。
朝刊が届くまでに身支度をして、各種それが届くのまで待機する。
それが届けばアイロン台を引っ張りだして、1枚1枚アイロンをかける。
あいつの手が黒くならないようにするためだ。
すぐ焦げ付く新聞紙にアイロンをかけるのは、至極緊張する。
全部で7種。
朝食時に、これを驚くべきスピードで目を通していくのだから、うちのご主人はすごいと思う。
まあ、ここで、オレも世間の情報を入手する。
ご主人よりも先にってところで、優越感を感じる。
それが終わる頃には、うっすらと朝日が差す。
あいつの予定を確認して、起床時間を計算する。
『今日は、7時まで寝ててもらっても構わないか。』
ひとつ大あくびをしながら、朝食の時間を、朝も早くから仕込みをしている料理長に伝える。
ここで、オレも朝食を取る。
大抵パンと珈琲。
たまにそれにハムやウインナーやサラダがついてくる。
もそもそと、口に押し込み、珈琲で流し込む。
珈琲は身長が伸びなくなると、コックに言われたこともあるが、頭をスッキリさせて1日を乗り越えるにはこの苦味と芳醇な香りは必須だ。
「苦いのが嫌なら、砂糖でもミルクでも入れればいいだろうに」と料理長は、顔をしかめるオレを怪訝そうな顔をしてのぞく。
さっさと朝食を済まし、ご馳走様と挨拶をして食器を流し台に放り込んだら、その日にご主人が着る服を用意する。
『今日は、ブラウンぐらいが良いかな。』
天気と季節とオレの気分と相談だ。
この春の時期には、ブラウンのこ洒落たスーツが映える。
ネクタイもしっかり吟味し、それに合わせたタイピンを用意するのだ。
別にどこかへ出かける訳でも、来客があるわけでもないが、これがオレのささやか楽しみなのだ。
自分好みに仕立てるとか、そういう理由ではないが、せっかくならオレが見ていて気持ちよくなれるほうが良い。
「ご主人、朝ですよ。」
絶対に一度じゃ起きない。
だから、1度目はカーテンを開けながら、甘ったるい声で起こす。
嫌味、嫌がらせ。そんな感じ。
普段からもう少しやさしく起こしてくれと言われるが、一度目は至極甘く、やさしく起こす。
1度目で素直に起きれば、見事に優しく囁くオレが拝めるのにと、心の中で悪態づく。
でも、2度目からはそうはいかない。
「ご主人、朝だ。早く起きろ。」
まぁ、ここまでは比較的やさしく起こす。
寝起きが至極悪いこのご主人を起こすのは一苦労だ。
まず、布団を引き剥がす。
「起きろ。」
それから、肩を揺らす。
「起きろ〜。」
この辺りから、微動だにしなかった身体が動き出す。
しかし、覚醒まではまだまだ程遠い。
携帯してきた専用のフライパンと木杓子で大きな音を立てる。
使い古したフライパンは、比較的低い音がする。
これを木杓子で力いっぱい叩くと、低重音の耳に障る音の完成だ。
使用人は既に起きている時間なので、遠慮なく叩くのだ。
「ご主人、朝ですよ〜。」
まだまだ起きない。
耳元でこれだけの音が出ているのにもかかわらず、寝続けるこいつに感服する。
毎朝の行事。
大きくため息をついて、ベッドサイドから離れる。
思い切り助走をつけてご主人めがけてダイブする。
「うりゃ!」
昨日1日のこいつに対しての鬱憤は、晴れて綺麗サッパリ消滅し、本日溜まると予想される鬱憤にそなえるのだ!
