セントラルから「イシュバールの英雄」(表向きは)が異動してくると噂が飛び交ったのはかなり前のことで…僕のところにその噂が来たのは異動当日だった。
その日は朝から騒がしくて、普段は閑静な司令部内がどよめきだっていた。
午後、もうすぐ到着と玄関先、2階の窓には司令部内のほぼ全員の人間が集まったのではないかと思われるほどだった。
「フェリー伍長、どうしたそんな呆けた顔をして。」
どうしてそんなに騒がしいのかと、疑問に思いながらも黙々と仕事をしていたときだった。
上官が声をかけた。
「なにやら、外が騒がしいですね。」
呆れるような顔をして上官は僕を一瞥し、廊下へと目をやった。
「フェリー伍長。仕事熱心なのはいいが、もう少し世間の情報を感知する力を持った方がいいぞ。」
そういうと、そそくさと廊下へ出て行った。
この部屋に、独りになってしまった。
何が起こっているのか興味がないわけではないけれど、仕事をサボるまではない気がしていた。
「なんだ、まだここに野次馬しねーヤツがいたよ。」
タバコをふかした金髪頭。
「軍曹…。」
怪訝な顔をしていた僕をみて、ニヤッと笑った。
「行こーぜ、とびっきりの美人が来るって話しだ。」
人懐っこい顔をして、僕の腕を軽々とひっぱった。
「ジャン、何やってんだよ。遅せーよ。」
「悪りぃ、悪りぃ。野次馬やんねぇ、真面目ちゃんを引っ張り出してきた。」
僕のことなど誰も気に留めず、全員の視線は外へ向けられた。
何の行列かと思うほどの、車の数。
これじゃ、誰がその「イシュバールの英雄」なのかはわからないし、とびっきりの美人もわからないだろう。
車がとまった瞬間、何処からその波が押し寄せてきたのだろう、軍曹がせっかく窓際に引き連れてくれたにもかかわらず、僕は窓とは反対側の壁に背中をぶつけた。
窓から離れる直前に見たのは金髪の頭。
綺麗に赤茶の髪留めで束ねられていた。
そこだけ空気が違ったように見えた。
その日は、1日中そわそわしていた。
東方司令部奮闘記
3月18日
喧騒から丸3日。
浮き足立った東方司令部内は、色々な噂話で持ちきりだった。
僕といえば、割にというか、ジャン・ハボック軍曹が噂を持ってくる。
専ら、リザ・ホークアイ中尉の事だ。
やり手の美人。
でも、プレイボーイのロイ・マスタング大佐は手をつけていないとのこと。
ゴシップは大量だった。
しかし、まだ噂の大佐と中尉の姿は見たことなかった。
(いや、中尉と思われる人の後頭は見た!)
突然、内線が掛かかる。
内容は交換機の調子が悪いので直してくれというものだ。
以前、困っていたところに遭遇し、手を貸したことが原因。
あれ以来、機械モノの修理などは専門にではなく、ボクに回ってくる。
「だって、すぐに直しに来てくれるじゃない。」
確かに、仕事は淡々とした事務仕事。
上官もこのことを知っているので、目を合わせるとあごドアに向けてくれる。
うれしいやら、かなしいやら。
時々、入る部署を間違えたか?といやみを言われる。
修理中、ふと息をつくと見慣れない上官がこっちを見ていた。
コートを羽織っていたので、階級はなぞ。
もし、羽織っていなかったとしても、ここからではボクの視力では見えない。
気にしないようにして、修理を続行する。
道具を片付け終わると、その上官が目の前に立っていた。
驚いて一歩下がると、不敵な笑みを浮かべた。
「名前は?」
その上官は、とても綺麗な顔をしていた。
見慣れない顔だ。
よく考えてみると、出会った上官は数えるほどしかいない。
体勢を直して、敬礼する。
「は、ケイン・フェリー伍長であります。」
「ふむ、」
それだけ聞くと、その上官は踵を返し、立ち去った。
3月21日
18,19日は非番。
事務方なので、土日休み。
ありがたい限りだ。
平日の鬱憤を土日に発散する。
すっきりした気持ちでまた新たな週を迎える。
向かえる予定だった。
朝一で東方司令部本部に出向くように上司から言い渡された。
行くと、一番最後だったようで見慣れない上官が既に横1列に並んでいた。
「遅くなりました!ケイン・フェリー伍長入ります。」
敬礼して入る。