人から出たとは思えない音を立てて、覚醒する。
鳩尾に一発。
それがこの屋敷の、オレ達の朝だ。
「もう少し、やさしく起こしてくれないか?」
「そういうことを仰られるなら、1度目で起きてくださいませ。」
ネクタイを結びながら、オレは本日2度目の大きなため息をついた。
頭2つ違うこいつとの身長差を恨みながら、毎朝腕がつる思いをしてこの作業をする。
かがんでくれとは言わないが、あくびをしながら上体を反らすのだけはやめてほしい。
「仕方がないではないか。毎夜君の夢を見るのだから、起きたくないのだよ。」
「では、現のわたくしより、夢の中のわたくしのほうがよろしいのですね。」
「い、いや、現の君のほうが良い。」
さっきまでの寝ぼけ眼はどこへやら、切替の早さにオレは驚く。
きりっとした顔を俺に向ける。
「では、どうして、なかなか夢から覚めることができないのでしょうか。」
「朝から、意地の悪いことを言わないでおくれ。」
とたんに顔が崩れる。
こっちの顔のほうが好きだ。
「でしたら、キチンと起きられて、わたくしを楽させてくださいませ。」
と、オレは身支度の全てを終わらせた。
胸元をポンと一つ叩いて、笑顔を向けた。
こいつは、きっとボタンをはめることも、くつ下をはくこともできないだろう。
(段ちになるとか、左右反対にはいてしまうという意味で!)
「エディ。」
「その呼び方は、執務時間内は禁止と言っていたはずですが。」
「エディ。」
小首をかしげて、甘い声でオレを呼ぶ。
これにオレは至極弱い。
「反則だ。」
いくら、オレが困った顔をしようと、お構い無しだ。
オレは、ネクタイを結び終わったままの体勢で、腕の中に包まれた。
肌触りの良いジャケットに頬をすり寄せながら、選んで正解だと心の中でガッツポーズを決めた。
「エディ、昼間の君は有能な私の執事だ。でも、それが疎ましい。月夜の君が恋しいのだよ。わかっておくれ。」
しっとりと濡れた声で囁くこいつは、本当にズルイと思う。
「オレは、執事だよ。これからも変らずな。だから弁えなくちゃいけないんだよ。」
「わかっている。だから、夢から覚めたくないんだ。」
「わかってるんだったら、そのスカートのをたくし上げている手をどうにかしろ。」
この、変態め。
オレは、後に手を回して思い切りつねってやった。
ここまでくれば、オレがどういう恰好をしているかわかるだろう。
そうです。オレはメイド服を着させられている。
ちなみに、他の屋敷のメイドとも違う服であることは言っておかなければならない。
無駄にフリルと装飾の多い、かわいらしい作りだ。
白いタイツは必須。
脱がすのが大変だからと、ガーターベルト着用。
厭にフレアな膝丈スカートの下からは白のレースが覗いている。
更にはツインテールを義務付けられている。
とても機能的とは思えない恰好だが、仕方がないのだ。
そして、朝食を食べさせれば、仕事の監修をする。
この時間が来ればゆっくりとした時間になる。
雑務をちらほら、金勘定から色々と仕事もあるが、ご主人の相手をするよりましだ。
午前中はゆっくりと時間が流れ、大抵の仕事をこの時間内で済ませた。
昼食は定時ではない。
あらかたの仕事が終わるまでは空腹に気づかないこいつは、本日14時過ぎるまで、見事に仕事に集中していた。
毎日がこれならいいのになぁ。
大抵は、11時過ぎる頃にはお腹がすいたと騒ぎ始め、それからはお茶を飲みながら窓の外を眺めてみたり、あほな事をほざいていたりする。
オレが午前中に仕事を済ませてしまいたいと知ってはいるが、それでも邪魔をしてくる。
「なぁ、エドワード。遠乗りに出かけないか?」
「はい?」
「遠乗り用の服を注文したんだよ。それが届いてね。」
そう言って、オレの前に服を広げる。
いたって普通の乗馬用の服に見える。
「こういうストイックな服もたまには良いと思ってね。」
でも、どうみても女物だ。
こいつはオレの性別を勘違いしているのではないかと思うときがある。
「さぁ、着てみたまえ。今すぐ、ここでだ。」
人の着替えを見るのが趣味らしい。
悪趣味。
「かしこまりました。」
着替え方は決まっている。
全部を脱いではいけないらしい。
ちらリズムを大切にしながらオレは着替えた。
(いまだに、こいつの言うちらリズムがわからない。)
まずは、エプロンを脱ぎ、背中のチャックを下ろして、上半身だけ脱ぐ。
こいつ曰く、この脱ぎかけのワンピースが良いそうだ。
だから、このメイド服を何種取り揃えようが、一貫してワンピースだ。
チェックのアイロンのよくかかったシャツに手を伸ばし、それを着込む。
そして、スカートを脱ぐ。
どうも、このシャツにガーターという恰好も好きらしい。
女物のショーツもはかされているため、見た目まんま女の子だ。
結構惨め。
ここからが肝心だ。
ズボンをはくわけだが、このままはく訳には行かないらしい。
白いタイツをガーターベルトから外し、ゆっくりと脱ぐ。
ガーターベルトごと脱ぎたいところだが、それは絶対やってはいけないと強く言われている。
そして、ゆっくりでなければならない!
日に焼けない白い肌が嫌味のようだ。
その様子を真剣な顔で眺めるこいつが疎ましい。
まだ、顔をニヤつかせてもらったほうが着替えやすいと常々思う。
立ったまま脱ぐのは意外に大変で、バランスが悪い。
脱ぎきると、今度はくつ下をはく。
厚めの柔らかい生地だ。
ガーターベルトを脱いで、ズボンをはく。
やっとここで、羞恥の刑から開放される。
サスペンダーをつけ、上着を着込めば、恰好がついた。
「今度は、ご主人の番ですよ。」
「そうだな。去年の秋に作ったのがいいかな?」
「では、お持ちいたします。」
元来こういう仕事は本物のメイドがするものだが、オレのしている恰好を逆手に取って、オレにやらせる。
(自分が無理やりに着せているにも関わらずだ!横暴にも程がある。)
こいつの衣裳部屋はすさまじいものがある。
まぁ、その1画はオレ専用の洋服だが、それでも季節織り交ぜ見事なものだ。
去年の秋辺りに作ったものと思われる付近を眺めてみるが、どうもどれなのか記憶にない。
脱ぎ捨てたままの服が気になったが、オレが畳んで片付けることを許されないため、脱ぎ捨てたままだ。
どうせ、あいつのことだ。
臭いでも嗅いでるに違いない。
乗馬用の服なんてものは、使用頻度も低いため、5分も経たない内に見当がついた。
「多分これかな?」
いそいそと、他の小物類も集めて戻った。
「全裸で待つの止めていただけませんか?」
丁度脱ぎ終わったところらしい。
「失礼な。パンツははいているだろう?」
眩暈がするが、いつものこと。
脱ぎ散らかした服の位置が微妙に変っているので、やはり臭いでも嗅いだのだろう。
そういえば以前、指定の服がなかなか見つからず、遅くなった時なんかは、オレの服を着ようとしていた。
だったら、自分がメイドの恰好でもしたらいいと怒ったら、「君が着てたから、着たかったんだ。」とわけもわからない返答をされた。
勿論、体格が違うため、無理に着ようとしたそれは無残にも肩の部分が破れていたり、生地におかしなシワができていたりと、それは既に着れるものではなくなっていた。
裁縫係が目を見開いて驚き、叱られたが、ご主人の威厳だけは意地でも守った。
(オレって、健気だ。)
「これで、あっていましたか?」
「それだ。よく覚えていたね、うれしいよ。」
なんとも綺麗な笑顔で、オレを見つめる。
やはり、オレはとことんこいつに弱い。
見つかったこと、合っていたことが誇らしく思えてきた。
乗馬と言っても、屋敷の周りを散策しつつ、近隣住民に声を掛け、農作物や工芸品、布の生産状況を世間話のように話すというものだ。
割りとこの近隣の財政状況は安穏としていて、切迫したものがない。
それはひとえに、こいつの手腕がものを言っているからだろう。
それにしても、オレのことを奥様だとか勘違いしている住民が多い。
「奥様、うちの取れたてのいちごをどうぞお食べ下さい。今年はとても綺麗な色が出ました。」
「いえ、わたくしは…」
「エディ、頂きなさい。」
「は、はい。」
こんな調子で、なかなか訂正すらできない状況なのだ。
自分の前にオレを乗せて、更にエディと甘く囁くものだから、勘違いされるのは必死だ。
いちご一つ取ってほおばると、口の中に酸味と甘味が広がる。
後から顔を近づけるしぐさに、思わずいちごを取り、口元へ運んでしまった。
この光景は、仲の良い夫婦のそれに見えるのだろう。
「おいしいな。これなら、街まで持っていってもすぐに売れてしまうな。手配しよう。いつまでなら、用意できるかい?」
コックに言って、売り物にならないいちごをジャムにしてもらおう。
オレは心を躍らせながら、また1ついちごをほおばった。
『じゃじゃ馬な奥様。』
『お高く止まっていない、親近感のある奥様。』
いや、だから奥様じゃないって。
それが、オレに対する住民の評価。
じゃじゃ馬というか、元来男な訳だし。