声が震えていなかったか心配したけれど、何とか言えた。
目の前にいるのは金髪の綺麗な人。
先日、見た金髪…その人だった。
リザ・ホークアイ中尉。
僕らの後ろの時計を一瞥し、手元のファイルと確認し、ドアを見た。
まだ、いるようだ。
大きな足音とともに、勢いよく金髪の…ジャン・ハボック軍曹が入ってきた。
冷たい視線をその遅れてきた騒がしい軍人に送ると、静かに言った。
「ロイ・マスタング大佐がお見えになるまでもう暫くお待ちください。」
暫く待つと、…
…あの時の、上官…。
「おはよう。諸君。私はロイ・マスタング。地位は大佐。今日から君たちは私の部下だ。」
そう言うと、1人ずつじっくり顔を見るとゆっくりと椅子に腰をかけた。
あの時はよく顔を見なかったけれど、たいそう綺麗な顔をしていた。
「イシュバールの英雄」本当にそんな肩書きを持ち、大佐まで上り詰めた顔なのだろうか…。
見つめる眼は鋭いが、どこかやさしい。
「それでは、諸君また明日。」
ものの数分ほどだっただろう。
ゆっくりと“大佐”という威厳をみせ、立ち去った。
ボク以外の面々は、緊張の面持ちをちっとも見せていないようだった。
特に、金髪の問題児は。
この人事は何を理由に行われたのだろう。
僕の例から行くと、皆ロイ・マスタング大佐と接触を持ったのであろうか…。
おめがねにかなった??
その後、あわただしく人事異動の辞令を受け、引継ぎをした。
夕焼けが眩しい。
綺麗な紅が入ってきている。
明日から、ここで働くのか。そうおもうと、うれしくなった。
異例の大佐の異動。
綺麗な机に、張り替えられた壁紙。
「明日からよろしくな。」
ドア口で突っ立ってたボクの頭が何かに小突かれた。
後ろを向くと金髪。
ボクと頭二つは違うだろう。
「よろしくお願いします。」
人懐っこい笑顔をすると、ここが自分の席だといわんばかりに、まだ何も置かれていない机の塊のひとつに荷物を置いた。
置かれた荷物の中から、仕事とはおよそ関係ないだろうというものが覗いている。
早々と壁側のロッカーも、自分のものと荷物を入れだした。
ぼくは、それとは離れた位置に荷物を置いた。
荷物はまったく対照的で、必要最低限のものしかない。
軍曹のは必要のないものの方が、多いのではないかと思うほどだ。
「お、一番乗りかと思ったのによぉ。」
大柄の、…確かハイマンス・ブレタ准尉。
「もう、席きまっているのか?」
「いいや、好きなところに荷物を置いただけだ。」
「じゃ、ここにしようか。」
ボクの前に准尉は荷物を置いた。
「よろしく。ハイマン・ブレタだ。」
「よろしくおねがいします。ケイン・フェリーです。」
どうも、准尉と軍曹は顔見知りのようだ。
後は、ボクの左側だけだ。
よくみると、隣の机にはもう既に誰かが座ったあとがあった。
何も置かれてはいないが、人がいた気配がした。
業務時間は既に終了している。
荷物だけ置いて、まだ引継ぎをしているのかもしれない。
新しい空気に緊張しつつ、明日からが楽しみに思えた。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
階級とかわからないので覚書
【将軍】
大総統
大将
中将
少将
准将
【士官】
大佐:ロイ・マスタング
中佐
少佐
大尉
中尉:リザ・ホークアイ
少尉:ジャン・ハボック/ハイマンス・ブレタ
【下士官/兵】
准尉:ヴァトー・ファルマン(ヴァトーさんだったの…)
曹長:ケイン・フェリー
軍曹
伍長(映画では最下位まで転落していたんですね。それなのに無駄に偉そうだった…)
●ロイ・マスタング
東方司令部への異動時に中佐から大佐
●リザ・ホークアイ
同上時に少尉から中尉
よくわからないから捏造
上記2名の東方司令部入り直後
●ジャン・ハボック
軍曹(ロイとの相性が良かったのかグングンと昇進)
●ハイマンス・ブレタ
准尉
●ヴァトー・ファルマン
曹長
●ケイン・フェリー
伍長
2007/04/10up
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