だいたい、いつの間に呼称が奥様になったのだろうか。
昔は、お嬢様だった。
それがいつの間にやらそうなっていたのだ。
「結婚式はいつでございましょう。この村は、いつでもその話題で持ちきりです。」
「そうだな。まだこの子は若いからね。来年当たりだろうか。」
流石に、15では結婚はよろしくない。
というか、男だし。
結婚しないし。
でも、オレは笑っているしかない。
「なぁ、いい加減。嫁探ししろよ。オレじゃ、跡目は作れねぇし。」
「跡目の心配はしなくて良い。ジャンの子供が継ぐだろうしな。」
ジャン・H・マスタングこいつの弟だ。
似ても似つかない。
そりゃそうだ。母親が違う。
家も別宅。というか、街で暮らしている。
ちなみに、オレにも弟がいる。アルフォンス。
ジャン様の執事をしている。
オレに似て器量良しで、恰好も良い。
閑話休題、複雑なことはわからないが、ジャン様の母親が正式なマスタングの嫁らしい。
で、いまだにこいつの婆さん、爺さんはこいつの母親を認めていない。
こいつの父親、キング・B・マスタングは、オレの親父ホーエンハイム・エルリックと共に5年前に事故死している。
それから、こいつが名目上の跡継ぎになり、当主としてマスタングを仕切っている。
それがおもしろくないのだろう。
婆さんと、爺さんはこの屋敷を出て、慣れない街で暮らしているというわけだ。
あの、意地の悪い糞爺と婆の相手もしなければならない我が弟を不憫に思ったが、それはそれだ。
仕事の内だ。
オレ等兄弟は、悲惨な幼少時代を過ごしている。
執事になるための英才教育。
遊ぶことを知らないオレ達は、見事10になる頃には1人前と父に褒められた。
しかし、それもつかの間だった。
「君意外は眼中に無いよ。」
後から、くすぐったい声で囁く。
一つに纏めた髪の束に顔をうずめながら、囁くこれは不本意だが割りと好きだ。
「はいはい。」
馬に乗るのは好きだ。
流石に一人では乗れないが、こうやって乗るのは楽しい。
風が気持ちいいし、揺れる感覚も好きだ。
木漏れ日の中を走るときは、ここは天国かと思うばかりのキラキラとした日差しを追いかけるのはとても気持ちが良かった。
なにより、こいつはこの時ばかりはオレに気を使う。
落ちないように、しっかりと抱えていてくれる。
腕の中が気持ち良い。
「裏の丘で、一休みして帰ろうか。」
「馬鹿言え、まだ仕事残ってたろ?」
「そうだったかな?」
「そうだよ。」
そう言って、指折り数えながらまだ終えてない仕事を片っ端から言ってのけた。
観念したか、小さくため息をついて、馬を屋敷の方向に向けた。
「有能な執事を持って、大変幸せだよ。」
「嫌味か?」
「いえいえ、滅相もございません。」
月1間隔でこうやって、近隣を見て回る。
先代の残した広大な領地。
これを守るのは容易いことではないし、住民の尊敬を集めることも容易ではない。
本妻の子ではないことは誰もが知っている事実。
でも、こうして愛されているこいつを本当に、尊敬する。
だから、ちょっとやそっとの我侭は聞いてやる。
理不尽なことでも。
まぁ、言ってはやらないがな。
「だから、君はどうしてそんなに堅苦しいんだ。」
「ご主人がキチンと仕事をしていただければ、こんなことは申しません。」
夕食後は、その日に届いた手紙の始末。
夜のうちに書いてもらわなければ、朝一で取りに来る郵便回収員に悪い。
「これだけの数を毎日毎日、読んでは返事を書き、もう飽き飽きだ。」
「文句を言っておられる暇があれば、手を動かしてください。さぁ、あと2通分です。」
サロンの招待状と、恋文が大半を占める。
断るにしろ、受けるにしろ、キチンとした返事を書かなければ後々大変なことになる。
この社交界という世界はいまだ謎めいてはいるが、一見華やかだが、大変陰湿なもので構成されている。
「恋文というものの返事というのは、慣れることはないな。」
「誰か特定の人物でもおありなら、断る理由にもなるでしょうに。」
「君の名前を書くことができないから、困っているのだよ。」
この会話も何度目だろうか。
オレはただの執事だ。
こいつの恋人にはなり得ない。
オレが困った顔をすると、ペンにインクをつけ、黙ってそれを走らせた。
眉目秀麗容姿端麗。
社交界に一歩足を踏み入れれば、振り返らないものはいないだろう。
こいつの母親もとてつもなく綺麗な人だった。
肖像画などは残っていないが、1度だけ見たことがある。
幼いながら美しい人だと感じた。
オレが屋敷に出入りを始めてからすぐに亡くなったので、本当に記憶はおぼろげだ。
いうなれば、先代の妾になる。
2人は相思相愛で、反対を押し切ろうとしたがこの領地を守るため、仕方なくジャン様の母親と結婚したらしい。
ジャン様の母親も、先々代方と一緒に街で暮らしている。
良く考えれば、天涯孤独いいところだ。
オレも、こいつも両親がいない。
でも、一つだけ違うのは、望まれて生まれてきたか、そうではないかだ。
「このご婦人たちも、私の出生を知ったら、手紙を出してくれなくなるのかな?」
こういうときのこいつの顔は酷く辛そうで、また同時にそれを楽しんでいるように見えた。
「縁の切れ目が金の切れ目でございます。ご自身で絶ってどうなさいましょう。」
「ははは。確かに。このご婦人の父親は富豪だし、得意先だ。」
「でしたら、真摯に手紙をお書き下さい。」
オレが女だったら、オレがどこかの令嬢だったらどれだけ良かったことか。
こんな時、酷く思う。
でも、そんなオレをこいつは愛しただろうか。
「もう1通ございます。ジャン様からです。」
この手紙が来ると、いつでも不安げな、そしてうれしそうな顔をする。
兄弟仲は悪くはない。
むしろ良いと言っていい。
ジャン様はこいつを慕っているし、尊敬している。
こいつも、ジャン様をとても大事に思っている。
「来週末辺り、帰って来るらしい。」
オレもそれについては複雑だ。
ジャン様が帰ってくるのはうれしい、なんたって弟にも会える。
問題はそれの付属品だ。
あの人たちが帰ってくると、この屋敷だけじゃなくて領地全体がピリピリする。
難癖をつけるのがお得意と見える彼らは、住民の作るものに対して色々とケチをつけたりする。
此処産の布や工芸品がどれだけ高価な値で取引されているか、あの人たちは知らないんだ!
「君も複雑だろうが、まぁ、1週間程度の滞在だろう。」
笑っているが、どこか乾いている。
嫌味つらみを言われても、笑っていなくてはならない。
ああ、最悪。
この1日の最大にして最悪なイベントを済ませた後は、湯浴みをする。
これから先は、オレ達は主人と執事ではなくなる。
「エディー。脱がして。」
「脱ぐくらい自分でや…って、こっちくんな。」
そのまま覆いかぶさるようにして、オレを壁に追いやる。
半分脱ぎかけのワンピースはだらしなく腕に絡まっている。
それをいいことに、そのままそれを持ち上げられた。
こいつは、こういう変態プレイが大好きだ。
放置、視姦、目隠し、緊縛(こんなゆるい程度)、など!バリエーションは豊富だ。
オレとしては普通ので満足だ。
腕を高々と持ち上げられて、見事に自由を失っている。
もう少し身長があれば、こんなことはさせないのだが、頭二つ分の身長差は大きい。
そのまま、おでこに、耳に、鼻に、頬に、キスを落とす。
「このままじゃ、脱げないし、脱がせられないんだけど。」
「うーん、そうだね。このままするか?」
「馬鹿言え!」
そうは言っても、なすがままなのはいつものこと。
脇元に鼻を突っ込んで臭いを嗅ぐのもいつものこと。
オレは必死の抵抗と、身をもじる。
慣れないし、くすぐったい。
「いい匂い。」
「ホント、変態。」
そのまま、舌先で舐められれば、オレは腰砕け。
立ってなんていられないし、変な声も出てくる。
ああ、こいつに良いように飼い馴らされている自分が恨めしい。
遡ればまだ8つかそれくらいだ。
オレの下着を嗅いでいるコイツを見てしまったところから、こういう関係になってしまっている。
堂々と嗅ぎ、堂々と開き直りやがったこいつの姿はいまだに忘れることができない。
トラウマいいところだ。
意味がわからなくて真っ青になって、とにかく、訳のわからないまま押し倒されたんだ。
いたいけな少年に…全く…。
おかしな性癖を持ったご主人を持つと大変だ。
ま、おかしなところはそれくらいで、あんな劣悪な環境下でここまで真っ直ぐ育ったのだから文句は言えない。
そのまま、下着の中に手を入れられ、まさぐられたならば開始のゴングが鳴る。
もはや誰にも止めることはできない。
まだ理性の残る頭の隅っこでため息を突きながら、この変態の手に身をゆだねた。
「あー、もう、掃除するのが大変なんだから、絨毯の上でそういうことすんのやめろよな。」
「そういうのは、女中に任せればいいだろう?」
「あー、わかってねぇな。こんなゴシップくれてやってどうする。」
「みんな知ってるのに?」
「知っているのと、実際生々しい現場があるのは違うんだ!」
オレは、素っ裸のままというか、思考能力が真っ当になると同時に事態の深刻さに驚いたわけだ。
あたり一面に飛び散ったオレの何にだ。
もう、最悪。
風呂の中なら簡単に掃除できるが、絨毯の上じゃ…。
すぐに拭かなければ染みになるし、こびりついて取れなくなる。
それに、これはこの領地の特産品だ。
作ってくれた人の顔が浮かぶだけ始末が悪い。
「エディ。」
「なんだよ。今忙しい。」
「掃除している側から悪いんだが、君のお尻の穴から垂れてるものがまた更に絨毯に染みが…」
「ばっか、早く言え!」
とりあえず、オレは浴室に急行した。
そこで、中身をがっつり出して軽く下半身を流してタオルを巻いて舞い戻った。
「君のその処理の速さは、敬服に値する。」
オレはそれを無視して、掃除をした。
相手にされないとわかると、大人しく服を脱いで浴室に向かった。
気配が消えると、オレは大きくため息をついて、取り残しがないか目を皿のようにして探した。
「お待たせ。」
ふてくされた背中は、今か今かと待ちわびたようだった。
「誰のお陰で、オレが掃除したと思ってるんだよ。」
「誰かな?」
ニヤニヤと意地悪く笑うこいつを、泡を手の上に広げて背中から洗ってやる。
さっきまでオレの中に入っていたそれも丁寧に洗う。
わかってはいたが、また元気になる。
洗い流しながら、オレはそれを口にくわえた。
こいつも、手に泡を広げてオレの身体を撫でる。
お互いに泡だらけになりながら、身体を擦り合わせる。
「怒ってるかい?」
「呆れてるだけ、次から気をつけてくれ。」
「わかった。」
対等な立場のこの時間だけは、オレも心が安らぐ。
そり立つお互いのそれをすり合わせながら、オレの後の穴は侵入を期待した。
オレも人のことは言えない変態だ。
その日は風呂場で2回で終わった。
ふやけた手足が面白いと、2人でシワシワな手を見合った。
そのままオレは自室に戻り、まだ高揚しつつも疲れた身体を糊のきいたシーツにうずめた。
肌にひんやりと気持ちが良く、そのまま夢の中へと誘われた。
オレ達の日常はこんなものだ。
平和で穏やかで、臭いものには蓋をして。
オレも、あいつが好きで、あいつも、オレが好きだ。
それだけあれば満足だし、それ以上はいらない。
この先、何が起こるか皆目見当もつかないが、願わくは爺になるまでこうしていたい。
やっぱり、そんなことは無理だったらしく、嵐はやってくるのだった。
とぅー びー こんてぃにゅぅ
2007/05/16up
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